鎖血のタルト 〜裏切られた王女は復讐をやめた〜

狐隠リオ

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第二十一話 接触

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 学校の二大美少女の一人、羽森撫照。
 長い黒髪をポニーテールにした美少女。

 ピーチみたいな色気増し増しではなく、正統派の美少女だ。
 表情筋はオレの数倍死んでるけど、逆にそれがミステリアスで魅力になっているようにも感じた。

「朝なら話せるかもしれないと思っていましたが、現実になるなんて幸運ですね」
「なんで朝限定?」
「不快に思うと思いますが、いつも一緒に居てくれる大切な友人が貴方の事を危険視しているんです。だからあの子のいない今しかこうして話すのは難しいと思ったんです」
「へえ、なるほどね」

 オレを危険視するか。そいつのセンサーは確実に有能だぞ。
 もし女王様に命令されたらオレは——躊躇いなくピーチと共にこの国を滅ぼすからな。

「それで? 必要ないって何だ?」
「貴方と酒井さんの戦いは見せてもらいました。彼はトップクラスの実力者です。だというのに貴方はほぼ……いいえ、一方的な展開で勝利していました。その実力を疑う事は誰であろうと不可能だと思います」
「そりゃどうも」

 見られていたのは知っている。ラッキーだと思っていたからな。

「手加減していましたよね?」
「……ノーコメント」
「十分です」

 こいつ……。
 いや、慌てる事はない。問題は何もない。
 ただ、オレの中でこいつの注意度が滝登りし続けてるだけだ。

「あの模擬戦は正式な申請によって行われたものです。その勝敗もまた報告する義務があります。本来ならば勝者である貴方が伝えるべき事だったのですが、転校初日ですし把握していないと思い、勝手に代理として報告して起きました」
「えっ、よくわかんないけど助かったって事だよな? ありがとう」
「今回だけです。次からは自分でして下さいね」

 ……よし。酒井をボコそう。
 そんな大切な事をどうして教えてくれなかったんだ? 非は確実に奴だ。だってオレ、そんなルール知らないもん。
 こちとらここに来て初日だぞ!?

「正式な戦いですのでその結果は重要視されます。とくに今回はシングルを相手に勝利していますので、遠くない内に特権を与えられると思いますよ」
「その内じゃ困る。今日から一人部屋に住みたい」
「ルームメイトと合わないという事ですか?」
「そんな感じ」

 同室の三人娘は仲良しトリオだったらしく、オレが部屋に入るなり囲まれたんだ。そして怒涛の質問攻めが始まった。
 こんな遅くまで何をしていたのか。この国に来るまでは何処にいたのか。好きな人は? 彼氏はいる? などなどと無遠慮だった。

 お年柄だし、まあ仕方がないとも思うけど……迷惑ってのが本音だ。

「それなら特権を得られるまで私の部屋に来ますか? 部屋なら空いていますし自由にしてよいですよ」
「えっ、それマジで言ってる?」

 初めて会話した相手を部屋に住ませようとするって、あまりにも無防備過ぎないか!?

「ですが皆さんには内緒ですよ? 特に夜見、天照は過剰反応すると思いますので」
「あー、そいつがオレを危険視してる友人って事か」
「……あっ」

 しまったと言わんばかりに口元を手で塞ぐ羽森。

「あの、その……」
「害する気はないから安心しな。というか、オレってそんな危険なイメージあるのか?」
「そりゃ仕方がねえだろ。人の忠告を無視して有名人に喧嘩を売る奴なんだぞ?」
「うるさい涼樹」

 そういえば居たな。あまりにも静かだから忘れてた。けどまあ、危険人物だよな。客観的に見たらさ。自覚はある。
 だけどそれはあえてだからな? オレ自体は普通……じゃないか。

「……二人は随分と仲が良いんですね」
「友達だからな」
「同郷だったんですか?」
「いや、知らん。友達歴今日で二日目だ」

 驚いている羽森に真実を話せば、彼女はクスクスと笑みを浮かべていた。

「貴方は私が思っていたよりも面白いんですね」
「どんな奴だと思ってたんだ?」
「危険人物に決まってるだろ。そろそろ自覚しろ」
「うるさい涼樹。ぶん殴るぞ」
「ほらっ!」
「黙れっ!」

 鎖でぶん殴りたいところだが、羽森の前でそれはやめた方が良いだろう。拳では威力が足りないだろうし、ならば選択肢は一つだ。
 その場で半回転し遠心力を込めた蹴りを涼樹の頭に向かって振るった。

「危なっ!」
「……へえ」

 戦闘は鎖を使うのがメインで体術はそこまで使わない。それでも素手で敵を制圧出来るくらいの実力はあると自負している。
 戦闘中ではない日常での奇襲。確実に当たると思っていたのに、涼樹はオレの蹴りを平然な顔をして受け止めていた。
 想像以上だな。



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