若き二つ名ハンターへの高額依頼は学院生活!?

狐隠リオ

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第三十三話 解放

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 燃え滾る火柱の中に消えた俺の名前を必死に叫ぶユニ。

「アハハッ。アタシは剣士じゃなくて魔術剣士だよ。油断大敵ぃー」
「ジョンス……そんな、嘘よ……」
「ごめんねユニちゃん。でもユニちゃんはまだ十五歳なんだよ? 恋愛は早過ぎるよ」
「あたしとジョンスはそんな関係じゃないわよ!」
「それならどうして泣いてるの? 大切だから、特別だからでしょ? ユニちゃんの中でアイツはそこらの有象無象とは違う特別な一人になってたって事。じゃなきゃそんなに泣かないでしょ? 死なんてこの世界にはありふれている。全ての死に泣いてたら、心が保たない。そういう切り分けは中等部の頃に習ってるよね」
「お姉様……どうして……なんでよ。お姉様はそんな事……」
「……うん、そうだよね。ごめんね。でもアタシはもう子供じゃない。アタシはもう現実を知ったから。だから理想なんて子供みたいな事はもう言えない。夢は夢でしかない。どれだけ残酷だとしても、辛くて仕方がない事だとしても、アタシたちは現実の中で生きるしかない。現実で全てを得るなんて事は無理なんだよ。アタシは選んだ。町のみんなを、学院のみんなを見捨てる事になるとしても妹たちだけは、ユニちゃんたちだけは救うって。大丈夫、怖がらないで、向こうに行けば時間はいっぱいあるから。少しずつ納得していこう」
「……グラお姉様……あたしは……」

 泣いている声が聞こえる。
 ユニが泣いている。
 どうして?
 俺が死んだから。そう、思っているからだ。

「確かに危なかったな。油断というか、この数日で俺も平和ボケしてたらしい」
「「——っ!?」」

 死んだ先には何がある?
 死後の世界? それとも虚無?
 どちらにせよ死んだらここにはいられない。この世界に触れる事は出来ない。思考する事は出来ない。
 俺はまだここにある。ここに存在している。

「ウソウソありえない! 確実に当たってたよ! 人が耐えられる温度じゃないんだよ!?」

 俺を確実に殺すため、どれほどの魔力を込めていたのかがよくわかる。
 骨も残さないと言わんばかりに、遺品の一つも、思い出の欠片も残さず抹消するかの如く、長く燃え上がり続けていた火柱がついに消え初めていた。

「グラ先輩、初見死にゲー対策を教えてやるよ」

 火柱が消えた後に残るのは、炎以上の紅蓮。

「初見殺しでデスしないための、圧倒的な防御力だ」

 俺が纏うのは制服だけじゃない。その上から纏うのは紅蓮に染まったロングコート。

「まさかここでこいつを使う事になるなんてな。グラ先輩、誇りに思っていいぞ」
「何……それ……一体どこから……まさかアンタ!」

 明らかに動揺しているグラ。その深さは明らかに普通じゃない。最後の叫びからして、そういう事か。

「へえ、驚いた。知ってるんだな。こいつを、いやこの力って言うべきか?」
「——っアンタ……」

 好戦的な笑みを浮かべた俺を前に、グラは半歩退いていた。
 その様子からありありと感じ取れる感情は、恐怖。

「何もない空間から唯一無二の武具を発現させる力を持つ者[解放者]。発現された武具は既存武具のそれとは明確に別格の力を有する。俺の顕現武具が有する力は純粋な防御能力。ありとあらゆる攻撃を受け止め、決して貫かれる事のない紅蓮の衣。こいつを炎に呑まれた瞬間に発現させた。だから無傷だぞ」

 焼け焦げた地面を俺は歩く。グラはまた一歩、退いた。

「これほどの威力だ。込められた魔力量はとんでもないだろうな」

 俺は進む。彼女はまた一歩、退いた。

「ところでグラ先輩。魔力、どれくらい残ってる?」

 彼女の表情を見ればわかる。あの一撃で終わらせるつもりだったのだろう。その後があるだなんて想定していなかったのだろう。

「な、舐めないで! 確かに魔力はすっからかんだけど、アタシには剣がある!」

 魔力が枯渇したからと言って身体能力に制限が掛かるわけじゃない。
 今までと変わらぬ速度、いや遅い。グラは明らかに精神面で揺らいでいる。
 知っているという事は、過去に[解放者]と遭遇した事があるって事だ。
 その相手とどういう関係だったのかはわからない。それでも、身を持って知っているんだ。
 このあまりにも理不尽な力を。

 精神と肉体は強く結ばれている。どちらかが不調ならそれは両方に影響する事になる。

「グラ先輩。もうやめよう、俺の勝ちは揺るがない。お前みたいな美人をこれ以上いじめたくないんだ」

 グラの鈍った斬撃を刀で受け止めるのではなく、紅蓮の衣に覆われた左腕で防ぎつつ、彼女の首元にそっと切先を添えた。

「こいつを発現させた以上、俺に攻撃は届かない。わかるだろ?」

 そういえばグラは言っていたな。竜化鬼には剣が通じなかったって。今の俺はそれと同じ状態ってわけだ。
 彼女にとっては一種のトラウマだろう。相手の心を折るために、これ以上戦おうと思えなくするために普段からしている防御だったけれど、グラには深く突き刺さっただろうな。

「グラ。確かに世の中は理不尽で残酷だ。夢は夢、いずれば現実を見るしかない。だけど俺たち未成年だぞ? まだまだ夢見る子供のままでも良いんじゃないか?」
「……ジョンス、ありがとう」
 刀を下ろし俯いたまま動かないグラ。そんな彼女に寄り添うようにしてユニは笑った。
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