やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった

ぽてゆき

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第1章 ロフミリアの3つの国

第8話 この世界のシステムと赤い煙

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「いや、決してあのドラゴンが見境無しに襲ってくるというわけではないんですよ。ただ、敵と判断した場合や身元不明者に関しては容赦しないんです。そして、運の悪いことに、この森付近は人間の国と魔物の国の国境となってまして、色々な意味で非常に微妙なエリアなんですよねぇ……」

 そう言いながら、ポブロトはご愁傷様といった表情を浮かべて首を振った。
 
「なんでドラゴンから身を隠さないといけないの?」

 という直樹からの質問に対する答えがこれ。
 ただ、その言葉を聞いたところで、直樹としては特に震え上がるといったことも無かった。
 ドラゴンという響きに現実味を感じられない上、あんな空高く飛んでいれば、森の中に佇む自分の姿なんてゴマ粒ぐらいにしか見えないんじゃ無いか、という思いもあったからだ。
 それより、国境がどうのこうのという言葉が気になり、左手に持っていた地図に目を落とす。
 そこには、太い線で大きな三角形が描かれており、その中に山や森や湖や町などを現してると思しき簡易なイラストが配置されていた。

「えっと……この森っぽいのがココってこと?」

 直樹は、三角形の真ん中辺りに描かれた木々のイラストを指差した。
 どれどれ……と、ポブロトは直樹の横に並んで立ち、地図を覗き込む。

「あー、そうですそうです! で、この森からツツーっと西に進んだこの辺りが人間の国、東に進んだこの辺りが魔物の国って感じです。ざっくりですけど!」

 ポブロトは、プニプニの指で地図をなぞりながら説明した。
 それによると、ロフミリア全体図を表す三角形の左下の頂点付近が人間の国、右下の頂点付近が魔物の国ということで、初心者でもすぐに覚えやすくて助かるな、と直樹は思った。
 元々方向音痴などでは無かったのだが、スマホの地図アプリを使い始めてからはそれに対する依存度が高くなり、アプリを封じられたとしたら余裕で道に迷ってしまう自信があった。

「なるほど、分かりやすい。ってことは、なるべく東の方……魔物の国方面には行かない方が良いと?」
「ですね~。それはその通りなんですけど、それだけじゃないと言いますか……。とりあえずは、西の方にもあまり進まないほうが良いかと」
「西……ってことは人間の国?」
「ええ。人間の国、その名を<ロフレア>と言います。商人という職業柄、色々な噂を耳にするんですがね、ロフレアの中枢部──特に王族の中には、ナオキさんのような<異世界からの転移者>に対する不信感を抱いてる人たちがいるらしいんです」

 ポブロトはため息をついた。
 
「そっか。まあ、この世界にはこの世界の事情があるんだろうから……って、そもそもなんでうちの家──の半分がこの世界に転移してきたのか気になるんだけど?」
「あっ、それはですねぇ……たまにそういうことが起きる、ってことです。としか僕には言えないんですよねぇ。確かに、過去にもナオキさんと同じ"ニホン"から転移してきた人が居たからこそ、こういうアイテムが存在すると言えるのですが……」

 ポブロトは肩にかけた布袋の中からさっきの小瓶を取って直樹に見せた。

「おお、それそれ! 結局、その緑の液体ってなんだったの? あっ、ごめん。こっちから質問ばかりしちゃって……」
「いや、全然OKでーす! 基本、喋るの大好きですし、それにナオキさんはお得意さんになってくれる予感がしますんで……」
「ん? お得意さん……?」
「それはさておき、緑の液体ですよね緑の液体。あれはニホン語とロフミリア語の翻訳魔法をじっくりコトコト煮詰めて作った〈魔法ポーション〉です。そのおかげで、こうして普通に話せるというわけです」
「ほ、翻訳魔法!?」
「にゃーん!?」

 直樹の瞳が好奇心によってキラッと光輝き、ついでにささみも鳴いた。
 どういう仕組みかは分からないにしても、さっきの様子からして翻訳するための何らかのアイテムだとは思っていたが、まさか魔法だったなんて。
 しかも、魔法を煮込むとか、そんな突飛な発想考えたことも無く、感心すらしてしまっていた。
 そして、〈スマホゲーム事業部〉のリーダー的責務を負っている身として、開発中のゲームの設定にその発想を活かすことができるのでは……なんてことを考えていた。
 あっ、でもその場合、権利関係とか大丈夫のか……使用の許可が必要な場合、この世界の誰に申し入れすれば良いのか……と、直樹は至極現実的な不安を抱き、右手に持った杖をギュッと握った瞬間ハッとした。
 
「そうだこれ! ねえ、ポブロト。これって〈魔法の杖〉ってことで良いのかな? 見た目からしてそんな雰囲気だし、昨日の夜スライムを倒した時に火の玉出たし……」
「ほう、ちょっと見せて貰えます?」

 ポブロトは直樹の持つ杖を右から見たり左から見たり、下から上まで舐め回すように視線を細かく動かしながら確認した。

「はい。確かに魔法の杖ですね。といっても、魔力を持ってるのは杖の部分じゃ無く、その〈魔練リング〉ですが」

 ポブロトは、杖の中央辺りにはめられているくすんだ金色のリングを指差した。

「えっ、これが? ただの装飾かと思ってた……」
「はい。火の玉が出たってことは恐らく〈火の魔練リング〉でしょうね。さすがに、レベル的には低級の部類だと思いますが」
「ほう、なるほどね……」

 納得したように頷く直樹だったが、正直今の説明だけで把握しきれたわけでは無かった。
 ただ、ゲーム好きの勘として、その名前の響きから例えば<氷の魔練リング>だったら氷の魔法が、<雷の魔練リング>だったら雷の魔法を出すことができるようになるんじゃないか……と勝手に予想し、勝手にワクワクしていた。
 まあ、とにもかくにも、手にしたその杖が魔法の杖であった喜びは間違い無いものでそれは良いとして、あとひとつ、どうしても気になる事案が残っている。

「そう言えば、この杖でスライムを攻撃した時に数字の形をした煙が見えた気がしたんだけど、あれってもしかして……」
「ああ、HPですそれ! 何というか、その人や魔物の体力の数字というか……」
「おお、やっぱり! HPは分かるよ、ゲームとかじゃお決まりのシステムだし」

 そう言いながら、直樹の脳裏にある考えがフッと浮かび上がってきた。
 ポブロトによると、自分達よりも前に日本人がこの世界に転移したことがあったらしいけど、もしかしてその人がここでスライムや魔法、宝箱やHPのことを知り、日本(もしくはどこかの国)に戻ってゲーム制作に活かしたんじゃないか……。
 まあ、その真偽の程はともかく、少なくとも今の自分にとってこの世界での経験を仕事にフィードバックできることは間違い無い。
 もっとも、そんな皮算用を抜きにしても冒険する気は満々なのだが──と、黙って考えていたその時、ふいに右肩をコツンッと何かで叩かれた。

「……えっ?」

 いつの間に取り出したのか、ポブロトの右手に小さなこん棒のようなものが握られており、どうやらそれで小突かれたらしかった。

「フフフ……」

 ポブロトは不敵に笑いながら、またもや直樹の右肩をコツンと叩いた。
 すると、ちょうど叩いた場所から『1』の形をした煙が飛び出してすぐ消えた。

「この数字は……!?」

 戸惑う直樹。
 しかし、そんなのお構いなしとばかりに、ポブロトは一定間隔で直樹の右肩を小突き続けた。
 コツンッ……1。
 コツンッ……1。
 
「えっ、ちょ……えっ??」

 ただの陽気な商人と思っていたポブロトによる突然の奇行に驚き、棒立ち状態の直樹。
 それでも、ポブロトの動きは止まる気配を見せない。

 コツンッ……1の形をした白い煙。
 コツンッ……1の形をした白い煙。
 コツンッ……1の形をした赤い煙……!?

「……えええ!? あ、赤に変わったけど? 煙の色!?」

 直樹は迷子の子犬のような切ない目でポブロトを見た。

「あっ、出ましたね、赤煙。それが出始めると、その人は瀕死状態ってことなんです」

 そう言って、ポブロトの口元がニヤリと動いた。

「ひぃ……」

 直樹の脳裏には、妻や子ども達との楽しい日々が走馬灯のように駆け巡っていた。
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