雨と五線譜

ぱり

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雨奇晴好(ありのままを受け入れる)

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その日は朝から何かおかしかった。
何が?と聞かれてもよく分からないのだが、確実に普段と違うことが多すぎた。
目が覚めた瞬間にその違和感はあった。いつもと同じ部屋同じ布団同じ時計…
しかし何かが違う…そんな気がしながらペタペタと階段を降りた。
頭はまだ見ていた夢のせいかぼーっとしている。実はまだ夢の中だったりして、何て思ったけどそんなことはなくごくありふれたいつもの現実だった。
「おはよ~、今日はパンケーキを作ってみました。」
母がルンルンでお皿を出す。目の前にはふんわりとろっとした雑誌に出てきそうなそれがあった。
「ぱ、パンケーキ…?」
未だかつて棚部家の食卓にパンケーキなるものが並んだことなどない。断じてない。そんなオシャレなもの場違いすぎてこれ合成じゃないの?幻覚?
「おいしいよ、早く食べなよ」
兄がもぐもぐパンケーキを食べていた。「え、貴一兄…今日早いね…」
兄はすました顔で牛乳を飲んでいる。嫌いだったよね…?牛乳…
「今日は朝から予定があるから」
貴一兄はいわゆるフリーターで、仕事も午後からが多い。朝が苦手で起きてくるのはいつもお昼なのに…
俺はいつもの席に座りパンケーキを食べ始める。うま…
こんな朝の風景今まであっただろうか…

他にも、いつもの朝の番組が違っていたり(これは父の気分だったらしい)いつも膝に乗ってくる猫のゴンゾウが棚の上から降りてこなかったり、おかしいと思いつつも騒ぎ立てる程ではないのでもやもやしながらバイト先へと向かった。

バイト先に着くとなぜか皆んなに注目された。
え?なに?俺なんか変??疑心暗鬼になる俺に同期の安西が言った。
「お前今日シフト入ってたっけ」
壁に貼ってあるシフト表を見る。
俺の今日の欄にはバツ印が書いてあった。

俺はなにか、狐につままれているんだろうか…
確かにシフト上では俺は休みになっている。それは紛れもない事実だ。
しかし俺は絶対今日シフトに入っていた。はっきりそう覚えているのに。
そうなると俺の方になんらかの問題があるってことになる…
頭の中で若年性なんちゃらであるとか記憶障害、多動性おっちょこちょいなどの言葉が浮かんでは消えて行く。
もはやこれは時空のねじれとしか考えられない!
俺は時々この"時空のねじれ"(と勝手に呼んでいる)に陥ることがある。それはバスの中でふと気づくと時間が異常に進んでいたり、子どもの頃手に持っていたはずのおもちゃが消えていたり不可思議な体験ばかりだ。なんだか時空のねじれのせいにしてしまっている風もあるがあえてそこには触れないでおこう。
そんな事を考えながら俺は自転車をノロノロと漕いでいた。急な休日ができたけれど、このまま家には帰りたくないし、かと言って用事もないし…
ふと、目の端に何かが映った。振り返ると空色のトレーナーを着た男の子のようだ。コンクリートの道に座り込んで泣いているように見えた。
断っておくと俺は超がつくほどの人見知りだし、面倒なことには関わりたくないタチだし、間違っても泣いてる子どもに優しく声をかけるタイプではない。(ひどいやつだ)
では、ない、はずなんだが…
気づくと少年の前に立ち、「どうしたの?」なんて聞いてるもんだから俺が1番びっくりした。
少年も、というかよく見たら同じくらいの歳じゃないか?俺はどう見間違えたんだよ…その少年もこちらを見上げて急に声をかけてきた俺を不思議そうに見つめていた。急激に後悔している俺。バカなのか?俺は。
「…え?」
少年は不思議そうに俺を見ている…
少年はハッとするような美青年だった。俺はドギマギしながら無様に言葉を繋げる。「あ、いや、ごめん、なんか泣いてるように見えて…って勘違いだったんだけどハハハハハハ…」
相手が相手だったら完全に変質者だぞと自分に毒づく。
「うーんと、」
青年は少し空を見上げて俺に視線を合わせた。綺麗な瞳にドキッとする。ドキッてなんだよ俺…
「泣いてはいないけど、困ってはいるかな」
青年は少しいたずらな笑みを浮かべたように見える。
夏はまだ始まってないけれど、その青年の声を聞くと夏の訪れを感じさせる響きがあった。

「だがしを食べたいんだ」
青年は少しうつむきながら言った。黒い髪の毛が彼の横顔を一層引き立てている。
「駄菓子って…うまい棒とか?」
「うん、10円とか20円とかの」
「スーパーで買えばいいじゃん」
うーん、青年は少し眉間に皺を寄せて考えていた。そんな顔してもかっこいいってアリかよ。
「スーパーじゃなくて、そういうんじゃないやつ」
「えーとつまり駄菓子屋ってこと?」
「そう!」
青年は嬉しそうに笑った後、更に笑顔を輝かせて俺に言った
「ねぇ、きみ連れてってよ」
「は?」
「どうせ暇なんでしょ?」
まぁ確かに暇ではある。
しかもこの近くに駄菓子屋があることを俺は知っている。
「しょうがないな…いいよ教えてあげる」
どうせすることなかったくせにと言われておいっと心の中で怒鳴った。

「ねぇ、どうしてそのやつをパカパカしてるの?」
あおいはプチプチとアルミ容器から小さなつぶつぶのチョコを取り出しては口に入れていた。「また△かぁ」とぶつぶつ言っているのはチョコを開けた後にあるマークを見ているから。一つ一つのチョコが入っているスペースには「勉強」「恋愛」「健康」などなど様々なジャンルが書いてあり、チョコを押し出した後にマークが見えるようになっている。◎が書いてあるとなんだか嬉しい、占いチョコなのだ。
蒼は最近この辺に引っ越してきたらしく色々知らないことがあるらしい。しかも今まで住んでいた場所が外国だったらしく日本の文化もよく知らないそうだ。の割に日本語はペラペラ話すので不思議である。
歳は俺より3つ下だったのでまだ高校生らしい。駄菓子屋に着くと
その高校生らしからぬ真剣さで駄菓子を吟味し、選出し、悩みに悩んで300円ほど買った。駄菓子だったのでそれなりの量を買って満足そうではあった。
そしてその駄菓子屋のすぐ横にある公園のベンチで座って2人で駄菓子を食べている。なんとも変な成り行きだ。

「え?、パカパカって…あぁ携帯のこと?」
無意識の行動だったので反応に遅れる。「意味なんてないよ」
「ふーん、意味ないのに何回もするんだね」
蒼は疑うような目で見てくる。
「いや…そんな目で見られても…まぁ強いて言うなら連絡がこないかなーって確認してるのかな」
「連絡?確認?」
なぜか蒼の前では隠したり、ごまかしたりすることが困難になる。
「そう…確認」
言ってから少し後悔する。さっき会ったばかりの知らない高校生に何の話をしているんだろう。
「何の?」
蒼は純粋に疑問をぶつけてきた。
その時俺は何で蒼に対してこんなに赤裸々に自分の思いを話せたのかは疑問である。心のどこかで誰かに打ち明けたい!と思っていたのだろうか。それとも蒼特有のピュアな感じが話しやすさを増長させたのだろうか。
「何のって…大事な連絡だよ」
「大事な連絡」
「そう、内容はともかく」
俺はふとあの日のことを思い出す。古い本の匂いや静けさや栗毛のあの子のことを。
「内容はともかく、その人は大事だ」
そこからいつの間にか男2人の恋愛トークへと発展して行く。

「じゃぁ、その人のことが好きなんだね」
素直に俺は頷く。そう、好きみたいだ。
「でもさ、そうやって何回も確認したって何も変わらないでしょ?」
「ま、そうだけど、多分連絡が来たら早く気づけるように…やってるのかな」
「なんで?」
蒼は好きな人がいないんだろうか…
「なんでって…単純に嬉しいんだよ」
「連絡?がくることが?」「そう」
「早く気づけると嬉しい?」
「うーん、なんて言うか…早く返事を返したい!って思うのかもな。あ、いやーでもあえて返事を遅らせるパターンもあるけど…」
なんてぶつぶつ言っていると蒼は「よく分かんないや」と笑った。

「ねぇ他にはさ、好きな人がいるとどんなことをしちゃうもんなの?」
蒼は目をキラキラさせて聞いてきた。「その携帯、パカパカ以外に」
「はぁー?俺の意見だから世間一般的じゃないかもしれないぞ?」
うんうん、と蒼は興味津々だった「全然いいよ!」
なんなんだろう…こいつ…
「そうだな…こう、ぼーっとその人のことを考えたり…」「考える?」
「そう、今なにしてるのかなーとか、その人の過去とか未来とか考える」
「それが楽しいの?」
「いやほぼ無意識にやっちゃうんだ。だから風呂に入ってる時も仕事中もふっと頭に浮かんじゃうんだよな。正直もう考えたくない!って思っても考えちゃうんだよ」
「へ~~」「まぁ俺の場合だけど」
「他には?」
「そうだな…その人に関係するものを見つけると嬉しくなる」
「つまり…?」
「例えばその人がひまわりを好きだとするだろ?そしたらたまたま花屋の前を通った時にひまわりを見つけると、あっひまわりだってそれだけで少し嬉しくなるんだよ」
「なるほど、それは分かる気がする」
初めて蒼の共感を得た。
「あとはやっぱり」「やっぱり?」
「その人にすごく会いたくなる」



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