鎖血のタルト 〜裏切られた王女は復讐をやめた〜

狐隠リオ

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第四十一話 結英の力

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 叫ぶのと同時にオレたち姉妹は同時に血の魔術を発動した。

「【結英ノ糸】【結英の刃】」

 血の糸を鎖に絡み付かせる事で、合計十本の鎖鎌を制御する。六本の血刃を作り出した雛芽との間に無数の火花が咲いていた。

「うわっ、えぐ」

 互いにその場から動く事なく、鎖鎌と血の刃をぶつけ合う。

「六本で足りるのか? こっちは十本だぞ」
「うふふ、序盤からそんなに飛ばしていて大丈夫かしら?」
「そうだな。久しぶりの全力だし、折角だから飛ばすか?」
「——っ!?」

 前にも言ったけどその場から動かずに鎖だけで戦うのは手抜きの時だ。
 今日は全力でやると決めている。雛芽に向かって走りながら鎖鎌を制御した。

「どうしたどうした! 後手に回ってるぞ!」
「くっ」

 姉上は随分と苦しんでいるようだな。
 オレは復讐のために力を磨き続けていた。化物みたい奴らを相手に経験を積み続けた。

 対してアイツは魔術に性能に、己の才能に驕ったんだ。
 普通あれだけの強さがあれば強者だ。早々劣勢に陥る事はないだろう。

 だけどそれじゃあ足りない。自重を捨てたオレの相手じゃない!

「どうした! 終いか!?」

 四方八方から鎖鎌で襲い掛かりつつ、手に持った鎌を振う。

「くっ!」
「ほら上、危ないぞ」
「はっ!」

 真上から四本の鎖鎌を振り下ろした。
 両腕を振り上げて血の盾を張るけれど、意識をそっちに向け過ぎじゃないか?

「一本」

 鎌が更に赤色を纏い、鋭く振るわれ、腕が飛んだ。

「きやああああああっ」
「早く傷口に意識を向けないと死ぬぞ? まあどうせ殺すけど」

 魔術の制御が崩れ、刃となっていた血が液体に戻り地面を濡らす。
 斬り落とされた左腕の傷口を必死に抑えている雛芽。

「なぜ、なぜなぜなぜ! どうしてそれほどの魔術を!」
「単純にオマエの魔術が下手なんだよ。血を操れるからといって血だけで戦うなんて非効率過ぎる。オマエは血そのものを武器にしてるけど、オレは血を第三の腕として使ってる」

 血で刃を作って操るより。元々ある刃を血で握って振う。その方が圧倒的に必要な血液量は減る。放出する血を節約出来れば体力低下のリスクを避ける事が出来、慣れれば更に複数の武器を握る事だって出来る。

「戦闘に対する意識の差。それがこの結末だ」
「こんな……こんな……私《わたくし》がこんな……」

 腕を斬り落としたんだ。傷口が広過ぎて攻撃のためた血を操作するのは無理だろう。そういう訓練をしているならまだしも、そんな狂気的な訓練は普通しない。

「俺の出る幕なしじゃん」
「いや、オマエのおかげだよ。オマエがオレを受け入れてくれただろ? それが嬉しくてな」
「……な、なんだよそれ」

 精神状態は強さに深く関わる。
 元々は涼樹に拒絶された後に戦う予定だったからな。もしそうなっていたらここまでの力を引き出す事は出来なかった。
 具体的に言うなら、血を使ったとしても操れる鎖鎌の本数は全部で四本くらいになっただろうな。
 それが本番では真逆。最高の精神状態で戦えた。

 それに戦ってて思った事がある。これは一昨日も受けた印象だけど、雛芽は戦闘慣れしていない。
 強者として生まれてしまった事による驕り。経験不足だ。

「どうする? トドメ刺すか? こいつは完全に黒だぞ」
「……お前の姉なんだろ?」
「今まで会った事ないし、しかも初対面の妹を実験材料にしようする外道だぞ? 痛む胸は欠片もないな」
「……そうだな」
「おい。何処を見てる」

 女はそういう視線に敏感だぞ。まあ、今のは視線を誘導されても仕方がないという事にして許してやろう。

「塔怪雛芽。最後に言い残す事はあるか?」
「……私《わたくし》は……私《わたくし》は……」

 血を止めるのに必死でそれどころじゃないみたいだな。
 一瞬の痛みなら平気でも、傷そのものを治す事が出来ていない以上、痛みは継続だ。もしかするとここまで長く痛みに苦しむのは初めてなのかもしれないな。

「涼樹。楽にしてやれ。それとももっと痛め付けてから殺すか?」
「タルト……お前に人の心はないのかよ。流石に引くぞ?」
「復讐に取り憑かれた奴の思考なんてそんなもんだろ? いかに苦しめて殺すか。その事ばっかり考えてたからな。オマエは違うのか?」
「……一緒にするな」

 えっ、マジ?

「塔怪雛芽。その痛みがお前の罰だ。もう、楽にしてやる」

 涼樹がロングソードを振り上げた瞬間、雛芽が顔を上げた。
 そして、口を開く。

「【結英の奴隷】」
「「——っ!?」」

 それは聞いた事のない術名だった。
 笑みを浮かべながら発動された術に脅威を感じ取り、オレたちは即座に距離を取っていた。

「タルト、効果は!」
「知らない! ただ魔術は術名通りの効力を発揮する!」

 雛芽の使った術の名は[結英の奴隷]だった。奴隷……嫌な予感がする。

「命令よ。自害しなさい」
「「——っ!?」」

 背筋が凍った。
 術名。奴隷。命令。まさかこれは他人の身体を操る魔術!?
 他者の血を操作し、その肉体を操る? 原理はわからないけど、やられた!

「うふふ、うふふふふ、私《わたくし》は支配者。誰も私《わたくし》に逆らう事は出来ないのよ。……だけど咄嗟だったから勿体無い事をしたわね。死体でもある程度は利用価値があるけれど……まさか腕を失うとは……はあー、戦いだなんて慣れない事をするものではありませんわね。それにどうやって死体を運ぼうかし、ら……え?」

 ずっと俯きながら喋っていた雛芽が顔を上げた。
 
 ——そしてオレたちと目が合った。

「ど、どうして死んでいないのよ!」
「……と、言われても……」

 取り繕う事なんて全く出来ずに慌てふためいている姉上。

 思わず視線を逸らすと涼樹と目が合った。なんだこれ、気まず。

「どうして私《わたくし》の魔術が! 命令よ自害しなさい!」
「「……」」

 何も起こらない。どういう事だ?
 魔術が失敗した? 傷のせいで上手く出来なかったのか?
 もしかすると、オレも結英の、血の魔術が使えるからか?

 オレに通じなかったのはそういう理由だとして、涼樹はどうして? ……異常な身体能力が魔術を超えたとかか? ちょっとありそうで怖い。

「涼樹」
「ああ」

 再びロングソードを振り上げる涼樹。
 次の瞬間、雛芽の姿が消えた。

「「——っ!?」」

 なんだ今の! 何処に行った!?
 周囲を見渡しても雛芽の姿はなかった。高速移動? いや、血の魔術にそんなものは……。

「涼樹。何か見えたか?」
「……ああ、見えた」
「——っ!」

 あんな速度で動けるからな。そりゃ動体視力もずば抜けているだろう。

「何が起きた?」
「あいつの足元に赤色が広がったかと思えば、沈んだんだ。まるで呑み込まれるみたいにな」
「赤色……血か」

 血の魔術による離脱か。そんな裏技を温存してるなんてな。

「くそっ、そんな手を隠し持っていたのか」
「いや、違う」
「なんでだよ」
「あいつ自身も驚いてたんだ。だから第三者の介入だ」

 拳を強く握り締める涼樹。
 雛芽を取り逃したんだ。悔しいのだろう。だけど、それ以上に……血の魔術らしき技を使った第三者。そんなの、一人しかいない。

「……オレの事は見捨てたくせに、アイツの事は助けるんだな」
「タルト……」
「ばーか、そんな顔すんな。言ってみただけだよ」

 オレを救ったのは女王様の人形の一人。
 そしてオレも女王様の人形となった。
 母様に救われた未来。もしもそんな世界線があったのだとすれば、きっと……オレも雛芽のようになっていたんだろうな。
 ふと、そんな事を思った。

「帰るぞ」

 周囲から敵意や殺意は感じない。完全に逃げたようだ。鎖鎌を指輪の中に戻し、武装を解いた。

「ああ」

 こうして雛芽との戦いは一先ず幕が降りた、
 逃げられてしまったけれど、ダメージは与えた。
 それに……収穫はあった。

「涼樹」
「なんだ?」
「これからも友達としてよろしくな」
「……ああ、よろしく」

 女王様。
 どうやら償いは別の形になりそうです。
 だから、もう少しだけオレは生きようと思います。
 貴方様の人形として。
 そしてタルト・ドルマーレとして。
 
 生きます。

   ☆ ★ ☆ ★
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