若き二つ名ハンターへの高額依頼は学院生活!?

狐隠リオ

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第三十二話 長女の実力

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「【天蓋《てんがい》】」
「なんだこれっ」

 今まで見た事がない魔術。グラを中心に広がった魔力が周囲を覆い、景色が消えた。

「ほらっ、アタシってこの国じゃ裏切り者だからさ。あんまり見られるの良くないんだよね」

 また雰囲気が変わった。さっきからコロコロと変わるやつだな。
 再びおちゃらけた雰囲気を纏い出したグラ。

「それに[天蓋]の中なら何をしたとしても、証拠隠滅が楽だからね。とっ、言うわけでー、アンタ、殺すよ」

 くそっ、また変わったっ!
 名刀のような鋭い殺気を放ち、走り出したグラ。
 初撃の奇襲だって防いだんだ。完全に警戒している今、直撃をもらうだなんてミスは絶対にしない。

「どったの! さっきから受けてばっかしだっぞ!」

 グラの斬撃を続けて防いでいるけど、やっぱり姉妹なんだな。その太刀筋はユニと通じるものを感じた。
 正確にはグラがユニに似ているのではなく、ユニがグラに似ているのだろうけどな。

 双剣を扱うユニと比べれば手数は少ない、たがそれでも単純に半分ってわけじゃない。片手で振るっているのは同じだというのに七割以上だ。
 何より、鋭い。

「さっきからずっと様子見してるみたいだけど、随分と悠長なんだねっ!」

 連撃のタイミングをズラし、遠心力の込められた回転斬りを放つグラ。

「完全攻略が好みでな。ノーダメ狙いなんだ」
「あっそ! でも残念ながらアタシはイージーゲームじゃなくて、初見殺し満載の死にゲーキャラだからね!」
「ご忠告どうも!」

 防御と回避、観察に徹していればダメージを受ける事はない。
 こちとら普段はモンスターや姑息な手段を豊富に持っている複数の盗賊なんかを相手にしているんだ。
 今回の相手はたったの一人。それも予測のしやすい正統派の人型。絡め手にかける剣士だ。

 確かに剣士としてのレベルは高い。それでも所詮は学生だ。実力がある分それだけその一本を鍛え上げているんだ。
 俺を相手にするには経験が足りていない。
 モンスター共の攻撃はまともに受ければどれも致命傷になる。武器による攻撃でしか決定打のない人間の相手は楽だ。

「ところでアンタはユニちゃんの何なのさ! まさか彼氏っ!?」
「違う! ただのクラスメイトだ」
「嘘だ! 男嫌いのユニちゃんが仲良さそうにしている相手がただのクラスメイト!? 天地がひっくり返ってもありえない!」
「随分と軽い天変地異だなっ」

 グラの斬撃を受け止め、流し、躱す。
 互いに言い合いながらだけど、決して攻防は手を抜いていない。とはいえ俺にはまだ反撃の意思がない。それは向こうも気が付いているのだろう。いつ俺が反撃に転じたとしても対応出来るように余力を残しているのか。
 それでも決して手加減をしているとか、ふざけているとか、戯れているとか、そういう事ではない。
 状況を変える一手をどちらが先に選ぶのか。これはそういう駆け引きだ。

「アンタまさかとは思うけど大切なうちの妹と一線を越えてないでしょうね!」
「それは残念ながらまだだな!」
「——ッキサマ!」

 明確な怒気をばら撒き、深く一歩を踏み出すグラ。

(来たっ!)

 今までの余力を残した攻撃とは違う。力強い踏み込みから腰の入った強烈な斬撃が俺の身体を右側から真っ二つにするために放たれた。

 この一撃を今までと同じように受け止めるフリをして、接触の一瞬後に力を抜いた。
 防御による抵抗を受け、それを突破するために力が増したタイミングに合わせて脱力する事により、その斬撃は身体ごと流れ致命的な隙を晒す事になる。

 ただ流すのであれば対応されただろう。グラの剣はそれほどのレベルにある。ここまでの攻防でそれは感じ取れた。回避したとしてもおそらくは同じだ。

 だからこその奇手。迫り合い誤認からの流しだ。俺の思惑通り、グラの身体は大きく流れ致命的な隙を——

「言ったよね。死にゲーだってさ」

 流れたグラの身体。刀を握っていない左手に光が見えた。紅蓮に燃え滾る炎が。

「——ジョンスっ!」

 グラの左手から放たれた火球は俺の全身を覆い尽くして突き進むと、轟音と共に巨大な火柱を聳え立てた。
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