魔力を持つ人間は30歳までに結婚しないといけないらしい

ここりす

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74 宝物 ①

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雨で濡れてしまったので、帰るとすぐに順番にお風呂に入った。

ミハイルのカーディガンを嗅ぎながら、ソファーで深く沈む。

(辛いな・・・ミハイルもずっとこんな気持ちだったんだね)

痛む心を隠すように、彼の匂いに落ち着く。

じわりじわりと涙が出そうになるのをなんとか引き込める。

(貴方を愛してる・・・のに)

今までミハイルの苦しい顔、涙が落ちそな悲しい顔が思い浮かんでしまう。

(ここで挫けちゃダメ、なんとか・・・)

指輪をしている手をぎゅっと握り、気持ちを落ち着かせる。

「ミハイル、笑って。貴方の笑顔が見たいの」

不器用だけど、私を見て笑う優しい笑顔が好きだった。
いつも私のことばかり見て、それに振り回されるように素直に表情が変わる貴方が愛おしかった。

(貴方が不安なら、私が支えるよ)

私が好きと伝えて思い出してしまうのなら、言葉じゃなくて行動で伝えよう。

宝物のように指輪を眺め、ミハイルを待っていた。



お風呂から出てきたミハイルはどこかぎこちなくて、いつもより少し顔が赤い。

(お風呂のぼせちゃったのかな・・・)

ストンと私の隣に座る。いつもの距離に嬉しくなりミハイルを見ていると、チラリと私を見て沈むように目を伏せている。

気まずい空気が流れているので、なんとか切り替えようと口を開こうとしたら、ミハイルが先に話し出した。その声も表情もとても暗い。

「マール・・・これからも出かける時は僕がそばに居たい」

「分かった。行きたい場所があったら、お願いするね」

「すまない・・・」

ミハイルの方をチラリと見ると、家から出られない私よりも落ち込んでいる。

(はぁ・・・仕方ないな)

「ミハイル、おいで」

膝に来るように、ミハイルを招く。
そこにゴロリと寝転んでもらい、ミハイルの顔をじっくりと眺めた。

「この家に居てくれる方が、安心するんだ」

「分かった、家に居るよ」

下から頬を撫でられ、ミハイルに微笑むと、罪悪感に満たされた表情をする。

「ふふっ、そんな顔しないで。元々女子寮に居る時だって出不精だったし、何か新しい趣味でも始めようかな!」

悲しそうに瞳が揺らいでいるので、今日買った本を取ろうとテーブルに手を伸ばすと、ミハイルの顔の上にぽよんと胸が乗った。
気にせず本を取り、ミハイルの顔を見るとさっきの表情は消え、紫の瞳に輝きが戻ったのでそのまま乗せることにした。

「はい、好きにしていいよ」

埋もれるミハイルを気にせず、本をパラパラとめくる。

(うーん、これから部屋で出来ること・・・)

熱い息を感じながら、完全にミハイルの顔に乗っかっている。重さが無くなり楽だと思いながら本を読んでいたら、ミハイルがパタリと動かなくなってしまい、慌てて離れた。

「ごめんね!?大丈夫!?」

やっと息ができるようになったミハイルは、真っ赤になりながら満面の笑みだ。

「ああ、僕の居場所はここだ」

「良かったね」

「マール・・・」

次はお腹に埋もれながら甘えるミハイルを撫でて、部屋を見渡す。

これからも家に居るとなると、することもないのでせめて料理をしようと思い、繋いで貰った棚の方を見た。

「ミハイル、1回退いて貰ってもいい?」

埋もれながら首を振っている。

「あっちの本取りたいの、すぐ戻ってくるから」

「なんの本だ」

「これから料理をしてみようかなと思って、料理本見たいの」

指をパチンと鳴らすと料理本が飛んでくる。

「嘘でしょ・・・ありがとう」

手元にやってきたキラキラと魔力で浮いた本を受け取る。もう彼の魔力のことには触れない事にした。

「じゃあ僕も趣味を増やそう」

もう一度指を鳴らすと、前に私が読んでいたマッサージの本が飛んできた。

膝枕をされながら凄いスピードで読んでいるミハイルが視界の端に映りつつ、料理本を読む。

(1人で作るとなると、とりあえず簡単な物から・・・)

「どれも美味しそうだけど、最初は煮るか、焼くかだなあ」

「どんな料理でもマールが作ってくれるなら、僕は喜んで食べる」

本から目を外し、キラキラと目を輝かせているので、そのおでこにキスをする。
本をパタンと閉じると、キスをされるのを待っているかのように目を瞑ってしまった。

(軽いつもりでしただけなのに・・・だけど笑顔だからいっか)

待ち望んでいる唇に、ちゅっとキスを落とす。離れるとそのまま唇についてくるかのように起き上がり、口を塞がれた。

「待っんんっ」

「僕の趣味はマールだ」

またすぐに口を塞がれ、彼の唇を受け止めていた。

「んっ、みはぃんっ」

「はぁ、マール・・・口開けて」

さっきの表情から元に戻ったミハイルに安堵しながら、彼が満足するまで舌を絡め合う。私はその背中を優しく撫でた。



早速今日から夕食を自分で作る事にした。
悪戦苦闘しながら作る姿を眺めているミハイルの顔はニコニコと笑顔だ。

(良かった・・・)

ミハイルの笑顔に見蕩れていたら、少し焦がしてしまう。
ミハイルには手伝わないでと強く言ってるので、見守ってくれているみたいだ。

「あー、やっちゃった・・・」

「美味しそうだ。一所懸命に頑張るマールはとても可愛い」

「ふふっ、ありがとう」

ミハイルは私を褒めるように頭を撫でる。

その手に嬉しくなり、振り返ってミハイルを抱きしめた。大切に抱きしめ返してくれる彼の腕の中で、愛おしい感情に満たされる。

(貴方が、好きだなあ・・・)

食卓で寄り添い合いながら、崩れて少し焦げてしまった料理を食べ、ミハイルと一緒にいる時間を楽しんだ。

(こんなにも喜んで貰えるなら、これから料理を頑張ってみよう)


今日は早めにベットに入る。ミハイルが早速マッサージしてくれるというので、ベットに寝転びながら彼に体を預けた。

手からゆっくり揉みほぐされていき、その指の動きはとても気持ち良かった。

(きもちいい・・・すぐに寝ちゃいそう)

「マール、こっち」

彼の膝の上に頭を乗せると、揉みほぐされる。

「とても、きもちいい・・・」

初めてミハイルにマッサージをしてもらい、彼に解されいく体は眠気を誘う。

うっすらと目を開けると、優しい顔をしたミハイルがいた。

(好き・・・)

「ミハイル・・・」

彼にキスをして欲しくて、視線を送る。
照れるように私を見ると、甘く優しい唇が触れた。

(大好き・・・)

首や肩を解したあと、足を揉みほぐされている。どこも凝っているのか、血行が良くなり体がポカポカとしている。もう夢に引き込まれそうだ。

「マール、寝ていい」

「んー・・・」

ミハイルに抱きしめて欲しくて、両手を広げる。

足をそっと置くと、私の元にきて優しく撫でながら抱きしめてくれる。

「このまま一緒に寝よう。おやすみ、マール」

「ん・・・」

ミハイルの体に擦り寄り、匂いを吸い込むと深い眠りについた。

(夢でも貴方と会えますように)
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