鎖血のタルト 〜裏切られた王女は復讐をやめた〜

狐隠リオ

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第六話 幼馴染

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 そんなタイミングで奴は現れた。

「あー、先に食べちゃったのかよー。少しくらい待ってくれても良いじゃんか!」
「うるさい、初日から調子に乗るな友達」

 理不尽な事を言いながら現れたのは涼樹だ。こいつもこいつで真王と同じくらい距離の詰め方がとんでもない速度だよな。

「寝てるオマエが悪い。怒られて当然だ」
「ちえー」

 口を尖らせながらも躊躇う事なくオレの隣に座る涼樹。
 別に気にはしないけど……もういい、こいつの事は色々と諦めよう。こういう人種なんだ。
 彼が選んだ料理は……肉だな。
 豚バラ肉の生姜焼き、トンカツ一枚、メンチカツ二つ、唐揚げが山盛り、お米は特盛り。

 ——うわぁ。
 肉と揚げ物と米。野菜食べろよ……。

「涼樹。たくさん食べるのは良い事だと思うけど、少しは野菜も食べろ?」
「えー、でもさー」
「でもじゃない。身体に悪いぞ」

 健康に必要なのは運動、睡眠、そして食事だ。量に関しては個人差があるから何も言わないけれど、バランスに関しては言わせてもらうぞ。
 肉は身体に大切。お米だって大切なエネルギー源だ。脂だって全否定するつもりはない。だけど野菜からしか得られない栄養もある。身体作りに重要なこの時期にバランスの悪い食事をするのはダメだ。見逃せないぞ。

「ぷっふふふっ」
「……なんだよ真王」
「だってー、タルタルにはそれを言う資格ないんじゃないかなーって」
「……」

 それはそう。
 なんせ今日のオレのランチはデザートオンリーだからな。思わずこぼれた真王の笑みが聞こえるのと同時に、こうなる事はわかっていた。
 しかし問題はない。既にオレは食事を終えた後、証拠なんて残っていない。真王の証言を涼樹が信じるかは五分五分だ。

「真王? もしかしてマッオマオか?」

 ……あっれー? もしかして、知り合いなのか? さっきまでそんな雰囲気皆無だったじゃないか。こんなの詐欺だ。遺憾遺憾。

「おっひさー。わっちゃだって気が付かなかったんだー。ひっどーい」
「その謎呼び、間違いなくマッオマオだな! 久し振り!」

 きょとんとした表情を浮かべた後、心から嬉しそうな笑顔を見せる涼樹。

「二人とも知り合いだったんだな」
「そーだよー。小さな頃は同じ壁国に住んでたんだー。リヨリヨも来てたんだねー」

 一緒に居たのが小さい頃ならば、すぐにわからなくても不思議じゃない。
 男子である涼樹の事はまだしも、女子の数年は印象が大きく変わるからな。真王の容姿なら尚更だ。
 これは涼樹も異性として意識してしまうのではないか?

「ああっ一ヶ月前からな!」

 ……良い笑顔だ。そんな気配はなかったな。

「ほー、全然気が付かなかったー」
「えっ、オマエそうだったのか?」
「あれっ、言ってなかったっけか?」
「聞いてない」

 オマエも二年からの途中組だったのか。そんな話は聞いてない。……いや、別に知らなくても問題ないといえばないけど……まあいいか。

「わっちゃは七年前からここにいるからねー。本当に久しぶりだー」
「七年前っ!? それってつまり建国初期から住んでたのか!?」

 真王の言葉に思わずオレは叫んでいた。
 本来ならありえないペースで急成長した壁国ホムラフェルファ。その歴史をその目で見ている少女の存在は、オレの中で衝撃的だった。

「んー、そだよー。本当に凄い国だよねー。元々は内乱から逃げ出した人たちの集まりだからねー。それが元の国を遥かに超える技術を確立させるなんてねー。本当に幸せ者だよね」

 幸せだと語る少女。しかし、その目は何処か濁っているように見えた。
 ——逃げ出した先で幸せになった。純粋な笑みでの言葉ではなく、濁った瞳での言葉。それなら聞かない方が良いんだろう。家族は今どうしているのかは。

「この国はねー、卒業した魔装師たちによって国内の治安維持されてー、外部からの侵略行為からも守られているんだよー。戦うのは怖いけどー、でも、みんなの役に立ちたいもんねー」

 さっきまでの濁りが消えた瞳。眠たそうな表情のまま、だけど声は少し真剣な想いが籠っているように感じられた。
 戦いが怖い。それは本当なのだろう。だからそれが迷いになっているのだろう。だけど彼女は進もうとしている。自分で決めた道を、人間の道を。

「真王は凄いな。オレには真似出来ない」
「えー? どうしてー?」
「タルトだって魔装師になるために来たんだろ? 同じじゃんか!」
「全然違う。オレのは惰性だ。こいつがあるから、外に理由を求めた結果が今だからな」

 任務のために、不自然なくここの生徒になるために与えられた二つの魔装具を見つめながらオレは独白する。
 今までの努力を否定する気はない。無意味だったとは思いたくない。だけど結果的にオレは目的を失ってしまった。

 両親の事は今でも大切に思っている。愛しているって胸を張って言える。……だけど、復讐する気になんてなれなかった。悪いのは……私《・》たちだから。

「それを言ったら俺も似たようなもんだな。やりたい事があって残ってたけど、結局何も出来ずに魔装具を手に入れて、それでここに来た。まあ、正直俺らしくなかったなって思うし、これでよかったと今じゃ思ってるけどな!」

 涼樹には似合わない落ち着いた言葉の後、締めに明るく笑っていた。

(……あれ、もしかしてどっちも訳ありか?)

 そんな気しかしない。具体的にはわからないけれど、二人とも何か心の奥に傷がありそうだと、そう感じた。

 そんな会話をしながらも、いつの間にか二人とも昼食を食べ終わっていた。
 真王はまだわかる。うどんを啜ってる姿を何度も見たからな。しかし涼樹? オマエは一体いつの間に食べたんだ? こんな短時間でなくなる量じゃないぞ!?

 全てを噛まずに飲み込んだ。そう言われればまだどうにかギリギリ目を逸らしながらも納得のようなものを微かにする事が出来る。出来るが……噛めよ!
 野菜を食べない! 噛まない! 早食い! 三重ペケだぞ!

 これは言わねば、仮初の友人だとしても——
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