出来損ないの隠れた聖女は執事と共に幸せになる

一話

「姉と比べてお前は……！こんな事もできないのか！！」

　姉は天才で私は出来損ない。
　なんど生きてきた中で言われたことか。そんなのはもう誰もが知っている事実。
　けど、それは本当だ。
　本当だからこそ反論がどうしてもできない。

「頑張ります……」

　小さな声で精一杯言った。

「お父様、やめましょ？この子にもとめても何もでませんわ」

「うむ、そうだな。こんな出来損ない家の子ではない」

　クレイナが出てきて私の事を嘲笑いながら、見下した。
　父にも母にも姉にも、この世界全員が私の敵だ。しかも、母や父は金色の髪色に葉色の美しい瞳。

　けど、自分は全く違った。それと正反対の、灰色の髪に薄く汚れた白、金色の瞳。珍しいオッドアイだ。

　もうわかるだろうが、私は出来損ないとも呼ばれ、浮気してできた子とも言われてきた。

「ほんっと、あんたって虫けらみたいな存在よね。いや、虫けらにも失礼かもしれないわ」

　ふふっと気味の悪い笑い声をあげながら、お父様と一緒に去っていく。
　どうせ、こんなのいつもの事だ。

「お嬢様！？どうしたんですか！！」

　立ち上がろうとすると、私の執事シン・クイーランが心配そうな顔をしながら近寄ってきた。
　シンは幼馴染でもあり、執事でもある。

　なぜシンが私の執事かと言うと、シンがやりたいかららしい。シンだけは優しいけれど、なんでこんなにも美系なのだろうか。
　直視できないほど美系すぎる。

「いやぁ……派手にやられちゃった」

「『派手にやられちゃった☆』じゃないですよ！！」

「え？モノマネうま」

　ほぼ私の声と聞かされても区別がつかないほどうまくて逆にそっちの方が驚いた。

「とにかく！反論しましょう？お嬢様も僕も、もう子供じゃありません」

「シンはまだ子供だって。そもそも、反論したらそれがまた争いを呼ぶ。この世はそうやってできてるんだよ？」

「子供じゃないですって！」

　そうやって反論する姿はやはり子供っぽい。私はこの姿だけ見れればもういいかもしれない。

「ねぇ、シン？そんなやつに仕えてないで私に仕えなさいよ」

　もう去っていったかと思ったら、またクレイナが私の目の前に立ちはだかった。

「申し訳ございません。僕はお嬢様にしか仕えない主義なので」

「………なによ！なんで、あんたなのよ！！いいじゃない！少しくらいなら…っ……！！」

「私は、シンを縛ってません。彼の意見です」

「っ…！お父様がいない時は生意気になって……！！」

「あら？もちろんですわ。だって、正論ですもの。正論に返す言葉がありまして？その事に気づかないお姉様も失態では？天才なお姉様？」

「…っ…！！！」

　返す言葉がないのかクレイナは私がそう言うとそうそうに立ち去っていった。

　こういうのもちょくちょくある。シンが美系だからって、取ろうとするのだ。

　もちろん、私はシンを縛るつもりはないが、シンはいつだってそう答えた。

「迫真の演技でしたよ？」

「ん～、ありがとう。そういえば、話変わるけど、明日は皇帝の日だね」

　皇帝の日、それは今までやってきた皇帝が引退……というか、その息子に交代する日。

　とは言っても、皇帝の日は皇帝が「皇帝飽きたわ」と思い、いきなり言われ作られるものだ。
　日にちは特に決まってない。

　だから、簡単に言うと、不定期な日に決まりその皇帝が変わる日と覚えとけばいい。

　もちろん、次の皇帝はまだ誰も知らないし、見たこともないので、私だって興味はあった。

「そう……ですね……」

「次の人もいい人がいいよね」

「あの、お嬢様。今晩大事な話がございます」

　口籠っていたシンが勇気を出して、私にそう言っていた。
　私は不安になったのか、苦笑いをして、

「いいよ」

　それだけを答えた。