フィフティドールは笑いたい 〜謎の組織から支援を受けてるけど怪し過ぎるんですけど!?〜

狐隠リオ

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第二章

第八話 一存

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「ワシがオヌシに魔纏技術を教えなかった理由はそれが国外の技術じゃからじゃ。外の技術を持ち込む事によるバランスの崩壊をきっかけに始まる悲劇を繰り返さぬため、ワシらはそれを禁忌としておる。これで納得はしてもらえたかの? 無論あれば疑問には答えるつもりじゃぞ」

 元々の問いは魔纏という技術をどうして教えてくれなかったのかだった。その答えはシンプル。過去の経験、いやロロコたちにとってはトラウマのようなものか。

 力を与えた相手が起こした悲劇。それも一国規模の、大勢を犠牲にした悲劇。
 過去の失敗を繰り返さないためにロロコたちはそれを禁忌とし、仮に力を与えるのならばロロコたちの頂点、その一存で力を消滅させる事が出来るようにしたらしい。

 でも、俺たちは例外らしい。
 [花鳥風月]という明らかにこの国のレベルを超える力を与えられているというのに鎖には繋がれていない。どうして?
 既存技術の延長だとしてもレベルが違うのは明白だ。たとえロロコたちの干渉がなくても開発される力なのかもしれない。でも、それって何年後の話だ?

「ロロコ。どうして俺たちは例外なんだ?」
「そうじゃな、あえて理由とするならばそれがワシの一存じゃから、となるの」
「……ロロコの一存?」
「そのままの意味じゃよ。本来力を与える権限があるのは女王じゃ。しかしワシはあくまでこの国にある技術の範疇で力を与えただけじゃからの。許可を得る必要はあるまい。……まあ、アヤツと友人だからこそ許されている気もするが、放置せずに手綱を握っておれば文句はないじゃろう」
「……手綱?」

 俺たちの首に鎖はない。そう思っていたのにふと彼女の口から飛び出した言葉に俺は驚愕していた。
 無意識の内に繰り返したその言葉を聞き、ロロコはニヤリと笑う。

「当然じゃろう? 先に言った通りオヌシらの力は例外じゃ。ワシらの一存でその力を奪う事は出来ん。何度も繰り返すが自ら研鑽したそれは正真正銘オヌシら自身の力じゃからな」
「それなら……どういう事?」

 力をいつでも消滅させる事が出来る。少女と少年の話を聞く限りそれが作られたルール、鎖のはずなんだ。
 それがないと言うのに手綱は握っているって俺たちは一体何を担保にされているんだ?

「そう怯える必要はない。単純な事じゃよ」

 未知に対する恐怖が滲み出してしまっている俺に対して、ロロコは微笑みながら言った。

「オヌシらが暴走した際にはただ、ワシがこの手で殺せば良いだけの話じゃ」
「……その顔で言うセリフじゃないだろ」
「ククッ、確かにその通りじゃな。しかしそんなシリアスなシーンでもあるまい? ワシはオヌシらが暴走するなんて思っておらんからの」
「……」

 こいつ……。
 それは信頼だ。俺たちが力に呑み込まれるなんてありえないって、そう信じてくれているんだ。

 でも、実際はどうだ? イズキと戦っていた時の俺を本当に俺と言えるのか?
 あの時の俺は明らかに異常だった。自分自身の事をまるで後ろから眺めているような感覚。俺の身体なのに勝手に動いていて、それを疑問に思う事なく見ていた。

 あの時の俺は確実に……呑まれていたんだ。

 普段の俺ならロロコの信頼を裏切るような事はしないと、今ならそう言い切れる。
 ……でも、あの状態の俺は?

 これからの戦いには[月]の力が必要だ。
 魔族の娘であるイズキとの戦い。あの時[月]を発動させる選択をしなかった場合、高確率で……いや、確実に俺は負けていた。
 実戦での敗北。それは死だ。
 俺一人の命で済めばまだいい。だけど水花はどうなる?

 水花は魔装人形だけど……ほぼ人間と変わらない新型だ。敵があいつに対して邪な感情を抱く可能性はゼロとは言い切れない。
 俺と一緒に殺される以上の悲劇を、苦痛を与え続ける事になるかもしれない。

 水花を守り抜くためには[月]の力が必要だ。いや、正確に言うなら[月]を発動する事によって解放される闇の力が。

「ありがとうロロコ。俺たちの事を信頼してくれて」
「当然じゃ。でなければわざわざ重傷のオヌシらを救いなんてせんよ。それに万が一この目が衰えていたのならば、その時はこの手で殺すと決めておったからの」
「……本当に?」
「当然じゃ。ワシは個人であるのと同時に一組織の幹部なのじゃ。ワシの選択は己の未来だけでなく部下の未来すらも変える事となる。責任を取る覚悟はとうの昔からしておるのじゃよ」

 ロロコの口調は優しい。穏やかで俺たちの事を信頼してくれているのが伝わった。
 だけど、その目は真剣で嘘ではなく本気なんだって事も同じ以上に伝わった。

 だから聞こうと思ったんだ。

「ロロコ。頼みがある。俺に魔纏を教えてくれ」
「……」

 俺の言葉に驚いた様子はない。ただゆっくりと目を閉じた。
 静寂をこちらから破る事はなく待っていると、漸く彼女は口を開いた。

「断る」

 それは俺にとって予想通りの返答だった。
 あくまでもこの国に存在している技術の範疇で力を与えて貰った。魔纏はその範疇から飛び出している。ロロコの立場からして断られると思っていた。

 だからこそ本命はここからだ。

「それなら俺は[月]の力に頼るしかなくなる」
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