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不穏な王都編
専属メイドを抱きしめたかった聖女
しおりを挟む私はリュカの顔を見て息を呑んだ。
察しの悪い私でも分かるのは、リュカはこれを見られたくなかっただろうと言うことだ。
約束を破った私が全面悪い、けれどここで謝ると言うことはリュカに謝罪を受け入れさせると言う強制的な行為になるんじゃないかと思った。
私が謝ればきっと『気にしないで』と言ってくると思う、それはこの状況ではそうすることが一番最前だとリュカは思うだろうから。
私は今謝らないことを選択する事にした。
きっと触れられたくない事なのだろう、隠したい事なのだろう、いたずらに話を長引かせる事はしない方がいいと私は思ったのだ。
謝らないことが正解だとは思わない、状況が状況だったとしても約束を破ったのは私なのだ。
もしこの選択が理由でリュカに嫌われてしまったとしても…私は甘んじて受け入れようと思った。
(まぁ、そうなったらことが終わってから土下座でもなんでもして誠心誠意謝る事にする!今はごめんリュカ…)
「リュカ!ヴェルが死にかけてたの!」
「え?」
リュカは思ってた反応と違うことに驚いたのか、ヴェルが瀕死だったと言うことに驚いたのかはわからないが、とにかく驚いていた。
レイとティルも呼んでさっき起こった出来事の話をした私は、ヴェルのいる場所は聞けなかったことをひどく後悔した。
(早くヴェルのいる場所にいかなきゃいけないのに…)
リュカは私の話を聞いた後、私の体を調べてくれた。
リュカ曰く、あの場所で魔力を使ったとしても現実では何も起こらないという。
でも、私の魔力がごっそり減っている事に加え少し傷付いていた魔力回路がさらに傷付いてることから、もしかしたら聖女なことがいい方向に作用したのかもしれないと言ってくれた。
ただ、無意識に現実世界で魔力を放出していただけかもしれないことは私でも分かるのに、その事にリュカも皆も気づいてないわけがないのに…本当に優しい人たちだなと私は思った。
リュカからは『もうこれ以上魔力を使わないでちょうだい。理由は…最悪魔法が使えなくなるからよ』と言われてしまった。
けれど、もしこの先ヴェルを見つけた時に同じ状況だったら私は迷わず魔法を使うだろう。
それから私たちはまたヴェルを探す為森の中を歩き続けた。
時間が刻々と過ぎていく事に私の気持ちは焦り、正常な判断力ができなくなってゆく。
そんな私を3人が上手くフォローしてくれてなんとかできてる状況だ。
(早く、早く探さないと、早く)
そんな時、誰かが草むらの中に倒れてる事に気づいた私は、何か手がかりがつかめるかもしれないと不用心にも走って近づいてしまった。
倒れていた人物は…私と一緒に消息不明になっていたミミちゃんだった。
いつも綺麗にまとめられていた髪の毛がざんばらに切られている上に衣服までボロボロだ。
…まるで魔法の風で全身攻撃されたかのように上から下まで切り傷だらけになっている。
「ひどい…なんでミミちゃんがこんなことに」
「何か知ってるかもしれないわ、話を聞けるといいんだけど…」
そう言って私たちはミミちゃんを介抱する事にしたのだった。
幸いミミちゃんは表面上の傷ばかりだったので命に別状はなさそうだ。
リュカの例の錠剤を砕いてミミちゃんの口へと少しだけ入れ、少しするとミミちゃんが目を覚ました。
ミミちゃんは初め自分の置かれている状況がわかっていない様子で辺りを見回していた。
そして落ち着いた後に私たちはミミちゃんの話を聞く事に。
あの時ミミちゃんは私よりも早く気絶させられたらしく気づけば知らない場所にいたと言うのだ。
そこで拷問を受けここに打ち捨てられたと泣きながら私たちに言う姿は間違いなくミミちゃんで、今すぐ抱きしめて『大丈夫だよ、もう安心して』と言いたくなる。
…けれど私はミミちゃんにそれをしてあげることはできない。
ミミちゃんの背中を支えていたティルに私が目線を向けるが、首を横にふった。
私はそれを見てため息を一つつ吐いた後、核心をつく事にした。
「ねぇ、ミミちゃん。あなたは本当は誰なの?ヴェルの場所…知ってるよね?」
「えっ?」
私がそういうとミミちゃんはひどく動揺をした後に『こんな状態の私に酷いです…』と言ってきたが、それは私のセリフだ。
「ヴェルの場所…教えてもらうわよ」
「はぁ?!私はミミ!何言ってるの??」
そう言ったリュカに対し偽物は自分が本物だと言い張るが、私もみんなも初めから知っているのだ…このミミちゃんが偽物だと。
私は倒れてるミミちゃんを見た瞬間に思い出したことがあった。
それは攫われる時に見た光景だ。
後ろから殴られた私を助けるために近づいてきたミミちゃんの腹に向けて、ドレス姿の女性が魔法を使い…穴を開けていたことを。
誰か人に気づいてもらうためなのか、反射的にでたのかはわからないが大きな叫び声を出すミミちゃん…あの怪我で生きているとは思えなかった私は無言でティルを触りそれを伝えたのだ。
だから話せるだけの量しか錠剤を与えなかった。
そして偽物の背中をティルに支えてもらったことも、全てはこの偽物から情報を聞き出すためだった。
このミミちゃんが本物だったらという私の願いは、偽物が目を覚ました時に見せたティルの表情で悲しくも砕け散ってしまったのだ。
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