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72 思い出 ②
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ミハイルが片付けをしてくれているので、先にお風呂に入る。
(はあ、今日は色々あったな・・・)
王子様にプロポーズされ、家からは出してもらえず、ビーフシチューを作った。
ミハイルといる時間が濃くなって行く一方で、自分の気持ちは締めつけられていく。
(信じて貰えるまで、好きって伝えよう)
ミハイルだって今まで頑張ってくれた。
今度は私が頑張る番・・・
(伝える度に、悲しい顔させるんだろうな)
この気持ちを信じてもらえた時に、やっと自由が増えるのだろうかと思いながら、湯船から出ている指輪を眺める。
「笑顔が、見たい・・・」
お風呂からちょうど出たところで、扉がノックされる。
タオルだけ体に巻き付けると、扉を開けた。
「なに?ミハイル」
「・・・!!」
真っ赤な顔で、目を泳がせながらもしっかりと見られている。
「風呂が、長かったから・・・のぼせてないか心配で・・・」
ミハイルの手には水の入ったコップがあったので、受け取り一気に飲み干した。
目の前から食い入るような視線を感じるが、気にせず戻る。
「お水ありがとう。じゃあ」
「その!髪を・・・乾かしたい」
閉めようとする扉に割って入ってくると、そのまま洗面台の前に私を挟むように座った。
「じゃあ、お願いするね」
優しく丁寧な手つきで髪を乾かしてもらいながら、化粧水などを塗り終えると、笑顔で私を眺めているミハイルに話しかけた。
「嬉しそうだね」
「ああ、マールがこうして僕の家で過ごす姿が見られて嬉しい」
「良かったね」
「ずっと、夢だったんだ。昔から」
「昔か・・・ミハイルは小さい頃から凄く努力してたよね。遊ぶ暇無いくらい」
「ああ、昔から君と遊ぶ時間を作れば良かったと後悔していた。だからマールに会いたくて食事会を開いて貰ったんだ」
「そう、だったんだ・・・両親同士の話し合いだと思ってたよ」
「好きな子と遊ぶ誘い方が分からなかったんだ。食事会でやっとマールに会えて舞い上がった僕は、目の前のマールの沈んだ表情に気づかず、たくさん僕ばかり話をしていいたな。それであの時は・・・傷付けた」
「あの事はもういいんだよ、ミハイル。それに誕生日プレゼント、毎年こっそり贈ってくれていたよね」
「そうだな。マールにはずっと嫌われていたから、両親に頼んでマールの好きな物を聞いてもらっていた。本当は物を渡したかったが、食べ物ばかり贈っていた。それも嫌だったと思うが・・・」
いつも両親からの大量のプレゼントの中に紛れていた差出人の宛名が無いプレゼントを思い出す。
プレゼントには罪が無いのでため息をつきながら、渋々食べていた。
それは29歳の誕生日にも贈られて来ていた。
「マールからのプレゼントは本ばかりだったな」
「そうだね・・・」
「マールが選んだ物では無いのは知っている」
彼が王宮に招集されるまでは、とりあえずプレゼントを贈っていた。両親に勧められた通りの本を渡していた。
「それでも、嬉しくて・・・本も毎日読み返していた。毎年増えていく本を楽しみにしていたな。マールの字で書かれたメッセージカードも全て取ってある」
「ミハイル・・・」
「伴侶システムがあってよかった。夢に見ていた君と結婚ができる」
申し訳なさで俯いていると、乾かし終えて髪を梳かすミハイルが優しく頭を撫でる。
「登録したのも、遅くてごめんね。ミハイルは成人してから登録したの?」
「そうだ。親からは早く結婚をしろと言われ続けていたので仕方なくな。ずっと君に告白するきっかけが欲しくて、マールが登録するのを心待ちにしていた」
「かなり待たせちゃったね」
「いいんだ。僕達の相性は100パーセントなんだから。それを知ったときは飛び上がるほど嬉しかった」
「だけど嫌そうじゃなかった?」
「この国に決められたのが許せなかった。マールに負担をかけたくなくてな。君とどんな相性でも、自分からマールに結婚を申し込みたかった」
「ミハイル・・・」
「この結婚のせいで色々大変な思いをさせたな。僕のことも含めて、マールには申し訳ないと思っている」
「そんなこと・・・言わないで。私はミハイルと、相性が100パーセントで嬉しいよ。結婚だって強引に決められたけど、貴方と過ごすきっかけを貰えた。私は・・・今、この国に感謝しているよ。伴侶システムがある国に生まれて、ミハイルと幼なじみで、本当に良かった」
「僕達は生まれた時から結ばれる運命だ」
「そうだね。誕生日も同じだしね」
「僕の運命の人はマール・ダレロワだ」
「私の運命の人はミハイル・エンリーだね」
ミハイルの方に振り向くと、お互いを包み込むように抱きしめる。
(貴方は、私の運命の人・・・)
いつまでも抱きしめていたら、露出している肌を確かめるように撫でられた。
「すまない、長く話しすぎた。湯冷めする前に着替えておいで」
「じゃあ一緒にお風呂入る?」
「なっ・・・それは・・・」
先ほどから、ずっと視線を感じている所に指をさす。
「好き?」
谷間のホクロを見せるように首を傾けた。
目を泳がせ、何度もチラチラと見るので思わず笑ってしまった。
「ふふっミハイル可愛いね」
「いじわるだ」
「ミハイルのものだよ」
ミハイルの手を取ると、指を掴む。
ホクロにちょんと指が触れ、すぐに手を引っ込められた。
「心の準備が出来ていない!」
「ええ・・・あんなに楽しみにしてたのに」
「とりあえず・・・僕は外で待っている!」
一瞬で出ていったミハイルの後ろ姿に、また笑ってしまった。
今日はキャミソールとショートパンツで部屋から出ると、すぐにカーディガンを着せられる。ミハイルは私がカーディガンを着ている姿を気に入ってるみたいだ。
「ありがとう」
「ああ、好きだろう?」
「ミハイルが好きだよ」
「ふっ、そうだな。僕も風呂に入ってくる」
入れ替わるように入っていった扉の音を聞きながら、バルコニーの方へ目を向ける。
カーテンが閉められていて、きっと1人で出るとこが許されないのだと分かった。
(1人にしたくない・・・か)
運命の人と言われてとても嬉しかった。あの時の言葉はお互いの心からの想いだと、受け取っていた。
(結婚しても・・・このまま・・・)
ベットに寝転がり、指輪を見つめる。
(それが・・・私の幸せ。運命の人と一緒に居られるのだから)
「本当に・・・?」
色々ありすぎた体に眠気が襲ってくる。
楽しみにしているミハイルを思い浮かべながら必死に瞼を開ける。
(私が、頑張るって・・・決めたんだから・・・)
何度も眠りに吸い込まれそうになりながら頑張って目を開けていると、お風呂から出た音がした。
(ミハイルの髪、乾かしに行こう)
さっきのお返しのように水を持って扉をノックする。
ミハイルはバスローブの姿で直ぐに出てきた。
「はい、お水。ミハイルの髪乾かすよ」
水を受け取りながら、私の頬を撫でる。
「マール、眠いのだろう。僕はいいから今日は先に寝てくれ」
撫でられる体温に眠りそうになるが、首を振る。
「せめて髪を乾かすよ」
「無理するな、今にも寝てしまいそうだ」
「いいから、こっち」
ミハイルを押しながら、洗面台の前に座らせ、私は眠らないように立って髪を乾かす事にした。
心配そうなミハイルの視線を感じながらも、なんとか奮い立たせる。
(立って動いてたら、眠気も収まってきたな・・・よし、大丈夫)
「ミハイルの髪、綺麗だね」
乾かし終えて、サラリと梳かしながら銀髪を指で掬う。
「ありがとう、マールに乾かして貰えるのはとても気持ちいい」
鏡に映る嬉しそうなミハイルを眺めながら、綻ぶ頬をするりと撫でた。
「顔、とても好きだなあ。紫の瞳は透き通るように輝いてるし、垂れ目の甘い顔立ちも本当に好き」
「唇も柔らかいね。形も綺麗だし、血色もいい・・・ふふっ照れてるんだね。こっちに綺麗な顔見せてくれる?」
真っ赤な顔を私に向けながらも、目を見張っているミハイルに熱い視線を送る。
「全部好き」
言葉を送るように、唇に甘く重ねた。
ミハイルを見つめながら唇が離れると、逃がさないと言わんばかりに襲いかかられそうになるので、抑え込むように後ろから抱きしめた。
「まだ、私の時間だよ。後でミハイルに全部あげるから」
その言葉に大人しく抱きしめられていた。
「マール・・・」
私の体に擦り寄るように甘えるミハイルの頭を撫でながら、髪を耳にかける。
綺麗な耳に顔を近づけると、優しく唇を擦り寄せた。
「好き」
ビクリと体が大きく反応し、こっちを向こうとするミハイルの顎を掴む。
「ダメ、ちゃんと私に好きって言われてるミハイルの顔見てて」
されるがままのミハイルは、瞳が揺れている。
その表情を鏡越しに見ながらピアス穴がある耳たぶに甘く歯を立てた。
「んっ・・・はあ、マール・・・」
ミハイルに聞かせるように柔らかくリップ音を立てて耳にキスをしながら、自分の気持ちを伝える。
「っん、ミハイル好き」
「はあ、好きだよ。ミハイル」
「だいすき」
「んー・・・好き」
ゾクゾクと震えている体は耐えられないのか、前に倒れそうになっているので首を掴んで引き寄せる。
「ンッぐ」
「私から逃げるの・・・こんなに好きだって言ってるのに」
ミハイルは恍惚とした笑顔で動かせない首を振っている。
「ああ、私に繋がれるのが好きだっけ」
キラキラと紫の瞳が輝くので、魔力の鎖をかけた。
ーーーカシャン
ミハイルは嬉しそうに鎖にキスを落とそうとするので、鎖を引っ張る。
「ングッ」
「するなら私にして」
私の方を向くと、とても嬉しそうに唇を重ねようとするので、指で止める。
「ん」
私の気持ちが伝わっているのか、グズグズに蕩けきったミハイルの瞳を覗き込む。
(私を見てる、だけど・・・)
「ふっ、じゃあまだお預けだね」
離れていく私を悲しそうに見つめるミハイルの髪をサラリと撫でる。
「じゃあ、こっちで我慢しよう」
髪を撫でる手を這わせ首筋に指を滑らせる。ゾクゾクと震えるミハイルの瞳を捉えながら、首に近づいていく。
彼が逃げないように、鎖を引っ張り唇へ引き寄せた。
「ンッ」
ちゅっと音を立てて、鏡に映るミハイルを眺める。その表情は私にこれからされることを期待しているみたいだ。
「ふふっ、噛んでほしいの?」
蕩けきった顔で何度も頷いている。
「じゃあお望み通り」
熱くなった肌にゆっくりと歯を這わせるように触れる。肌からの匂いを確かめながら優しく歯を立てれば、体の震えが伝わってくる。
だけど私は跡を残さない。
そっと離れるとミハイルは嬉しそうに首を撫でている。
「噛み跡はないよ」
「いじわるだ」
「ミハイル絶対隠さないでしょ」
「もちろんだ」
満足そうな彼を眺めつつ、鎖を解除する。
「マール・・・」
「じゃあ支度を整えてね。ベットで待ってるよ」
とても寂しそうなミハイルの顔を掴み、ちゅっと唇を重ねると、そのまま捕まえようとする腕からするり抜け出すように部屋を出た。
よろよろとベットに寝転ぶと、もう私の意識は持たなかった。
背中に手がわまり、持ち上げるように強く匂いを嗅がれている。
うっすらと目を開けると、谷間のホクロにミハイルの鼻が埋もれている。
頭を撫でながら、好きにさせていた。
ぼんやりと声が聞こえてくるが、耳には届かず夢の中に落ちていく。
「マール、僕は・・・自信が無いんだ・・・こんなにも君を昔から傷付けて、嫌われて。ずっと君を愛しているのに、上手く伝えられなくて、いつも君を困らせる。そんな僕を愛して貰えるはずがないと、どこかで思っている。魔法にかかった僕となら、マールが傷付かずに僕を愛してくれるのなら、それでいいとも思っている」
「君と夢のような毎日を過ごして、大切に愛そうとすればするほど、君を泣かせてしまう僕は・・・もう・・・マールに選ばれないと」
「本当は・・・僕のもので、あって欲しいのに・・・」
「おやすみ、マール。愛してる」
(はあ、今日は色々あったな・・・)
王子様にプロポーズされ、家からは出してもらえず、ビーフシチューを作った。
ミハイルといる時間が濃くなって行く一方で、自分の気持ちは締めつけられていく。
(信じて貰えるまで、好きって伝えよう)
ミハイルだって今まで頑張ってくれた。
今度は私が頑張る番・・・
(伝える度に、悲しい顔させるんだろうな)
この気持ちを信じてもらえた時に、やっと自由が増えるのだろうかと思いながら、湯船から出ている指輪を眺める。
「笑顔が、見たい・・・」
お風呂からちょうど出たところで、扉がノックされる。
タオルだけ体に巻き付けると、扉を開けた。
「なに?ミハイル」
「・・・!!」
真っ赤な顔で、目を泳がせながらもしっかりと見られている。
「風呂が、長かったから・・・のぼせてないか心配で・・・」
ミハイルの手には水の入ったコップがあったので、受け取り一気に飲み干した。
目の前から食い入るような視線を感じるが、気にせず戻る。
「お水ありがとう。じゃあ」
「その!髪を・・・乾かしたい」
閉めようとする扉に割って入ってくると、そのまま洗面台の前に私を挟むように座った。
「じゃあ、お願いするね」
優しく丁寧な手つきで髪を乾かしてもらいながら、化粧水などを塗り終えると、笑顔で私を眺めているミハイルに話しかけた。
「嬉しそうだね」
「ああ、マールがこうして僕の家で過ごす姿が見られて嬉しい」
「良かったね」
「ずっと、夢だったんだ。昔から」
「昔か・・・ミハイルは小さい頃から凄く努力してたよね。遊ぶ暇無いくらい」
「ああ、昔から君と遊ぶ時間を作れば良かったと後悔していた。だからマールに会いたくて食事会を開いて貰ったんだ」
「そう、だったんだ・・・両親同士の話し合いだと思ってたよ」
「好きな子と遊ぶ誘い方が分からなかったんだ。食事会でやっとマールに会えて舞い上がった僕は、目の前のマールの沈んだ表情に気づかず、たくさん僕ばかり話をしていいたな。それであの時は・・・傷付けた」
「あの事はもういいんだよ、ミハイル。それに誕生日プレゼント、毎年こっそり贈ってくれていたよね」
「そうだな。マールにはずっと嫌われていたから、両親に頼んでマールの好きな物を聞いてもらっていた。本当は物を渡したかったが、食べ物ばかり贈っていた。それも嫌だったと思うが・・・」
いつも両親からの大量のプレゼントの中に紛れていた差出人の宛名が無いプレゼントを思い出す。
プレゼントには罪が無いのでため息をつきながら、渋々食べていた。
それは29歳の誕生日にも贈られて来ていた。
「マールからのプレゼントは本ばかりだったな」
「そうだね・・・」
「マールが選んだ物では無いのは知っている」
彼が王宮に招集されるまでは、とりあえずプレゼントを贈っていた。両親に勧められた通りの本を渡していた。
「それでも、嬉しくて・・・本も毎日読み返していた。毎年増えていく本を楽しみにしていたな。マールの字で書かれたメッセージカードも全て取ってある」
「ミハイル・・・」
「伴侶システムがあってよかった。夢に見ていた君と結婚ができる」
申し訳なさで俯いていると、乾かし終えて髪を梳かすミハイルが優しく頭を撫でる。
「登録したのも、遅くてごめんね。ミハイルは成人してから登録したの?」
「そうだ。親からは早く結婚をしろと言われ続けていたので仕方なくな。ずっと君に告白するきっかけが欲しくて、マールが登録するのを心待ちにしていた」
「かなり待たせちゃったね」
「いいんだ。僕達の相性は100パーセントなんだから。それを知ったときは飛び上がるほど嬉しかった」
「だけど嫌そうじゃなかった?」
「この国に決められたのが許せなかった。マールに負担をかけたくなくてな。君とどんな相性でも、自分からマールに結婚を申し込みたかった」
「ミハイル・・・」
「この結婚のせいで色々大変な思いをさせたな。僕のことも含めて、マールには申し訳ないと思っている」
「そんなこと・・・言わないで。私はミハイルと、相性が100パーセントで嬉しいよ。結婚だって強引に決められたけど、貴方と過ごすきっかけを貰えた。私は・・・今、この国に感謝しているよ。伴侶システムがある国に生まれて、ミハイルと幼なじみで、本当に良かった」
「僕達は生まれた時から結ばれる運命だ」
「そうだね。誕生日も同じだしね」
「僕の運命の人はマール・ダレロワだ」
「私の運命の人はミハイル・エンリーだね」
ミハイルの方に振り向くと、お互いを包み込むように抱きしめる。
(貴方は、私の運命の人・・・)
いつまでも抱きしめていたら、露出している肌を確かめるように撫でられた。
「すまない、長く話しすぎた。湯冷めする前に着替えておいで」
「じゃあ一緒にお風呂入る?」
「なっ・・・それは・・・」
先ほどから、ずっと視線を感じている所に指をさす。
「好き?」
谷間のホクロを見せるように首を傾けた。
目を泳がせ、何度もチラチラと見るので思わず笑ってしまった。
「ふふっミハイル可愛いね」
「いじわるだ」
「ミハイルのものだよ」
ミハイルの手を取ると、指を掴む。
ホクロにちょんと指が触れ、すぐに手を引っ込められた。
「心の準備が出来ていない!」
「ええ・・・あんなに楽しみにしてたのに」
「とりあえず・・・僕は外で待っている!」
一瞬で出ていったミハイルの後ろ姿に、また笑ってしまった。
今日はキャミソールとショートパンツで部屋から出ると、すぐにカーディガンを着せられる。ミハイルは私がカーディガンを着ている姿を気に入ってるみたいだ。
「ありがとう」
「ああ、好きだろう?」
「ミハイルが好きだよ」
「ふっ、そうだな。僕も風呂に入ってくる」
入れ替わるように入っていった扉の音を聞きながら、バルコニーの方へ目を向ける。
カーテンが閉められていて、きっと1人で出るとこが許されないのだと分かった。
(1人にしたくない・・・か)
運命の人と言われてとても嬉しかった。あの時の言葉はお互いの心からの想いだと、受け取っていた。
(結婚しても・・・このまま・・・)
ベットに寝転がり、指輪を見つめる。
(それが・・・私の幸せ。運命の人と一緒に居られるのだから)
「本当に・・・?」
色々ありすぎた体に眠気が襲ってくる。
楽しみにしているミハイルを思い浮かべながら必死に瞼を開ける。
(私が、頑張るって・・・決めたんだから・・・)
何度も眠りに吸い込まれそうになりながら頑張って目を開けていると、お風呂から出た音がした。
(ミハイルの髪、乾かしに行こう)
さっきのお返しのように水を持って扉をノックする。
ミハイルはバスローブの姿で直ぐに出てきた。
「はい、お水。ミハイルの髪乾かすよ」
水を受け取りながら、私の頬を撫でる。
「マール、眠いのだろう。僕はいいから今日は先に寝てくれ」
撫でられる体温に眠りそうになるが、首を振る。
「せめて髪を乾かすよ」
「無理するな、今にも寝てしまいそうだ」
「いいから、こっち」
ミハイルを押しながら、洗面台の前に座らせ、私は眠らないように立って髪を乾かす事にした。
心配そうなミハイルの視線を感じながらも、なんとか奮い立たせる。
(立って動いてたら、眠気も収まってきたな・・・よし、大丈夫)
「ミハイルの髪、綺麗だね」
乾かし終えて、サラリと梳かしながら銀髪を指で掬う。
「ありがとう、マールに乾かして貰えるのはとても気持ちいい」
鏡に映る嬉しそうなミハイルを眺めながら、綻ぶ頬をするりと撫でた。
「顔、とても好きだなあ。紫の瞳は透き通るように輝いてるし、垂れ目の甘い顔立ちも本当に好き」
「唇も柔らかいね。形も綺麗だし、血色もいい・・・ふふっ照れてるんだね。こっちに綺麗な顔見せてくれる?」
真っ赤な顔を私に向けながらも、目を見張っているミハイルに熱い視線を送る。
「全部好き」
言葉を送るように、唇に甘く重ねた。
ミハイルを見つめながら唇が離れると、逃がさないと言わんばかりに襲いかかられそうになるので、抑え込むように後ろから抱きしめた。
「まだ、私の時間だよ。後でミハイルに全部あげるから」
その言葉に大人しく抱きしめられていた。
「マール・・・」
私の体に擦り寄るように甘えるミハイルの頭を撫でながら、髪を耳にかける。
綺麗な耳に顔を近づけると、優しく唇を擦り寄せた。
「好き」
ビクリと体が大きく反応し、こっちを向こうとするミハイルの顎を掴む。
「ダメ、ちゃんと私に好きって言われてるミハイルの顔見てて」
されるがままのミハイルは、瞳が揺れている。
その表情を鏡越しに見ながらピアス穴がある耳たぶに甘く歯を立てた。
「んっ・・・はあ、マール・・・」
ミハイルに聞かせるように柔らかくリップ音を立てて耳にキスをしながら、自分の気持ちを伝える。
「っん、ミハイル好き」
「はあ、好きだよ。ミハイル」
「だいすき」
「んー・・・好き」
ゾクゾクと震えている体は耐えられないのか、前に倒れそうになっているので首を掴んで引き寄せる。
「ンッぐ」
「私から逃げるの・・・こんなに好きだって言ってるのに」
ミハイルは恍惚とした笑顔で動かせない首を振っている。
「ああ、私に繋がれるのが好きだっけ」
キラキラと紫の瞳が輝くので、魔力の鎖をかけた。
ーーーカシャン
ミハイルは嬉しそうに鎖にキスを落とそうとするので、鎖を引っ張る。
「ングッ」
「するなら私にして」
私の方を向くと、とても嬉しそうに唇を重ねようとするので、指で止める。
「ん」
私の気持ちが伝わっているのか、グズグズに蕩けきったミハイルの瞳を覗き込む。
(私を見てる、だけど・・・)
「ふっ、じゃあまだお預けだね」
離れていく私を悲しそうに見つめるミハイルの髪をサラリと撫でる。
「じゃあ、こっちで我慢しよう」
髪を撫でる手を這わせ首筋に指を滑らせる。ゾクゾクと震えるミハイルの瞳を捉えながら、首に近づいていく。
彼が逃げないように、鎖を引っ張り唇へ引き寄せた。
「ンッ」
ちゅっと音を立てて、鏡に映るミハイルを眺める。その表情は私にこれからされることを期待しているみたいだ。
「ふふっ、噛んでほしいの?」
蕩けきった顔で何度も頷いている。
「じゃあお望み通り」
熱くなった肌にゆっくりと歯を這わせるように触れる。肌からの匂いを確かめながら優しく歯を立てれば、体の震えが伝わってくる。
だけど私は跡を残さない。
そっと離れるとミハイルは嬉しそうに首を撫でている。
「噛み跡はないよ」
「いじわるだ」
「ミハイル絶対隠さないでしょ」
「もちろんだ」
満足そうな彼を眺めつつ、鎖を解除する。
「マール・・・」
「じゃあ支度を整えてね。ベットで待ってるよ」
とても寂しそうなミハイルの顔を掴み、ちゅっと唇を重ねると、そのまま捕まえようとする腕からするり抜け出すように部屋を出た。
よろよろとベットに寝転ぶと、もう私の意識は持たなかった。
背中に手がわまり、持ち上げるように強く匂いを嗅がれている。
うっすらと目を開けると、谷間のホクロにミハイルの鼻が埋もれている。
頭を撫でながら、好きにさせていた。
ぼんやりと声が聞こえてくるが、耳には届かず夢の中に落ちていく。
「マール、僕は・・・自信が無いんだ・・・こんなにも君を昔から傷付けて、嫌われて。ずっと君を愛しているのに、上手く伝えられなくて、いつも君を困らせる。そんな僕を愛して貰えるはずがないと、どこかで思っている。魔法にかかった僕となら、マールが傷付かずに僕を愛してくれるのなら、それでいいとも思っている」
「君と夢のような毎日を過ごして、大切に愛そうとすればするほど、君を泣かせてしまう僕は・・・もう・・・マールに選ばれないと」
「本当は・・・僕のもので、あって欲しいのに・・・」
「おやすみ、マール。愛してる」
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