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第二章
第七話 少年と少女
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「ワシらの旅はその後も続いた。各地を巡り、知識、技術、人材を集め続けたのじゃ。そんな日常を繰り返している日々じゃったな。仲間内で軽い喧嘩は……まあ日常じゃったが、あれはそんなある日の事じゃった。ワシらの耳にとある噂が届いたのじゃ。とある地域に一つの国が生まれたと。それ時代は気にする事のない話ではあったが、場所が場所での。なんせそこは過去に足を踏み入れた事もある辺境の地だったからの」
「……ねえロロコ。その話ってまさか」
「そうじゃ。少年は少女から与えられた力を使い……そう、人々を力によって、暴力によって支配し、それを国と呼んでおったのじゃ」
「……そっか」
光をくれた少女に認められるため、少年は力を振るった。国王という地位を得る事により、かの者に認めてもらうために。
でもロロコはハッキリと言った。暴力による支配だって。
少女は喜ぶのかな。自身に認めて貰うため想いを受け入れてもらうために大勢を傷付け、数多の骸の上に建てた王城へと住う暴君へとなった少年の選択を。
「……本来ならばありえん事じゃった」
「えっ?」
「春護が有している力は確かに春護自身の力じゃ。種というきっかけこそ与えたものの研鑽という養分によって育て上げたのはオヌシ自身じゃ。しかし、少年に与えた力はそうではない。種火ではなく業火そのものだったのじゃ」
「……つまり?」
「使えば戻らない力と言えばわかるかの」
使えば戻らない力。回復しない力。どれだけ元が膨大な力だったとしても、それじゃあいつかは枯渇し、炎は消える。
消えてしまえば残るのは……元の無力な少年。
暴力によって他者を支配し続けた暴君。そんな王から力が消えればどうなるのか。その未来はあまりにも簡単に想像出来た。
少年は復讐されたんだろう。
支配されてきた人たちの不満と憎悪が刃となって少年の心臓に突き立てられたんだろう。
……あれ? でもロロコはありえない事だって言っていなかったか?
「そう。本来ならば玉座はすぐに崩れるはずだったのじゃ。いや、そもそも玉座に到達するに至らないはずだったのじゃ」
「……何があったの?」
「異常な進化じゃよ」
さっきも聞いた単語。異常な進化。
前のは国レベルについてだったけど、これってまさか……。
「少年は覚醒したのじゃ。分け与えられた力が一時的なものであると察し、尽きる前に自己進化のためへと利用した。細かい方法は分からぬが少年は借り物の力を己の力へと昇華させたのじゃ」
「そんな事出来るの?」
「事実出来ておったのじゃ。……この際じゃ、ハッキリと言っておくかの。アヤツの強さは春護、オヌシよりも上じゃ」
「——っ!?」
俺よりも上の力。何もない状態から?
凡人レベルだったけれど、俺は元々魔装騎士見習いだったんだ。そこらへんの一般人に負けるような実力じゃない。
魔装騎士としての基礎があった俺と違って、その少年には何もないはずだ。なのに、負けている?
「異常じゃろう?」
「……うん」
「じゃが同時にそう認識している時点でオヌシもまた異常なのじゃ」
「……あっ」
俺自身の力を物差しにして、それを超えているなら異常。今の判断はそういう考え方だ。
それなら当然、基準値となっている俺も異常な強さを持っているって事になる。正確に言うから準じているかな。
少し前まで何も出来ない無力な子供だったってのに、いつの間にか俺はこんなにも……。
「理解出来るか春護。ワシらという外部が齎した力をきっかけに一つの地域が崩壊したのじゃ。それまでのバランスを崩壊させ、絶対的な個を生み出す結果となり、数多の犠牲を出す結果となったのじゃ」
「……うん。わかるよ。でもそれは——」
「——ワシらの罪じゃよ」
頬杖をつきながら哀しそうに微笑むロロコ。
「故にワシらはルールを設けた。二度とあの悲劇を繰り返さぬようにの」
悲劇。
それは少年が暴君になった事に対しての言葉? それとも話してはくれないその後に起きた何かに対して?
ただ一つのわかるのは、どれほどロロコが後悔しているのか。その深さの一片だった。
「ルールはシンプルじゃ。ワシらが力を与えた者には絶対的な縛りを設けるというものじゃ」
「縛り?」
「ワシらの頂点、その一存で与えた力を消滅させる契約じゃな」
「——っ!?」
ロロコの言葉に思わず肩が跳ねた。
与えた力。その範囲はなんだ?
俺の力。[花鳥風月]はどうなんだ?
そんな俺の考えはやっぱりバレバレらしい。楽しそうにしているロロコの表情を見ればな。
「ククッ、安心せい。オヌシらは例外じゃ。与えたのは力ではなく術式。それもこの国に存在している技術の延長線にあるものじゃからな。それを使い熟し、己の適正に合わせて応用しているのはオヌシら自身の力じゃ」
俺たち、この壁国で生きている者の感覚だと術式ってのは目に見えない武器みたいなものなんだけど、ロロコとしてはそれを与えただけだから平気だって言ってるんだと思う。
それじゃあ他の人には何が与えられているんだ? 規制された力ってなんだ?
「疑問符が消えぬの。まあ当然か。ワシもこんな話をするのは初めてじゃからな。わかりやすく話せている気はせん。そこで最後に要点をまとめようかの」
「それってある意味ここまでの話はなんだったんだってならない?」
「正論に見せかけた愚論じゃな。知らぬのか途中式がないと減点されるのじゃぞ?」
「算数かな?」
わかりきっているからって暗算で省略すると減点される。学校ではよくある事だよね。
何事も過程が大切なんだ。そこに至るまでの道筋が重要なんだ。
「……ねえロロコ。その話ってまさか」
「そうじゃ。少年は少女から与えられた力を使い……そう、人々を力によって、暴力によって支配し、それを国と呼んでおったのじゃ」
「……そっか」
光をくれた少女に認められるため、少年は力を振るった。国王という地位を得る事により、かの者に認めてもらうために。
でもロロコはハッキリと言った。暴力による支配だって。
少女は喜ぶのかな。自身に認めて貰うため想いを受け入れてもらうために大勢を傷付け、数多の骸の上に建てた王城へと住う暴君へとなった少年の選択を。
「……本来ならばありえん事じゃった」
「えっ?」
「春護が有している力は確かに春護自身の力じゃ。種というきっかけこそ与えたものの研鑽という養分によって育て上げたのはオヌシ自身じゃ。しかし、少年に与えた力はそうではない。種火ではなく業火そのものだったのじゃ」
「……つまり?」
「使えば戻らない力と言えばわかるかの」
使えば戻らない力。回復しない力。どれだけ元が膨大な力だったとしても、それじゃあいつかは枯渇し、炎は消える。
消えてしまえば残るのは……元の無力な少年。
暴力によって他者を支配し続けた暴君。そんな王から力が消えればどうなるのか。その未来はあまりにも簡単に想像出来た。
少年は復讐されたんだろう。
支配されてきた人たちの不満と憎悪が刃となって少年の心臓に突き立てられたんだろう。
……あれ? でもロロコはありえない事だって言っていなかったか?
「そう。本来ならば玉座はすぐに崩れるはずだったのじゃ。いや、そもそも玉座に到達するに至らないはずだったのじゃ」
「……何があったの?」
「異常な進化じゃよ」
さっきも聞いた単語。異常な進化。
前のは国レベルについてだったけど、これってまさか……。
「少年は覚醒したのじゃ。分け与えられた力が一時的なものであると察し、尽きる前に自己進化のためへと利用した。細かい方法は分からぬが少年は借り物の力を己の力へと昇華させたのじゃ」
「そんな事出来るの?」
「事実出来ておったのじゃ。……この際じゃ、ハッキリと言っておくかの。アヤツの強さは春護、オヌシよりも上じゃ」
「——っ!?」
俺よりも上の力。何もない状態から?
凡人レベルだったけれど、俺は元々魔装騎士見習いだったんだ。そこらへんの一般人に負けるような実力じゃない。
魔装騎士としての基礎があった俺と違って、その少年には何もないはずだ。なのに、負けている?
「異常じゃろう?」
「……うん」
「じゃが同時にそう認識している時点でオヌシもまた異常なのじゃ」
「……あっ」
俺自身の力を物差しにして、それを超えているなら異常。今の判断はそういう考え方だ。
それなら当然、基準値となっている俺も異常な強さを持っているって事になる。正確に言うから準じているかな。
少し前まで何も出来ない無力な子供だったってのに、いつの間にか俺はこんなにも……。
「理解出来るか春護。ワシらという外部が齎した力をきっかけに一つの地域が崩壊したのじゃ。それまでのバランスを崩壊させ、絶対的な個を生み出す結果となり、数多の犠牲を出す結果となったのじゃ」
「……うん。わかるよ。でもそれは——」
「——ワシらの罪じゃよ」
頬杖をつきながら哀しそうに微笑むロロコ。
「故にワシらはルールを設けた。二度とあの悲劇を繰り返さぬようにの」
悲劇。
それは少年が暴君になった事に対しての言葉? それとも話してはくれないその後に起きた何かに対して?
ただ一つのわかるのは、どれほどロロコが後悔しているのか。その深さの一片だった。
「ルールはシンプルじゃ。ワシらが力を与えた者には絶対的な縛りを設けるというものじゃ」
「縛り?」
「ワシらの頂点、その一存で与えた力を消滅させる契約じゃな」
「——っ!?」
ロロコの言葉に思わず肩が跳ねた。
与えた力。その範囲はなんだ?
俺の力。[花鳥風月]はどうなんだ?
そんな俺の考えはやっぱりバレバレらしい。楽しそうにしているロロコの表情を見ればな。
「ククッ、安心せい。オヌシらは例外じゃ。与えたのは力ではなく術式。それもこの国に存在している技術の延長線にあるものじゃからな。それを使い熟し、己の適正に合わせて応用しているのはオヌシら自身の力じゃ」
俺たち、この壁国で生きている者の感覚だと術式ってのは目に見えない武器みたいなものなんだけど、ロロコとしてはそれを与えただけだから平気だって言ってるんだと思う。
それじゃあ他の人には何が与えられているんだ? 規制された力ってなんだ?
「疑問符が消えぬの。まあ当然か。ワシもこんな話をするのは初めてじゃからな。わかりやすく話せている気はせん。そこで最後に要点をまとめようかの」
「それってある意味ここまでの話はなんだったんだってならない?」
「正論に見せかけた愚論じゃな。知らぬのか途中式がないと減点されるのじゃぞ?」
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わかりきっているからって暗算で省略すると減点される。学校ではよくある事だよね。
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