フィフティドールは笑いたい 〜謎の組織から支援を受けてるけど怪し過ぎるんですけど!?〜

狐隠リオ

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第二章

第六話 秩序

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「本来ならば知られる事すらアウトなのじゃが……既に名称まで知っているようじゃし、今更じゃな」

 疲れた顔をして深く息を吐くロロコ。苦労してるんだね。

「全く、なのの奴は何を考えておるのじゃ。それは禁止事項に触れているはずなんじゃがな。しかしアヤツが意味もなく……ゼロではないかの」

 なのに襲撃された時、彼女はロロコに対しての不満を数々と口にしていた。
 なんだか話を聞いていると、なのが一方的に迷惑をかけられているわけじゃなくて、お互いに色々とやらかしているというか、相性そのものが悪いんじゃないかな。

「えーと、お疲れ様?」
「……まあ良い。さて、オヌシに魔纏を教えなかった理由に関してじゃが、シンプルじゃ。知るべきではない力じゃからじゃ」

 なんとなくだけどロロコの言いたい事がわかった気がした。
 知るべきではない力。知る事のないはずの力。

「ワシは環境と人材をオヌシに提供し、それを糧にする事で春護は通常を遥かに超える速度で力を身に付けるに至った。しかし、その中で得た力は魔装騎士としての範疇じゃ」
「えーと[花鳥風月]は?」

 俺は無くなった心臓の代わりに魔核を移植する事によって生き残った半人半形。そうして得た力。それが[花鳥風月]だ。
 斬り裂く力[花]。
 自在な高速移動を可能とする[鳥]。
 圧縮した力を解き放ち破壊する[風]。
 そして未知の力で何段階も強くなる[月]。
 これらの力はとても魔装騎士の力の範疇じゃ収まらないと思うんだけど。

「同じ事じゃ。多くの魔装騎士は魔装人形だけでなく魔装具を使う者も多い。魔装具を手にしておるか、それとも身体に埋め込んでいるのか、その差でしかありゃせんよ」
「……え、そうかな」

 魔装具というか魔核を心臓の代わりにしているのって、絶対に普通ではないと思うんだけど。

「ともかくじゃ! ワシはこの壁国内部にある技術の範疇でオヌシを鍛えたという事じゃ」
「……それってつまり魔纏はこの国の技術じゃないから教えなかったって事?」
「その通りじゃ。壁国にはそれぞれの秩序がある。そしてその秩序とは一つの壁国に納まる事なく周辺諸国も巻き込むのじゃ」

 周辺を巻き込む壁国の秩序か。

「人とは知る事で強くなる生命じゃ。それまでなかった技術だとしてもそれを知る事によって何れは習得に至る。そんな可能性の化物に溢れた種族なのじゃ。たった一人の新技術の使い手が現れる事により、その者を有する壁国の技術レベルは一年以内に異常な進化を遂げる事になるじゃろう」
「一年以内? そんな事……」
「ほう、ワシが前例もなくこのような事を口にすると思うたか?」

 一つの新技術が異常進化の起爆剤になる。ただの進化ではなく、異常な進化。
 新しい技術の獲得によって基礎レベルが上昇する。確かにそれはあるかもしれないけど、異常って、一年以内っていうのは言い過ぎだと思った。

 そんな俺の疑問にロロコはニヤリと楽しそうに笑った。

「そっか、あるんだ。前例が」

 僅かに非難の色を乗せて言うと、ロロコは小さく首を横に振った後、寂しそうに口を開いた。

「とある辺境での話じゃ。親に恵まれず、環境に恵まれず、友人にすら恵まれぬ少年がおった。彼には何もなく、生きる事にすら意味を見出していないそんな瞳をしておった。そんな彼を憐れんだ少女がおったのじゃ。偶然によって行動を共にしておった少女。彼女もまた少年と同じように何も持っておらんかった。ただ一つの違いはワシらによって力を与えられたという事実。今の春護のように個の研鑽によって得た力ではなく、当時のワシらはただ力という結果だけを与える事もあったのじゃ」
「えっ?」

 力という結果を与える? それってどういう事だ?

「力を与えられた事によって愉快な旅路を共に歩む資格を得た少女。ただの過保護とも言える行いじゃったのだが、その結果少女はこう思うようになったのじゃ」
「……どんな風に」
「力を与える事は良い事。力は幸せを呼び寄せると」
「それは……どうなんだ?」

 力を与える事。きっとそれ自体は悪い事ではないんだと思う。力がある事で自身や周囲を護る事が出来る。それはある意味幸せを呼び寄せるって事になるのかもしれない。
 でも……ロロコの声は暗く。その表情は悲しみに満ちていた。

 最初からわかっていた事だ。この話の最後に待つのは……。

「少女は少年に己の力を分け与えた。その行いによって少年の瞳には光が宿り、そして依存したのじゃ」
「……救ってくれたその少女に?」
「そうじゃ」

 その少年はもしかするとあったかもしれない俺の道だったのかもしれない。
 魔族によって俺は全てを失った。このままでは死ぬという状況でロロコが現れ、救ってくれた。そして水花という護るべき存在を遺してくれた。

 そうだ。俺と少年の違い。俺には水花がいたんだ。
 もしも水花がいなくて、ただロロコによって救われていたのだとすれば、全てを失っていた時にそんな救済を受けたとすれば……依存してしまっても不思議じゃないかもしれない。

 でも……依存の先に待つものはきっと……破滅しかない。

「ワシらは数日滞在した後に辺境を後にしたのじゃが、少年はついては来なかったのじゃ」
「えっ、依存してるのに!?」

 少年はって表現している事から少女は変わらずロロコたちに同行するって事だ。それなのに残るなんて妙だ。依存対象と別れる事を良しとするなんて変じゃないか?

 そんな素直な疑問だったんだけど、ロロコは困ったように、気まずそうに頬を掻いていた。

「そうじゃの。残ると決めた彼はこう言っておった。君に認められる男になってみせる、との」
「……えーと、もしかしてだけど」
「それ以上は野暮じゃぞ」
「そ、そうだね」

 認められなかった。だから残った。……そういう事なんだろうね。
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