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第三十六話 二人で
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(高い! 翼があるからこその制空権か)
空に飛ばれては翼を持たない人間では何も出来ない。あの高さまでジャンプするなんて不可能だ。
「そのコート。あくまでそれ自体の防御性能がとんでもないってだけで、自身の周辺に結界を張ってるとか、そういう効力はないよね。それなら全身を飲み込むほどの力が吹き飛ばせば良いだけだよ!」
翼をはためかせて空中に留まったまま、左手で支えるように右腕を突き出すグラ。
彼女の手の平に発生するのは紅蓮に染まった炎球ではなく、純白に染まった光。
「さっきの炎と同じとは思わない方がいいよ。新人天使だからコントロールはまだ完全じゃないけど、加減なんていらないもんね!」
グラから濃密な魔力が溢れ出し、俺たちのところにほとんど届く事なく彼女の手へと圧縮されていく。
「範囲を絞る事もしない。全力で滅ぼしてあげる! さあっ、どうする[解放者]!」
圧縮された光が解き放たれる、それは巨大な破壊の光線となって世に顕現した。
攻撃範囲が広過ぎる。今から回避するのは不可能だ。ならば防御。どうやって?
光線を刀で防ぐなんて無理だ。ならばこの紅蓮の衣なら可能か?
それは確信だった。本能的にわかってしまった。この攻撃を衣で防ぎ切る事は出来ないと。
炎弾とは違うんだ。あれは着弾の衝撃と爆発を防ぐ事が出来れば、その後の火柱は収まるまで体勢を低くする事でやり過ごす事が出来た。勿論それも衣の防御性能があるからこその方法だったが、過去に似たような事をした経験があるから大丈夫だと確信していた。
だが、あれはダメだ。あの光は耐えられない。衣が耐えられないのではない、衣を支える俺の身体そのものが耐えられないんだ。
一瞬ではなく、継続的に加えられるであろう圧力。その中、衣による防御を続けるなんて不可能だと、わかってしまった。
(俺は……死ぬのか?)
あれを受ければ俺は死ぬだろう。きっと骨すら残す事なく消滅するだろう。
気が付けば生まれ、意識が芽生え、歩いている。
生は唐突が始まる。ならば死もまた唐突なのだろう。
避けられぬ死を前にしているというのに、意外なほどに冷静だった。
そうか、俺は一度記憶を失い、過去を失った。過去つまり時間だ。時間とは生命の歩み。俺は既に一度死んだ事があるんだ。
だから、二度目の死。また、繰り返すんだ。
死と生を。
恐怖はない。だって次の俺は完全に俺じゃないから。
来世の俺は、俺ではないから。次はちゃんと真っ新にしてくれる。
もう、あの感覚に襲われる事はない。あの、どうしようもないほどの喪失感を。
「ジョンス!」
そうだった。ここにはユニもいるんだ。……大丈夫。あそこなら巻き込まれる事はない。
あーあ、ハーレムは夢に終わったな。きっと大勢が側に居てくれれば俺の欠けてしまった心も満たされると思ったのに。でも、もう関係ないか。
俺という心は、ここで終わりなのだから。
受け入れよう。安息の闇を。
瞳を閉じよう。
「ジョンス!」
暗闇の中、暖かさを感じた。浄化の光ではなく。暖かな生命の熱。
目を開けるとそこにはユニの姿があった。
(ユニ? なんでっ!?)
さっきまでは確かに安全圏にいた。だというのに今、彼女は目の前にいた。
ユニの背中からはいくつかの煙が立ち昇っていた。そしてさっきまで立っていた地面は焼け焦げていた。
血族による属性の遺伝。ユニはまさか爆炎によって己を押し出し、ここまで来たのか?
「ユニちゃん!? ダメ! 逃げて!」
「うるさい! 炎はあたしの覚悟に応えてくれた! あたしはあたしを超える! もう諦めない! 勝負よグラお姉様!」
ユニは体から煙を上げながら腰にある双剣を握り締めると、その手に紅蓮の光を宿した。
「もう一度だけで良い、応えて! お願い!」
ユニが双剣を鞘から抜き放つのと同時に放たれる十字の炎。
グラの放つ光線と比べれば小さく、ちっぽけな光だ。
それでも、そこに込められた願いは強い。
ずっと目覚める事のなかった炎の力。それが覚醒するほどの想い。
心の底から救いたいと、深く、強い渇望の力。
「いけえええぇぇぇっ!」
——しかし、この世に奇跡なんて存在しない。
「そんな……」
ユニの放った十字の炎はグラの光線に当たった瞬間、一切の抵抗を許される事なく呑み込まれ、掻き消されてしまっていた。
ゆっくりと両腕を下ろすユニ。
浄化の光を背にして、彼女は振り返った。
「ごめんねジョンス。せめて、一緒に逝こう」
そう言って、彼女は微笑んだ。
絶望による終わりではなく。せめて、せめて二人で。
孤独ではなく、一緒に。
記憶出来ない未来へと。
☆ ★ ☆ ★
空に飛ばれては翼を持たない人間では何も出来ない。あの高さまでジャンプするなんて不可能だ。
「そのコート。あくまでそれ自体の防御性能がとんでもないってだけで、自身の周辺に結界を張ってるとか、そういう効力はないよね。それなら全身を飲み込むほどの力が吹き飛ばせば良いだけだよ!」
翼をはためかせて空中に留まったまま、左手で支えるように右腕を突き出すグラ。
彼女の手の平に発生するのは紅蓮に染まった炎球ではなく、純白に染まった光。
「さっきの炎と同じとは思わない方がいいよ。新人天使だからコントロールはまだ完全じゃないけど、加減なんていらないもんね!」
グラから濃密な魔力が溢れ出し、俺たちのところにほとんど届く事なく彼女の手へと圧縮されていく。
「範囲を絞る事もしない。全力で滅ぼしてあげる! さあっ、どうする[解放者]!」
圧縮された光が解き放たれる、それは巨大な破壊の光線となって世に顕現した。
攻撃範囲が広過ぎる。今から回避するのは不可能だ。ならば防御。どうやって?
光線を刀で防ぐなんて無理だ。ならばこの紅蓮の衣なら可能か?
それは確信だった。本能的にわかってしまった。この攻撃を衣で防ぎ切る事は出来ないと。
炎弾とは違うんだ。あれは着弾の衝撃と爆発を防ぐ事が出来れば、その後の火柱は収まるまで体勢を低くする事でやり過ごす事が出来た。勿論それも衣の防御性能があるからこその方法だったが、過去に似たような事をした経験があるから大丈夫だと確信していた。
だが、あれはダメだ。あの光は耐えられない。衣が耐えられないのではない、衣を支える俺の身体そのものが耐えられないんだ。
一瞬ではなく、継続的に加えられるであろう圧力。その中、衣による防御を続けるなんて不可能だと、わかってしまった。
(俺は……死ぬのか?)
あれを受ければ俺は死ぬだろう。きっと骨すら残す事なく消滅するだろう。
気が付けば生まれ、意識が芽生え、歩いている。
生は唐突が始まる。ならば死もまた唐突なのだろう。
避けられぬ死を前にしているというのに、意外なほどに冷静だった。
そうか、俺は一度記憶を失い、過去を失った。過去つまり時間だ。時間とは生命の歩み。俺は既に一度死んだ事があるんだ。
だから、二度目の死。また、繰り返すんだ。
死と生を。
恐怖はない。だって次の俺は完全に俺じゃないから。
来世の俺は、俺ではないから。次はちゃんと真っ新にしてくれる。
もう、あの感覚に襲われる事はない。あの、どうしようもないほどの喪失感を。
「ジョンス!」
そうだった。ここにはユニもいるんだ。……大丈夫。あそこなら巻き込まれる事はない。
あーあ、ハーレムは夢に終わったな。きっと大勢が側に居てくれれば俺の欠けてしまった心も満たされると思ったのに。でも、もう関係ないか。
俺という心は、ここで終わりなのだから。
受け入れよう。安息の闇を。
瞳を閉じよう。
「ジョンス!」
暗闇の中、暖かさを感じた。浄化の光ではなく。暖かな生命の熱。
目を開けるとそこにはユニの姿があった。
(ユニ? なんでっ!?)
さっきまでは確かに安全圏にいた。だというのに今、彼女は目の前にいた。
ユニの背中からはいくつかの煙が立ち昇っていた。そしてさっきまで立っていた地面は焼け焦げていた。
血族による属性の遺伝。ユニはまさか爆炎によって己を押し出し、ここまで来たのか?
「ユニちゃん!? ダメ! 逃げて!」
「うるさい! 炎はあたしの覚悟に応えてくれた! あたしはあたしを超える! もう諦めない! 勝負よグラお姉様!」
ユニは体から煙を上げながら腰にある双剣を握り締めると、その手に紅蓮の光を宿した。
「もう一度だけで良い、応えて! お願い!」
ユニが双剣を鞘から抜き放つのと同時に放たれる十字の炎。
グラの放つ光線と比べれば小さく、ちっぽけな光だ。
それでも、そこに込められた願いは強い。
ずっと目覚める事のなかった炎の力。それが覚醒するほどの想い。
心の底から救いたいと、深く、強い渇望の力。
「いけえええぇぇぇっ!」
——しかし、この世に奇跡なんて存在しない。
「そんな……」
ユニの放った十字の炎はグラの光線に当たった瞬間、一切の抵抗を許される事なく呑み込まれ、掻き消されてしまっていた。
ゆっくりと両腕を下ろすユニ。
浄化の光を背にして、彼女は振り返った。
「ごめんねジョンス。せめて、一緒に逝こう」
そう言って、彼女は微笑んだ。
絶望による終わりではなく。せめて、せめて二人で。
孤独ではなく、一緒に。
記憶出来ない未来へと。
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