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六
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翌日、文次朗は、同じ時刻に関の屋台に向かった。放っておけばいいのに、気になって仕方なかった。
しばらく離れたところから見ていると、戸川が姿を見せた。
動きがあったのは蕎麦を食べ終えてからで、何事か言い争っていた。
離れていたのでよくわからないが、おおむね話しているのは戸川で、関はたまに言い返すだけに終わっていた。
刀を抜いての争いになったら止めに入るつもりだったが、それ以上、両者の争いが激しくなることはなく、戸川は静かに立ち去った。
その姿が寂しげに見えたのは、気のせいではあるまい。
彼の背中に引きずられるようにして、文次朗は後をつけた。
頃合いを見て声をかけるつもりだったが、両国橋を渡って回向院の裏手に入ったところで、気配が変わった。
武家屋敷に入って人気がなくなったところで、急速に殺気が高まっていく。
ふと文次朗が視線を転じると、身なりの整った武士が姿を見せ、戸川の背後に回り込んだ。
数は五人で、そのうちの三人がすでに刀に手をかけている。
戸川は振り向くことなく、淡々と歩いている。
たまらず文次朗は速歩で五人との間合いを詰めると、石を拾って投げつけた。
一つが後方の武士にあたり、振り返る。
ようやく彼が後にいることに気づいたようで、残りの四人に声をかける。
文次朗は、戸川とは逆方向に歩いて、武士の集団を彼から引き離した。
声をかけたのは、回りに人気がないのを確認してからだ。
「おぬしら、いったい何者だ。あの御仁に何の用か」
五人は答えず、半円の陣形を組んで文次朗を取り囲んだ。殺気は強いままだ。
「戸川殿に殺気を向けておったな。あの方が何をした」
返事はない。そればかりか全員がいっせいに刀を抜く。
信じられない。今時、声をかけただけの者に刀を向けるか。
よほど馬鹿なのか。あるいは、何か裏があってのことなのか。
「やるつもりはない。理由を話してくれれば、それでいい」
答えは裂帛の気合いによって示された。
前の二人が間合いを詰め、上段からの刀を振りおろす。
文次朗が右に跳んで避けると、今度は横薙ぎの斬撃が来る。
これもかわすと、今度は三人目の男が出てきて、文次朗の胸をねらって強烈な突きを放つ。
本気で攻めてきている。
大事になってもかまわないと考えているのか。ならば……。
文次朗は、右からの一撃をかわしたところで刀を抜いた。機先を制して踏みこむと、右から来た敵の手を切り裂く。
ぎゃっと悲鳴をあげて、男が下がる。
他の四人が動揺したところで、文次朗はさらに間合いを詰め、中央の男の足を切り裂いた。
血が噴き出して、袴を濡らす。
「下がれ。手当てをすれば、間に合う」
文次朗が声を荒げる。
「これ以上、やりあえば誰かが死ぬ。みっともない姿をさらせば、主に害が及ぶことは必定。おぬしらが腹を切っただけではすまぬが、それでよいのか」
思いきり脅しをかけると、五人はあからさまにひるんだ。左右を見回すと、文次朗に背を向けることなく下がっていく。
全員が小路に姿を消した時、雲間から夕陽が姿を見せ、朱色の光が空き地を照らした。
文次朗は息をついた。何とか事を収めることができた。
しかし、五人の武士が刀を抜いて斬りかかってくるなど、尋常のことではない。
間違いなく裏がある。そして、それを知っているのは、おそらく……。
しばらく離れたところから見ていると、戸川が姿を見せた。
動きがあったのは蕎麦を食べ終えてからで、何事か言い争っていた。
離れていたのでよくわからないが、おおむね話しているのは戸川で、関はたまに言い返すだけに終わっていた。
刀を抜いての争いになったら止めに入るつもりだったが、それ以上、両者の争いが激しくなることはなく、戸川は静かに立ち去った。
その姿が寂しげに見えたのは、気のせいではあるまい。
彼の背中に引きずられるようにして、文次朗は後をつけた。
頃合いを見て声をかけるつもりだったが、両国橋を渡って回向院の裏手に入ったところで、気配が変わった。
武家屋敷に入って人気がなくなったところで、急速に殺気が高まっていく。
ふと文次朗が視線を転じると、身なりの整った武士が姿を見せ、戸川の背後に回り込んだ。
数は五人で、そのうちの三人がすでに刀に手をかけている。
戸川は振り向くことなく、淡々と歩いている。
たまらず文次朗は速歩で五人との間合いを詰めると、石を拾って投げつけた。
一つが後方の武士にあたり、振り返る。
ようやく彼が後にいることに気づいたようで、残りの四人に声をかける。
文次朗は、戸川とは逆方向に歩いて、武士の集団を彼から引き離した。
声をかけたのは、回りに人気がないのを確認してからだ。
「おぬしら、いったい何者だ。あの御仁に何の用か」
五人は答えず、半円の陣形を組んで文次朗を取り囲んだ。殺気は強いままだ。
「戸川殿に殺気を向けておったな。あの方が何をした」
返事はない。そればかりか全員がいっせいに刀を抜く。
信じられない。今時、声をかけただけの者に刀を向けるか。
よほど馬鹿なのか。あるいは、何か裏があってのことなのか。
「やるつもりはない。理由を話してくれれば、それでいい」
答えは裂帛の気合いによって示された。
前の二人が間合いを詰め、上段からの刀を振りおろす。
文次朗が右に跳んで避けると、今度は横薙ぎの斬撃が来る。
これもかわすと、今度は三人目の男が出てきて、文次朗の胸をねらって強烈な突きを放つ。
本気で攻めてきている。
大事になってもかまわないと考えているのか。ならば……。
文次朗は、右からの一撃をかわしたところで刀を抜いた。機先を制して踏みこむと、右から来た敵の手を切り裂く。
ぎゃっと悲鳴をあげて、男が下がる。
他の四人が動揺したところで、文次朗はさらに間合いを詰め、中央の男の足を切り裂いた。
血が噴き出して、袴を濡らす。
「下がれ。手当てをすれば、間に合う」
文次朗が声を荒げる。
「これ以上、やりあえば誰かが死ぬ。みっともない姿をさらせば、主に害が及ぶことは必定。おぬしらが腹を切っただけではすまぬが、それでよいのか」
思いきり脅しをかけると、五人はあからさまにひるんだ。左右を見回すと、文次朗に背を向けることなく下がっていく。
全員が小路に姿を消した時、雲間から夕陽が姿を見せ、朱色の光が空き地を照らした。
文次朗は息をついた。何とか事を収めることができた。
しかし、五人の武士が刀を抜いて斬りかかってくるなど、尋常のことではない。
間違いなく裏がある。そして、それを知っているのは、おそらく……。
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