【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました

藤浪保

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第5話 再会(5)送られ狼

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 一体何度引き止められるのか。

 そう思った時、その手をぐいっと強く引かれた。

「え?」

 桜木がそのまま後ろに倒れたので、早苗も一緒に倒れ込んでしまう。

「きゃっ」

 ぎゅっと抱き留められて、わけのわからないまま体を固くしていると、桜木が早苗ごとくるりと体を反転させた。

 ベッドに押し倒された体勢になる。

 目をぱちくりさせていると、桜木は早苗の両の手首を頭の上でまとめた。

「え、ちょ、なになに?」

 驚いた早苗は訳もわからず抵抗することさえ忘れていた。

 桜木が自分のネクタイを緩め、片手で器用に第一ボタンを外した。

 ほほを上気させ、早苗を見下ろす。

「駄目ですよ、先輩。酔って男の部屋に来るなんて」

 言うやいなや、桜木は早苗の口に、自分の口を押しつけてきた。

「んん……」

 反射的にばたばたと足を動かすが、桜木の体はびくともしない。

 閉じたくちびるを舌でぺろりとめられて、背筋がぞわりとした。

「んっ」

 ちろちろと口角を舐められ、力が緩んだ隙に唇の間に舌が滑り込んでくる。
 
「ん、んっ」

 舌が口腔こうくうを動き回る。

「先輩……んっ……先輩……」

 桜木は角度を変えながら何度も早苗に口づけた。

「もっと、口開けて」

 ちょっと待って。

 私、桜木くんとキスしてるの……?

 頭の片隅ではそういう考えも浮かんでいたが、急なことに動転していたのもあって、早苗は桜木の言葉に従ってしまっていた。

 上顎うわあごの裏を舐められ、舌が早苗の舌にからんできて、次第に気持ちよくなっていく。頭がふわふわした。

「はぁ……」

 しばらくして桜木が離れた時、早苗の息は完全に上がっていた。

 ようやく本気で抵抗する気持ちになったが、キスにとろけてしまった体に力が入らない。

 加えて、飲酒をしていたのも良くなかった。

「アルコールが回ってきたんですね。先輩強くないのに、最後部長に付き合って、あんなに日本酒飲むから」
「桜木くんだって酔ってたのに……っ」
「すみません、演技でした。まだ先輩といたくて」

 演技……?

 桜木はしれっと言って、また早苗にキスをした。

「ん……」

 先ほどの激しいキスとは一転、ゆっくりと舌を動かして、早苗が反応するところを重点的に責めていく。

「ん……先輩とのキス、気持ちいい」
「んんっ……」
「こっちも」

 桜木は口を離し、今度は早苗の首元にキスを落としていった。ちゅっ、ちゅっ、とリップ音がやけに大きいのは、わざとなのだろうか。

 早苗はもう何の抵抗もできない。

 キスが首筋を上がっていく。

「あ……っ」

 耳たぶを甘噛あまがみされて、早苗は思わず声を上げてしまった。

「先輩、耳が弱いんだ。可愛かわいい」
「ひゃぁっ、あっ」

 はむはむと噛まれ、ふちを舐め上げられる。

「こっちはどうですか?」
「あぁっ」

 耳の中に舌が侵入してきて、早苗はびくりと体を震わせた。

 入り口の近くをちろちろと舐められたあと、桜木の舌は深く奥まで入ってきた。

「やだぁ……っ」
「先輩、可愛い。もっと声聞かせて……」

 桜木は再び首元にキスを落としたあと、反対側の耳も責め始めた。

「ねぇ、先輩……ここまで来たんだから、いいですよね……?」

 耳元で熱っぽくささやいた桜木が、早苗のジャケットのボタンをはずし始める。

「え、待って……」

 口ではそう言うが、桜木を止める力は残っていなかった。

 桜木はブラウスのボタンも片手で外していき、ブラジャーのホックも外されて、早苗の胸があらわになった。
 
「もうこんなになってる。先輩感じやすいんだ」

 桜木が嬉しそうに耳元で言い、早苗の耳をむ。早苗はさっと顔を赤くした。

「ちがっ……久しぶりっ、だから……っ」
「どういうことですか? 元彼と同棲してたんですよね?」

 桜木はやわやわと手を動かしながら、鎖骨の辺りを舌先で舐めながら言う。

 その言葉は過去形だった。早苗が彼氏と別れたという加世子かよことの話を聞いていたようだ。
 
「レス、だった、からっ……」

 もごもごと口ごもってしまう。

 それを告白することが、桜木とこんな状況になっていることよりも、ずっと恥ずかしかった。

「マジ? 先輩と一緒に住んでてセックスしないとか、そんなことある?」

 口を離した桜木は目を丸くして、信じらんねぇ、とつぶやいた。

 そして、早苗に向かって目を細めて意地悪そうに笑った。

「じゃあ、今日は先輩のこと、いっぱい気持ちよくしてあげますね」



 * * * * *



「ん……」

 目が覚めたとき、早苗は一瞬自分がどこにいるのかわからなかった。

 ここどこ……?

 いつもの自分の部屋ではない。

 そう思った途端、昨夜の出来事を思い出した。

 桜木くんをタクシーで送って……押し倒されて……それで、それで……。

 ――セックスした。

 驚愕きょうがくの事実に思い立って、早苗はばっと横を見た。

 そこには桜木の姿があった。

 すやすやと気持ちよさそうに眠っている。

 昨夜は分けられていた前髪が、まっすぐに降りていた。素肌の肩が布団から少し出ている。上半身裸なのだ。

 そして早苗はっと気づく。自分が全裸であることに。

 あらわになった胸を隠すように布団を引き上げ、目を片手で覆ってがくりと頭を落とした。

「マジか……」

 している最中のことはほとんど覚えていない。

 しかし、したという事実だけはしっかりと記憶にあった。体の中心部にも違和感がある。これは間違いない。

 後輩とセックスをしてしまうなんて。しかも酔った勢いで。

 ああ、何てことをしてしまったのか、と激しく後悔する。

 避妊はした……と思う。勢いだったとはいえ、してくれただろう、さすがに。

 取りあえず帰ろう!

 今桜木が起きたら気まずいどころの話ではない。

 スーツは床に落ちていてくしゃくしゃだったが、贅沢ぜいたくを言っている場合ではない。服を拾って手早く身支度を整えた早苗は、静かに桜木の部屋を出た。



「そんなに急いで帰らなくたって……」

 枕に顔をうずめて呟いた桜木の声は、早苗には聞こえていなかった。
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