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第三十七話 声
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ねえジョンス君。
覚えてる?
ボクたちが初めて出会ったあの日に、キミがなんて言ったのか。
確かあの時は今のキミが目覚めて一ヶ月ぐらいだったよね。
あの日はそう、ボクが山で採取をしていたら、山賊たちに囲まれたんだ。
人を攫って売り物にし利益を得る悪者。
そこにキミは現れたんだ。
まるで勇者のようにキミは颯爽と現れ、山賊たちを斬り捨てた。
元々その山賊たちは賞金首だったらしく、殺しても問題はなかったらしい。
だけど、相手は山賊。悪者だとしても人間だ。
人が人を殺す。一体どれほどの覚悟が必要だったのか。ボクは素直に凄いって思ったんだ。
強い意志を持って悪を討つ。キミは本物の勇者だと、そう思ったんだ。
——でも、それはキミの後ろ姿を見ている時だけだった。
その瞳を見た時、ボクはキミを誤認していたってわかったんだ。
キミの瞳に光なんてなかった。
勇者は光に満ちた存在。だけど、キミの瞳にあるのは深い絶望だった。
その後、ボクはキミの過去を知った。
過去の記憶がない。何もない。だから進むしかなかった。キミはそう言ったよね。
でもねジョンス君。それは普通じゃないんだよ。
ある日突然、記憶を失って目覚める。最低限の人間的知識はあっても、キミを証明する記憶は何もない。
ねえ、ジョンス君。普通はね、そこで立ち止まるんだ。
何もわからない。自分も世界も、頼れる人も、知っている町も、何一つわからない暗闇。ある日突然そんな状況に迷い込んだ人間は、動けなくなるんだ。
だけどキミは進んだ。
それは強い意志故に成せる事、普通ならそう思う。でもボクの見解は違うよ。
キミは、人間じゃないんだ。
あの時のキミは躊躇いなく山賊たちを殺していた。相手は賞金首、殺す事に罪はない。だけど、人が人を殺すというのはキミが思っている以上に難しいんだ。
技術的な話ではなく、心による葛藤。
目覚めたキミはすぐに動き出した。ギルドに向かい、ハンターとなった。
生きるには食べないといけない。食べるにはお金が必要だ。多くの若者がそうであるようにハンターになる事は最善策といっても良かったとボクは思うよ。
そしてキミはハンターとなった。
選ぶ仕事は常に賞金首狙い。盗賊や山賊の討伐任務。
——異常だよ。
記憶を失ったキミの心には刻まれていたんだ。
悪を憎む心? 違う。奪われる事に対する異常な拒絶反応だ。
だからキミは人の自由と尊厳を奪い去る悪を斬り続けた。躊躇う事なく、斬って前に進む。
もう奪われないために貪欲に力を求め、戦い続けた。
最初から全部わかったわけじゃないよ。キミと交流する中で少しずつ知ったんだ。
そして今、キミは人間になりつつある。
人間を同種とは思わず、斬る事に躊躇いのない人外。それがキミの力の根源。
人外が人間となる。それは悪い事じゃない。むしろボクはキミが人間になってくれると、人間に戻ってくれるその日を望んでいた。
——でも、今はそれじゃあダメ。
キミは人間に近付くたびに弱くなる。
キミの心は力の源から離れて行く。
少しずつ、だけど確かにキミは弱く、弱く、人間へと還る。
だけど安心して。
人間は決して弱いだけじゃない。
人外の心が放つ力は確かに強いけど、人間にだって力はある。
キミは目覚めたその瞬間から特別だった。だからどうやってその力を目覚めさせるのか理解出来ていない。感覚的に最初からあったから。
意識しなければその子は応えてくれない。
キミの心を解放しよう。キミの心に刻まれた拒絶を。
ユニちゃんを失っても良いのかい?
ユニちゃんの生命を奪われても良いのかい?
今回はボクが手伝ってあげるよ。
だからね。
その子の名前を呼んであげて。
その子の名前は——
——『酔い狂え・【秘刻血界《ひこくけっかい》】』
☆ ★ ☆ ★
覚えてる?
ボクたちが初めて出会ったあの日に、キミがなんて言ったのか。
確かあの時は今のキミが目覚めて一ヶ月ぐらいだったよね。
あの日はそう、ボクが山で採取をしていたら、山賊たちに囲まれたんだ。
人を攫って売り物にし利益を得る悪者。
そこにキミは現れたんだ。
まるで勇者のようにキミは颯爽と現れ、山賊たちを斬り捨てた。
元々その山賊たちは賞金首だったらしく、殺しても問題はなかったらしい。
だけど、相手は山賊。悪者だとしても人間だ。
人が人を殺す。一体どれほどの覚悟が必要だったのか。ボクは素直に凄いって思ったんだ。
強い意志を持って悪を討つ。キミは本物の勇者だと、そう思ったんだ。
——でも、それはキミの後ろ姿を見ている時だけだった。
その瞳を見た時、ボクはキミを誤認していたってわかったんだ。
キミの瞳に光なんてなかった。
勇者は光に満ちた存在。だけど、キミの瞳にあるのは深い絶望だった。
その後、ボクはキミの過去を知った。
過去の記憶がない。何もない。だから進むしかなかった。キミはそう言ったよね。
でもねジョンス君。それは普通じゃないんだよ。
ある日突然、記憶を失って目覚める。最低限の人間的知識はあっても、キミを証明する記憶は何もない。
ねえ、ジョンス君。普通はね、そこで立ち止まるんだ。
何もわからない。自分も世界も、頼れる人も、知っている町も、何一つわからない暗闇。ある日突然そんな状況に迷い込んだ人間は、動けなくなるんだ。
だけどキミは進んだ。
それは強い意志故に成せる事、普通ならそう思う。でもボクの見解は違うよ。
キミは、人間じゃないんだ。
あの時のキミは躊躇いなく山賊たちを殺していた。相手は賞金首、殺す事に罪はない。だけど、人が人を殺すというのはキミが思っている以上に難しいんだ。
技術的な話ではなく、心による葛藤。
目覚めたキミはすぐに動き出した。ギルドに向かい、ハンターとなった。
生きるには食べないといけない。食べるにはお金が必要だ。多くの若者がそうであるようにハンターになる事は最善策といっても良かったとボクは思うよ。
そしてキミはハンターとなった。
選ぶ仕事は常に賞金首狙い。盗賊や山賊の討伐任務。
——異常だよ。
記憶を失ったキミの心には刻まれていたんだ。
悪を憎む心? 違う。奪われる事に対する異常な拒絶反応だ。
だからキミは人の自由と尊厳を奪い去る悪を斬り続けた。躊躇う事なく、斬って前に進む。
もう奪われないために貪欲に力を求め、戦い続けた。
最初から全部わかったわけじゃないよ。キミと交流する中で少しずつ知ったんだ。
そして今、キミは人間になりつつある。
人間を同種とは思わず、斬る事に躊躇いのない人外。それがキミの力の根源。
人外が人間となる。それは悪い事じゃない。むしろボクはキミが人間になってくれると、人間に戻ってくれるその日を望んでいた。
——でも、今はそれじゃあダメ。
キミは人間に近付くたびに弱くなる。
キミの心は力の源から離れて行く。
少しずつ、だけど確かにキミは弱く、弱く、人間へと還る。
だけど安心して。
人間は決して弱いだけじゃない。
人外の心が放つ力は確かに強いけど、人間にだって力はある。
キミは目覚めたその瞬間から特別だった。だからどうやってその力を目覚めさせるのか理解出来ていない。感覚的に最初からあったから。
意識しなければその子は応えてくれない。
キミの心を解放しよう。キミの心に刻まれた拒絶を。
ユニちゃんを失っても良いのかい?
ユニちゃんの生命を奪われても良いのかい?
今回はボクが手伝ってあげるよ。
だからね。
その子の名前を呼んであげて。
その子の名前は——
——『酔い狂え・【秘刻血界《ひこくけっかい》】』
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