若き二つ名ハンターへの高額依頼は学院生活!?

狐隠リオ

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第四十話 希望への一歩

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「ジョンス! これは警告ね。アタシの可愛い妹たちとカユちゃんにアール指定なあーだこーだした場合、先輩たちの力を借りてでも叩き潰すから。おーけい?」
「姉だろうとそういう深い話は干渉しない方が良いぞお姉様」
「……ムカつく」
 プクーと頬を膨らませた後、翼をはためかせる速度を上げるグラお姉様。

「あっそうそう。壁の戦いならもう終わってはずだよ。だから安心しなー」
「えっ、それって」

 ニコッと笑みを浮かべるお姉様。

「最後に一個助言ね。これはアタシの可愛い妹を守るって男を見せたアンタへの姉としてのお礼というか、まあそんな感じのあれね!」

 お姉様は少し気まずそうに言うと、ピンと人差し指を伸ばした。その先にあるのはジョンスが握る剣。

「その刀から吹き出す赤い水による攻撃なら、硬い竜化鬼にでも有効打を与える事が出来ると思うよ。でも、その力はあまり使わない方が良い」
「どういう事?」
「アンタ自身わかってると思うけどね。だからこそあたしが天使の力を出すまで使わなかったんでしょ? 大きな力にはそれだけリスクもある。でもそれ無しじゃ竜化兵には通用しないだろうねぇー。だからもっと強くなりなよ。その力に頼らなくても強くなれるように、アンタ自身の力をね!」

 強く羽ばたき上昇していくお姉様。

「グラお姉様!」
「じゃあ、またね!」

 周囲を覆っていた半球状の結界が崩壊していく。
 てっぺんから崩れ消えるようにして空が見え始めた。その隙間を通り、どこかに飛び去ってしまうグラお姉様。

「お姉様……」

 本当に残ってはくれないのね。お姉様は敵になってしまったの? でも、あたしたちの事を想う気持ちはきっと、きっと本物よね?

「ユニ」
「ジョンスありがとう。あんたがいなかったら今頃あたしは……」
「気にすんな。それに礼を言うのは俺の方だ」
「えっ、どうしてよ?」
「お前が身を挺してまで俺を助けてくれようとした。だから俺はこいつの力を引き出す事が出来たんだ。だからありがとな」
「それってどういう事?」

 なんだかよくわからない事を言って微笑むジョンス。
 いつものムカつく顔じゃない。優しい表情だった。

「まあともかくだ。良かったな、グラが生きていて」
「……でも」

 死んだと思っていたグラお姉様が生きていた。それは確かに嬉しい。心の底から嬉しいと思える事だわ。
 ……だけど、立場は……グラお姉様は、天使……。

「確かに立場は違う。国視点なら裏切り者だ。だけど、グラはお前らを捨てたわけじゃない。むしろお前らと共に生きるために、力を得るために天使になった。話を聞く限りそんな感じだっただろ? だからそんな悲観的になるなよ。また一緒に、姉妹三人で笑い合える日がいつか来る。俺はそう思うぞ」
「ジョンス……」

 また、三人で笑い合える未来。本当に、そんな日があるのかしら……。

「はぁー、なあユニ。グラがこの国に何をした?」
「……え?」
「確かにグラは[四方]という国から脱し、天使、つまり[帝国]の所属になった。それは紛れもない事実っぽいな。だからといってこの国にどんな不利益をもたらした? 侵略行為を行ったか? 違うだろ、侵略してるのは[帝国]じゃない[アベル]だろ。それならこの国が、[四方]が[帝国]と手を取り合う未来があるかもしれない。その時はグラと笑い合う事になっても問題ないだろ?」
「それは……でも[帝国]は、天使は……」
「そんな顔するなって、ともかく今はグラが生きてた。細かい事なんて気にしないでその事実だけを喜んでも良いんじゃないか?」

 お姉様の生存を喜ぶ。本当に良いの?
 でも、そうよね。良いわよね!

「確かにそうかもしれないわね。うん、そうよ、そうだわ! 良かった、本当に良かった。グラお姉様が生きてた!」

 立場は違う、変わってしまったかもしれない。それでも生ききているのよ。生きているのなら未来がある。絶望なんてする必要ないわ。

(グラお姉様が生きているなら、もしかするとマリン先輩も?)

 ずっと炎の力が目覚めなくて悩んでいたあたしを救ってくれた恩人。竜化鬼によって殺されたって聞いたけど、もしかすると違うのかもしれない。

「ソラお姉様とカユさんに確認しないとだわ」
「ああ、そうだな」

 あの時二人から説明された話には不審な部分があるわ。もしかして本当はグラお姉様が生きている事を知っていたのかもしれない。

『炎の力がユニちゃんの全てじゃないのです。それにまだまだ若いんだから焦る必要なんてないのですよ。焦らずに剣の道を歩んでいれば、炎だって応えてくれるのです』

 マリン先輩。マリン先輩の言った事、本当だったよ。
 炎はあたしに応えてくれたよ。

「ジョンス、戻るわよ。ソラお姉様とカユさん。二人と話さないと」
「ああ、そうだな」

 空を見上げても既にグラお姉様の姿は何処にも見当たらない。だけどそれでも構わないわ。あたしは空に向けて手を伸ばした。

「グラお姉様。必ず証明してみせるわ。一ヶ月後に、あたしたちが希望を」

 今は届かなくても、必ず。必ず捕まえてみせるわ。
 グラお姉様。あたしはあなたを取り戻す。
 決意を胸に、ジョンスの後を追いかけようとした時だった。

「……え?」

 目の前を歩いていたジョンスが突然倒れた。

「ジョンスっ!?」

 慌てて駆け寄ったけど、どうしてっ意識がない!?

「ジョンス! ジョンス!」

 彼が倒れた拍子に鞘から少し抜けてしまった剣は真っ赤に染まっていた。
 まるで、血のように。
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