フィフティドールは笑いたい 〜謎の組織から支援を受けてるけど怪し過ぎるんですけど!?〜

狐隠リオ

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第二章

第十話 理由

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 ロロコの目の前で[月]を発動させる。
 普段とは違う好戦的な笑みを浮かべている彼女が求めているのはそれだけだ。
 たとえイズキの前で見せたように暴走状態だったとしても、いや、あれを超えて完全な暴走状態になってしまったとしてもこの人なら平然と鎮圧してくれる。
 心配する必要はない。ただ発動するだけ。
 ……発動……するだけ。

「どうしたのじゃ?」
「えーと、ごめん……出来ない」
「遠慮はいらん。負荷が強いと見ればその瞬間に気絶させてやろう」

 握り締めた拳を見せながら笑みを浮かべるロロコ。意味としてはありがとうだけど、絵面としては怖いんですけど。
 それはいいとして、ちゃんと言わないとだ。

「その[月]の力を制御出来てないんだ。つまりというか、自在に発動する事が出来ないんだよね」
「……ほう。じゃが実際に発動した経験はあるのじゃろう?」
「うん。でもその本能的というか、咄嗟だったというか……」
「自分でもわからないという事じゃな」
「……うん」

 正直もう大丈夫だと思ってた。発動するたびに感覚に差が、それも明確な違いがある[月]。
 イズキとの戦いで発動した時の一回目は意識は残りながらも身体の制御は完全に失っていた。なのと戦った時の二回目では己の意思で戦う事が出来ていた。

「戦闘時には扱え、常時では不可能か。なるほど、ならば理由は一つしかありゃんな」
「一つ?」
「オヌシも薄々気が付いておるのではないか? 発動した時には共通点があったはずじゃ」
「そんなの……あっ」

 最初の発動はイヅキが水花を殺したのだと感じた時だった。なのとの時も水花の身に危険が迫っていた。
 あの時、敵を排除するために俺の心は殺意に染まっていたんだ。

「この場でそれを再現する事は出来ないじゃろう。しかし記憶を見つめる事は出来るはずじゃ。オヌシの思うを記憶に意識を張り巡らせるのじゃ。その先に何が起きたとしても安心せい。全てを受け止めてやろう」
「うん。ありがとう。それなら……思い出すよ、あの日の事を。家族を、二人を失った時の日の事を」

 大好きな姉さんと妹を失ったあの日。
 俺にとって運命を変えた日。

「[花鳥風月・月]」

 ——ああ、これは……深い。
 過去の想いは黒く染まった錠前を解き放っていた。

「……ほう」

 全身から溢れ出す漆黒の魔力。なのとの戦いでは確かにコントロール出来ていたというのに——

「くっ、熱い……」

 ——だめだ。意識を奪われるっ!

   ☆ ★ ☆ ★

 全身から漆黒に染まった魔力を溢れ出している弟子の一人を前に、ロロコは笑みを浮かべていた。

「明らかに暴走じゃな」

 今までの発動の中で最大量の闇を吹き荒れさせている春護の瞳は、明らかに澱んでいて正気を保てていないのは一目瞭然だった。

「激情をトリガーにした強制解放とでも呼ぶべきか。しかし、本来の出力と比べれば随分とぬるい。自己崩壊しなかったのはそれ故かの。嬉しい誤算じゃったな」

 無意識による出力の制限。それが[月]の反動に春護が耐える事が出来た理由だと推察したロロコ。
 幼い見た目ながらもどこか妖艶に映る微笑みを浮かべ、口元に指先を滑らせていた。

「ふむ、とはいえ反動がないわけではないようじゃな。意識が残っておれば激痛に襲われ続けておったじゃろう。使用状態が暴走だというのも不幸中の幸いかもしれぬの」

 一見すると何事もなく立っているように見える春護だが、ロロコの目は彼の肉体に凄まじい負荷が掛かっている事を見抜いていた。
 原因は十中八九あの漆黒の魔力だ。
 闇の魔力そのものに身体を蝕むような要素はない。問題なのは普段とはかけ離れている出力。春護の全身から溢れ続ける魔力。それは元々人の内部から湧き出る力だ。つまり体内から体外へと放出される時、体表の一部を通過する事になる。
 汗腺や脂腺のように明らかな穴があるわけではないが、目に見えない魔力の通り道が存在している。
 普段なら通る魔力によって損傷するような事はないが、壁外技術の一つに反動を受け入れ一時的に出力を上げる裏技のようなものがある。継続能力の低下と痛みを対価に一時的に通常時以上の力を引き出す技。現在の春護をそれに近い事をしている。それも出力上昇の倍率は切り札扱いされている元の技術よりも高い。
 それはつまり反動も大きいという事だ。

「さて、生き残った理由は判明した。あとはオヌシの黒き欲望をこの身をもって受け止めるだけじゃな。どれ、もう我慢出来ないのじゃろう? 感情を解き放ち、力でこのワシを跪かせたいのじゃろう?」

 ゆっくりとロロコは歩を進め、激情に呑み込まれながらもその色を現す事なく虚無のような表情を浮かべている春護へと手を伸ばす。

「さあ、見せるのじゃ。死を待つばかりじゃった力無き幼子であったオヌシの力を。未熟ながらも研鑽されし力を」

 あの日に拾った命。
 懸命に生きようと運命に抗おうとする弱き命。
 その言葉に魅せられたわけではない。それでも結果は今に続いている。
 魔族に奪われ、魔族を恨み、復讐者となりながらもその身に刻まれた魔性の月により心は保護されながら進み続けた命。
 解放の時はまだ早い。まだまだ早い。しかし少しだけ見せてもらおうではないか。

「申し訳ないけれど、それはちょっと困るかな?」
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