フィフティドールは笑いたい 〜謎の組織から支援を受けてるけど怪し過ぎるんですけど!?〜

狐隠リオ

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第二章

第二話 闇の力

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 全身から漆黒の魔力が吹き出し、俺の意識が肉体から離れていった。

——妙な感覚だ。相変わらず。

 自身の肉体を後ろから眺めているような、そんな感覚。身体を動かしている感覚はあるのに、俺の意識は反映されない。

 そう、身体が勝手に動くんだ。

「やらせない」

 橋の上で無防備に立っている水花に攻撃しようとしていた、いや確かに殺そうとしていた少女の前に割り込み、自身の身体を盾にして護ろうと動いたけれど、無視された。

——こいつっ!

 あくまでも狙いは水花。その姿勢を崩さない少女に苛立つ一方、俺の肉体は反応速度を落とす事はない。まるで少女が俺の事を無視すると最初からわかっていたかのような速度で反応すると、すぐに追い付いた。

 剣に纏わせた嵐の勢いを加速させ、手加減する事なく少女へと背後から斬りかかる。振り返った少女は俺の一撃を防御のために腕を上げていた。

 こいつは一体どんな神経をしているんだ? ただの斬撃でも腕で防御するだなんて選択肢はない。鈍だったとしても本能的な恐怖心が芽生えるはず。それも今は[花鳥風月・月]を発動した状態、つまり強化状態で発動している[嵐纏刃]による一撃だ。

 見た目からしてどれ程の暴力が圧縮されているかわかる。
 それを少女は平然とした態度で見つめ、そして本当に腕で受けていた。

 少女の左腕はもう使い物にならないだろう。複雑に荒れ狂う嵐の衝突によってありとあらゆる方向から捻じ曲げられ、場合によってはぐちゃぐちゃに引き裂く事だってありえる。いや、生身の腕、それも少女の細い腕ならばまずそうなる。

 斬られるのは痛い。だけど力によって無理矢理引き千切られる痛みは想像を絶するだろう。
 それはおそらく精神的にも大きなダメージを与えるだろう。そんな狂気染みた技を俺は欠片も躊躇う事なく振るったんだ。
 何か大切なものが薄れていくような感覚。これが[月]の代償だとでも言うのだろうか。
 でも良いんだ。何かを失ったとしても、水花を失う事と比べれば些細な事だ。

 嵐と腕が触れ合った瞬間、少女の身体は大きく吹き飛ばされ、橋の反対側から下へと落下していた。
 さっきは平然と飛び降りていたけど、今回は状況が違う。高所から落ちれば人は死ぬ。呆気なく、命は終わる。

——今ので死んだかもな。

 腕の痛みと落下による痛み。どちらもショック死してもおかしくない。

 そう、思っていたんだけどな——

「ふーん、あまあまのあまにしては悪くない一撃なの。でも、マジギレしてこの程度なのですか? むー、良い報告は出来そうにないのです」
「……ふざけるな。なんで無傷なんだよ」

 平然とした様子で橋の上へと戻って来た少女。その腕は千切れるどころか無傷にしか見えなかった。
 回復? 再生? どんな魔法を使ったんだ?

「別にふざけてなんてないのです。ただおまえの一撃がなのの防御力を突破出来なかった。ただそれだけなのです」
「防御力? なんだよそれ。硬化能力でもあるのか?」

 問い掛けに対して少女は右腕を持ち上げると剣を、いや剣が纏っている嵐を指差した。

「それと同じなのです。風とは即ち空気の流れなのです。瞬間で稼働する空気の速度と量によって破壊力を宿すのですよ。魔力も束ね、纏う事によって実体を得るのです」
「……は?」

 魔力が実体を得る? この子は一体何を言ってるんだ?

「適当な事言うなよ。魔力は魔法を発動させるためのエネルギーでしかない。エネルギーが実体を得るなんてありえないだろ!」

 エネルギーはエネルギーでしかない。それ自体はただの原動力であって他に影響を及ぼす事なんてない。
 魔力は魔法を使うために使用するためのもの。例えるなら魔法の原材料だ。
 原材料を術式という調理過程に送る事によって魔法という料理が完成するんだ。

 それが今までの常識だった。

 憐れむような視線を俺へと向ける少女。その表情には呆れすら混じっていた。

「世界を知らない引きこもりたちの反応はいつも同じなのです。ありえない、不可能、無理。そんな事ばかりを言うのがテッパンなのです。おまえの頭についてる二つの目は飾りなのですか? 目の前で常識とやらを破壊する事実があるというのに、それでも認めないとか脳味噌じゃなくて蟹味噌でも詰まってるんじゃないのですか?」

 常識を破壊する事実。少女の異様な防御力の事か? 確かに魔力が実体を得るのならそれを纏う事に盾や鎧のように使う事も可能……なのか?

 新たな知識に困惑していると少女は戦意をなくした表情で深く息を吐いた。

「もう良いのです。最低限の役目は完了なのです。この先どうするかはあの変態に任せるのです」
「変態?」
「そうなのです! 上の命令で組む事になった変態なのです! なのはまだまだちんちくりんだって自覚があるのです! そんななのに対してアプローチを続ける奴なんてロリコンの変態変質者でしかないのです!」
「……えーと、お疲れ様?」
「本当に勘弁して欲しいのです!」

 なんだか苦労しているらしい。
 それにしても俺の周囲って微妙に変態が多くないか? それにロリコンって言われると喧嘩別れしてしまった親友の事を思い出した。

「どうやら面白い話をしているのですね。私たちの常識を破壊するかの如く新説。実際にこの目で見ていなければただの妄想だと切り捨てていました」

 知っている声が聞こえた。

「……誰なの? ちっ、随分と男受けの良さそうな身体をしていやがるのです」

 冷静な声に表情。その手にした杖の先端は下りていて地面に向けられているけど、現れた少女、小泉雫の瞳には強い警戒の色が見えた。

 そんな彼女の背後に隠れるようにしている水花。その瞳は不安と恐怖に揺れていて……とても戦える精神状態じゃない事は明らかだ。
 どうして近寄らせた? そんな半ば理不尽な怒りと共に彼女が側にいるなら安全だろうという安堵もあった。

 俺も水花もこの身で良く知っている。小泉ほど防衛戦に向いた魔操師はいないからな。

 そんな彼女に対して最初は興味なさそうにしていた少女だったけれど、視界に入れて小泉の姿を認識するのと同時に不機嫌そうに目を細めていた。
 セリフからして透けてるけど、僻みだね。でも本人がついさっき言っていたようにまだまだ子供だ。これからに期待出来るだろう。

「小泉……どうして?」
「水花さんの様子がおかしい事に気が付かないわたしたちではありませんよ」
「たち? って事は常も?」
「途中までは一緒でしたが引いてもらいました。……その」
「いや、それで正解だと思うよ。ごめんね、ありがとう」
「あなたに礼を言われるような事ではありませんよ」

 小泉は常の大ファンだ。そんな彼女にとって常を引かせた事は、暗に足手纏いだと伝えた事は酷く心を痛めたのだろう。
 悲しそうに一瞬だけ瞳を揺らした彼女に感謝を伝えると、彼女は驚いたのか僅かに硬直した後、普段通りの……いや、僅かに微笑んでいた。

「……なのの前で良くもまあそんなに堂々とイチャイチャ出来るのです。リア充は爆殺してやりたいのです」

 ジト目を向けて来る少女の言葉に過剰反応し否定の言葉を叫んでいる小泉は置いておくとして、俺は微笑んだ。

「この先は変態に任せるんでしょ? もう戦いは終わりだよ」
「……そういえばそんな事も言ったのです。むう、なんだかおまえの相手はやり難いのです」
「そう?」
「……はぁー。帰ってアイスでも食べるのです」

 ガックリとわざとらしく項垂れた後、背中を向けて歩き出した少女は、ふと立ち止まると振り返った。

「そういえば状況が変わったので教えてやるのです。なのの名前はなのなのです!」

 一方的にそう叫んだ後、少女は、なのは何度も高く跳び上がって街中へと姿を消していた。

 突然の襲撃はこうして幕を引いた。……いや、これは終わりなんかじゃない。
 きっと何かに繋がるプロローグ。

 不吉な何かへと。

   ☆ ★ ☆ ★
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