フィフティドールは笑いたい 〜謎の組織から支援を受けてるけど怪し過ぎるんですけど!?〜

狐隠リオ

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第二章

第三話 月隠家

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 水花の事を小泉に任せ、俺は一人でロロコたちの屋敷へと向かっていた。

 突然襲って来た少女、なの。彼女はロロコの事を知っているようだった。この国では存在しない魔力の使い方。明らかに壁外が出身だ。それもこの周辺壁国ではなく、情報が一切伝わらないほど遠くの国。

 俺が彼女たちの事を調べても出て来る情報なんて無いに等しいはずだ。だけど唯一の手掛かり。それがロロコたちだ。

 いつもなら少女隊の面々にちょっかいを出される別邸を何事もなく通り過ぎ。いつもなら立っている見張りや警備の姿すらない道を進む。

「……妙だな」

 胸騒ぎがした。
 不安を一人で呑み込む事が出来ず、つい溢れてしまった言葉に答える影はなく、僅かに芽生えた焦燥が徐々に育つのを自覚しながらも先へと、屋敷の奥と進んだ。

 今まで当然のようにあった事が突然なくなる。まさかもうここにロロコたちはいないのか? だから誰とも遭遇しないのか。それとも……まさか、俺と水花が受けたように、ロロコたちも襲撃を受けていたのか? それによってちりじりに?
 ありえない。そんなわけない。ロロコたちの強さは知っている。何度も見ている、この身で経験している。受け止めて来たんだ。

 でも……俺は知ってしまった。なのという月の闇を発動しても対等に……いや、完全に上回ってきた幼い少女の存在を。

 彼女が口にしていた変態。そのレベルは? なのよりも上? そんな奴らが一人や二人じゃなくて、何人もいたら?

 そんな化け物たちに突然襲撃されたら?

「ロロコっ!」

 もはや抑え切れなくなった感情のままに叫び、彼女の私室へと踏み入れた。

「春護? どうしたのじゃ」
「ロロコ……良かった。無事だったんだ」
「当然じゃ。何処の誰がこのワシを討つと思っておるのじゃ。そんな事が出来る敵なぞ覚えはない」

 彼女の私室に居たのは一人だけだった。普段通りに膝をつきながら酒を楽しんでいるらしいロロコの側までよると、普段通り正面の下座へと腰を下ろす。

「なあ、みんなは? ここまで誰一人と会わなかったんだけど」
「感知班から報告があったからの。対面は出来る限り避けたい故に下げておるのじゃ」
「……どういう事?」
「ふむ、何処から説明したものか。まあそこまで複雑な話ではありゃっせん」

 対面させるのが嫌だから裏に引っ込めている。つまり少女隊や他の面々と会わせたくない人物が来るって事か?
 会わせたくない理由は? それはきっとこれから教えてもらえるのだろうけど、想像出来なかった。

 いや、一つだけ。可能性が薄らと見えた。
 それを言葉にするよりも先に、ロロコは口を開いた。

「細部を削ぎ落として例えるならば、ここはとある組織の新人を育てる養成所のような場所なのじゃよ」
「……えっ?」

 ここが、五大騎族の一つである月隠家が所有している屋敷が養成所?
 とある組織って、やっぱり一つの可能性が脳裏に過った。

「安心せい。春護と水花は例外じゃ。ワシの独断で受け入れ育てた。将来組織に行けなどという義務はない。仮に上から言われたとしても断固拒否してやるのじゃ」

 そう言って小柄な外見からは本来感じる事なんてないであろう母性に満ちた笑みを浮かべたロロコ。

「いや、待ってよ。確かにそれは俺たちにとって良い事なのかもしれないけど……そもそもロロコたちって——」
「オヌシらが知る必要はない。否、知るべきではない事じゃ」
「……そっか」

 それは明確な拒絶だった。
 例外というのは本当に例外なんだ。俺と水花はみんなの一員じゃないんだ。

 そう悲しむべきなんだと思う。でも、そうはならない。だって見たから。さっきロロコが見せてくれた笑みを。
 これは拒絶じゃない。俺たちの道を尊重してくれているんだ。

 知れば自由を失う可能性すらある。そんな大きな何か。未知の強大な組織。その一部であるロロコと契約し、例外的な仲間となった。
 そう仲間だ。
 組織の一員ではないとしても、俺たちは仲間だ。そうだよね?

 一つの壁国の五大権力である五大騎族の一つ[月隠家]を乗っ取り。好き勝手にしているとんでもない一団だとしても、その目的も何もわからない組織だとしても。
 俺たちにとっては恩人であり、仲間だよ。

 でも……もしも組織が悪なら俺は……どうするべきなんだろう。
 だって、知るべきじゃないって……そういう事なんじゃないの?

 俺たちまで堕ちる必要はない。戻れない場所まで関わる必要はない。そう、感じた。

「色々と考えておるようじゃが安心せい。世に混沌を撒き散らすような趣味も思想もない。前にも話した気がするが、仲間内でわいわいやろうという快楽主義の一団じゃ。この国では名家の乗っ取りという悪行と呼べる事をしておるが、これはむしろ善行じゃぞ?」
「乗っ取りが善行? えっ、不安しかないけど」

 それはその善悪の判断が俺とはだいぶ違うのではないでしょうか。

「そんな顔をするでないわ。そもそも一族の乗っ取りなど一族内部に協力者がいなければ出来ん。養子という立場と力。この二つが揃ったからこそ可能としたのじゃ」
「……ロロコを養子として受け入れた月隠家の誰かが協力者って事?」
「そうじゃ。ワシと契約を交わした月隠家の血族。記録上の家長はワシではなくソヤツじゃ」

 歴史があり権力もある名家の乗っ取り。確かにロロコが個人だけでなく少女隊という一団として大きな力を有していたとしても、他人という関係じゃ無理だよね。

 養子という立場でそれを可能にしている直接的な理由は、権限を譲渡している血族が協力しているって事なのか。

「オヌシだって月隠家の噂は聞いた事があるじゃろう。主に黒い噂じゃったろ?」
「あー、そういえば」

 前に少しだけ話した覚えがある。
 養女であるロロコが権力を得た事によって過去ほど理不尽をしなくなった一族。
 ロロコが乗っ取った事で好き勝手やっていた権力者たちを抑え込んだって事になるのか。

「誘拐、奴隷、強要、実験、繁殖、薬物、研究などなど。月隠家は元々この国の闇を代表するような屑の一族じゃった。そんな環境の中でも己を見失う事なく、この家は異常だと自覚し変えようと動いた人物。ワシが契約を持ち掛けたのはそんな善人じゃよ」
「凄い人なんだね……そんな環境なら流されるのが普通なのに」

 周りもやっているから良いじゃないか。他責思考は己を守る上であまりにも甘く効率的だ。
 生まれた時から己の欲望を肯定する環境に居続けたのなら、子供なんて当然のように染まってしまうだろう。

 だけど呑み込まれる事なく、己を貫いた。きっとそれは英雄や勇者と呼んでも良いくらいなんじゃないかな。
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