このセカイで僕が見つけた記憶

さくらもち

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十三話

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「こっちのテンとツバサ……?」

 記憶を触った先には、テンとツバサが虚ろになっている姿が目に写った。
 何もやる気が起きないようで、へたり込んでいる。
 特に、ツバサに関しては本当に心が壊れてしまった様な表情だ。

「ねぇ……ツバサ。ツバサは僕をおいてかないよね?ツバサは一緒にいてくれるよね?」

「あぁ、きっと…な……」

 けど、その瞳には何もうつらない。テンの顔も、何もかもがうつらなくなってしまっていた。

「これって、さっきの記憶と繋がってる……?」

 これは、祐希先生がいなくなってしまった事の後なのだろう。

 ツバサは立ち上がり、テンを置いてどこか行ってしまった。
 けど、テンは追いかけるのすらもう疲れてしまったのか、追いかけようとしなかった。

 僕は急いでツバサの後を追いかけた。

 ツバサは、誰もいない廃墟で一般的に使われている鋭く光ったナイフを手に持っていた。
 きっと、孤児院の調理室とかで持ち出したのだろう。

「先生……僕も行くから……な…だから、待っててくれ。逝くから………弱い自分を許してくれ」

「ツバサ…っ……ツバサは弱くなんてない…!ないから!!」

 ツバサはそっと自分の首中心に鋭い刃を向けた。
 少しだけほっとした笑みも混じっており、こっちが泣きそうになった。

「神様、僕に罪をーー」

「ま…っ……!」

 ツバサに手を伸ばそうとすると、僕に残ったのは真っ赤な血だった。
 返り血が飛んで、僕は真っ青になった。救えなかったのだ。

 たった一人だけでも救えなかったのだ。

「僕は……人殺しだ…」

 手についたツバサの血を見て、何もできなかった。
 ここが記憶の中なのはわかってる。けど、それでも僕は人殺しなんだ。

「……いや、テンのところに戻らなきゃ」

 使命かのように、テンのところへ戻ろうとした。

 けど、突然目の前が変わった。

 廃墟も、真っ赤に染まったツバサもいない。

 ただ、見たことのあるところでずっとただ一人、誰かを待っている僕の姿が目にうつった。

 一番最初の頃、ツバサに会ってない時の頃。

「僕が待ってたのは、お母さんじゃないの?ツバサを待ってたの……?」

 その時、やっと思い出した。
 元々、僕が待っていたのはお母さんなんかじゃない、ツバサや祐希先生なのだ。

 そして、僕はずっとただ一人、偽りのセカイで過ごしていたのだと。

 祐希先生が死んだあと、ツバサが死んで、精神が参ってしまったのだろう。

 だから、僕は偽りのセカイを作った。
時間も流れない別のセカイへ逃げ込んだ。

 きっと、お母さんもお父さんも最初から存在しなくて、殴っているお父さんもそれは自分が作り出した幻想だと。

 ただ、二人を守れなかった僕を責めていたのだろう。

 そして、偽りのセカイになっても、

 二人を待ち続けた。

「僕は………自分のセカイを忘れてしまったんだね」

 そうだ、忘れてしまった、いや、失くしてしまった。
 僕は本物のセカイをいらないセカイにしてしまったのだ。

「だからさ……もう、待つのはやめてよ…帰ってこないんだよ?」

 僕が偽りのセカイでずっとずっと待っているその姿を眺め続け、とても胸が苦しくなった。
 けど、自分に問いてもまるで聞こえてないようだった。

「そうだ……月。二つの月……」

 思い出した様に、窓の方を見た。白いカーテンで覆われており、けどその間から差し出す月の光はとても美しい。

 カーテンを開けると、そこはただただ驚くことしかできないくらいに綺麗だった。

 そして、二つの月がもうすぐで満月になりそうな事に気がついた。

「……どうするんだっけ…」

 けど、このセカイからどう出るか忘れてしまった。

「なんなら、このセカイに居ようかな………なんて」

「おい…っ…!」

「へ……?」

 なぜか聞き覚えのある声が耳に入ってきた。そして、後ろから勢いよくチョップで頭を叩かれた。

「う…ぅ…っ…いた…っ…」

「お前なぁ……なんで、記憶の最深部まで行くんだよ」

 はぁと呆れたような声でため息をついた。
 勢いよく振り向くと、やはり思っていた通りのツバサがいた。

 黒いローブをまとった僕が見ているツバサだ。

「ツバサ…!?」

「そんな驚くことないだろ?」

「え、い、いや……なんでこんな所に……」

「あのなぁ……ここは、記憶の最深部。記憶の管理人でも中々入れないんだが………どういう訳か最深部の扉が開き、お前がいたんだ」

 記憶の最深部、なぜこれが最深部なのだろうか。
 そして、ツバサはなんで僕を助けてくれようとしたのだろうか。

「何それ………じゃなくて、ツバサは知ってたの?僕の事も」

「知ってたさ、だからお前がお母さんを待っていると聞いたとき、もしかして、と思った。それで、名前を聞いて確信したんだ」

「……僕は偽物のセカイにいたんだね」

「そうだな。けど、お前が忘れてたモノはそれじゃない、そしてこの記憶は誰のモノでもないんだ」

「は?何それ……わけわかんないよ」

「とりあえず、早く帰ろう。ここにはヒビがないだろ?その理由は最深部だからだ。扉を通らなくては元のセカイに戻れない。説明は後でする、とにかく走るぞ」

 早口言葉でそう言うと、急いだ手付きで僕の手を引っ張った。
 ずっと待ってるテンの事がまだ心残りでテンも連れて行こうとしたが、やはり手からすり抜けてしまう。

「諦めろ、この記憶は誰のモノでもないんだから、お前だって触れない」

 少しだけ悲しそうな笑みを浮かべたあと、また僕の手を引っ張った。
 走って、走って、壁をもすり抜け、息を切らしながら、やっと大きな扉の前へとついた。

 あるような、ないような感じがする不思議な扉だ。

「開けるぞ」

「わかった…」

 本心ではここにいたかった。テンを見守るだけでもしていたかった。

 けど、それは叶わぬ願いだということがわかったから、僕は諦めた。
 ツバサは、僕の手を力強く握りしめながら、大きな扉を力強く押した。キィーッと耳が痛くなる音がなり、光溢れた外が見える。

 そして、光の中に入ると、祐希先生が見えた。

『ありがとう』

 そう問いかけてくれたような気がしたのだ。
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