鎖血のタルト 〜裏切られた王女は復讐をやめた〜

狐隠リオ

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第三十二話 継承者

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「……タルト、知り合いか?」
「知らない。あんな奴、オレは知らない」

 怪訝な表情を浮かべる涼樹。
 そりゃそうだ。知らないならどうしてこんなにもわかりやすく動揺しているのかって、そう言いたいんだろう。

 でも違う。オレは本当にこの女の事なんて知らない。だけど、本能的にわかる。わかるんだ。
 こいつは生きてちゃ駄目だ。絶対に生かしちゃいけない。

 こいつは災いを呼ぶ存在だ。

(落ち着け。落ち着くんだ。オレはもうタルトだ。仕事をしろ)

 この女の正体なんてどうでも良い。
 こいつは涼樹の事を殺そうとした。
 オレに与えられた仕事はなんだ? それは涼樹の護衛だ。
 護衛対象に危害を加えようとしたこの女には、死んでもらわないとな。

「悪い涼樹。もう平気だ」
「……本当か?」
「ああ、この女があまりにも臭くてな。もう慣れた。一緒に殺すぞ」
「タルト……ああ、そうだな」

 魔装具を展開し、下半身の露出が激しいヘソ出し衣装を纏うと、赤髪に向けて鎖を放った。

「鎖? 随分と珍しい武器ですわね」
「喋るな。臭い」
「うふふふふ、随分と必死そうですわね。タルト?」
「——っ、黙れ!」

 涼樹ほどのスピードはないけれど、近接の方がオレはやりやすいし、鎖を活かせる。

「あらあら、スピードは彼ほどではないけれど、随分と身軽ですわね」

 血の刃の隙間を潜り抜けながら鎖を操り、全方向から攻撃を仕掛けるものの、全て血の盾によって防がれていた。

 あの血は赤髪の意志一つで自在に変形する。体術は危険だな。盾で防がれたかと思えば、次の瞬間には棘を生やされる可能性だってある。
 その場から動こうとしない赤髪の周囲を移動し続けながら、オレは鎖で攻撃をし続けた。

 このままじゃジリ貧だ。だけどそれで良い。ここにいるのはオレだけじゃない。赤髪の意識を少しでもオレに向けさせる。それが最善手だ。

「あらあら、これは少々厄介ですわね。タルトが私《わたくし》の注意を引き、生まれた隙を高速の彼が襲撃する。良い連携ですわ」

 赤髪を中心にその周辺をオレが動き回り、更にその外周で涼樹は走り回っていた。
 あいつは攻撃に参加していないがそれで良い。ただ問題なのはこっちの狙いが当然のようにバレている事だな。

 まあ、それすら囮だけどな。

 それにしてもこの女、本当に何者だ?
 歳は確実にオレたちよりも上だろう。あの髪色。何より血を操る魔術。それは母様が使っていた力だ。

 オレが生まれ育った壁国センズファスト。
 国を守護する最大戦力、魔術師たちの頂点であり王。魔王と呼ばれたオレの父様。父様は最も強い魔術師だったけど、母様だって決して劣ってはいなかった。

 血を操る魔術。その力は凄まじく、攻防一体の強力な魔術だった。
 魔術とは継承するものだ。赤髪がそれを使っているという事は、この女は母様の弟子だったのか?

 ……いや、違う。そうじゃない。
 オレに用があると言っていた。こいつはオレの事を知っている。もっと言うならば、こいつは塔怪瑠海を知っている。
 母様から聞いた事はないけれど、おそらくはそうなのだろう。髪の色だけじゃない。あの女の顔には……母様の面影があった。

 奴の正体。
 それは、オレの姉だ。

「うふふふふ、楽しい一時ですわね。ですが、そろそろ終わりにしましょう」

 穏やかな口調でそう言った瞬間、赤髪は指を鳴らした。
 次の瞬間、地面から無数の赤い棘が生えた。

「「——っ!?」」

 地中からの超広範囲による奇襲だった。

「その装備、随分と丈夫ですわね。貫けないとは驚きましたわ。ですが、捕えましたわよ」

 回避を許さない必中の超広範囲攻撃をその身に受けてしまう涼樹だけど、身に纏っているロングコートの防御性能によって助かっていた。

 しかし地面から生えた無数の血の棘が形状を変え、涼樹の身体にまとわり付く事によって拘束していた。

 何故か、オレにはせずに。
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