婚約者のいる運命の番はやめた方が良いですよね?!

水鈴みき

文字の大きさ
5 / 5

続・いけない関係

しおりを挟む
カタカタカタ。スピードを上げていた馬車が緩やかになり、目的地の公爵邸に到着した。

「メアリー。説明もせずに連れてきたけど、俺の家でまず状態を確認させて欲しい。薬もじきに届く」
「はい、セドリックさま」

なんだかお互い気恥ずかしくて、キスの後はただ寄り添うだけだった。
立ちあがろうと身を起こそうとするも、セドリックに止められ抱き上げられた。

「!! セドリックさま、わたし歩けます。だいぶ落ち着いてきたので……」
「無理はいけないよ、メアリー。大丈夫、任せて」

お姫様抱っこなんて、自分に縁があるとは思わなかった。女の子の憧れと言われているけれど、なるほど。セドリックの胸に抱かれ、愛されている感が半端ないほど伝わってくる。抱かれる方も無防備になり、相手を一心に信頼するしかない。
つまり抱き上げられてしまえば、ジタバタと抵抗しては危ない。メアリーは喜びをひた隠して身を任せた。

「セドリック様、お帰りなさいませ」

老執事と後ろに控えた数名のメイドに出迎えられた。

執事はそっとセドリックに側付き、何かを話している。

「不要だ、俺がやる。薬は?」
「…あと……少し…」
「わかった。ご苦労」

セドリックが告げると、使用人達が深く頭を下げて道を開ける。

メアリーはお姫様抱っこされていることが気恥ずかしかったが、使用人達は誰も気にかけなかった。そっと後ろを見ると、まだ頭を下げている。
セドリックは振り返らず、使用人への指示も堂々としていて慣れていた。


——公爵家の嫡男で父親は王弟殿下。王位継承権を持つ身分——



ゾクッ。冷や汗が流れた。

「どうしたの? メアリー」

ビクッとした動きにセドリックが反応する。

「い、いえ」
「寒い?」
「は、はい! 汗をかいたので」

不安げにメアリーの顔色を覗き込むセドリック。
本心を悟られたくなくて、適当に話を合わせる。

身分が高すぎる……!!

メアリーは伯爵家令嬢だ。
一応、王家に正式に嫁げる最低の家格であるが、伯爵家といえども千差万別。
メアリーの家——リーン伯爵家は隅っこも隅っこ。末端も末端。
特技は節約で、誉れは借金がないこと。『騎士は食わねど高楊枝』を地でいく家柄だ。騎士を輩出したことはないけれど。
つまり貴族という見栄があるだけで暮らしぶりは庶民と変わらない。

……一方、ロザリーも伯爵令嬢だが実態は全く異なる。
ロザリーの叔父が王都で1、2を争う大きな商会を持ち手広く商売をしているため、学園でも随一のお金持ちと言われている。
父親は王宮で要職に就いていて、国王の覚えもめでたいという。
エリートでお金持ち。もちろんロザリー自身、申し分なく美しく作法も素晴らしい。

結ばれるべき相手。
然るべくしての婚約なのだ。

それなのにメアリーは……。

「——いいね?」
「……? は、はい!」

セドリックが何か話しかけていたようだが、気もそぞろで聞いていなかった。
勢いで返事してしまったが、セドリックはおかしなことを提案しないだろう。

「フフ……」

……と思っていたが、今まで以上にうっとりとした目つきでメアリーを見つめてきた。
嫌な予感がする……。

「言質は取ったよ、メアリー。俺もいろいろ限界なんだ」
「あ、あの……!」

なんだか恐ろしくなり、やっぱり否を唱えようとしたが遅かった。
セドリックの部屋に到着した。

パタン

セドリックと2人きりの空間。
そう思うと、さっきまで鎮まっていた熱いものが疼いてくる気配がした。

「お風呂。一緒に入ろう。さっぱりするよ」

一緒にお風呂!? さっき話してたのはソレ??
無理無理無理ムリむりでしょ~~~!!
全力で首を振り拒否する。

「あの、ひとりでっ……」
「ダメだよメアリー。君はまだひとりで立てないんだから、俺が介助するよ」

いや、立てる。セドリックが強引に抱き上げただけではないか。なんだか図られた気分だ。セドリックはこういう性格なの……?!

そうこうしているうちにバスルームに入った。セドリックは止まらない。
メアリーを丁重に下ろして、備えられた優美な椅子に座らせようとしたところ、メアリーは立ち眩みをしてしまう。本当に立てなかったの??
ずっと抱っこされていたから自覚はなかったが、ゆらゆらしていて腰も抜けているみたいだ。

「お風呂が無理なら清拭だけにしておこうか。とりあえず着替えた方が良い」

お風呂を諦めてくれたとホッとしたのも束の間、迷いない動きでメアリーの服を脱がしていく。とうとうスリップと下着のみになってしまった。
セドリックは洗面器にお湯を汲み、ホットタオルを用意した。

「さ、メアリー。脱がすよ」

手際が良すぎる。
メアリーはもはや半泣きになった。

「セドリックさま……、恥ずかしいんです……」

高位貴族ともなれば入浴・着替えなどはメイドたちに全て身を任せるものだと聞く。
しかしメアリーはそうじゃない。
裸体を晒すなんて恥ずかし過ぎる。まして恋を自覚した相手の前で。
さっきから灯る熱もあって、きっと顔は真っ赤だ。

ガタッ

セドリックが洗面器にぶつかったようだ。さっきまで流麗な動きをしていたのに珍しい。
「気にしないで」と心配するメアリーを制し、備え付けの大きなタオルを持って来た。

「身体も冷えるだろうから、下着は取るけどこれを被って。その……、不埒なことはしないから……」

浴槽の湯気の影響かセドリックの顔が少し赤い。
メアリーが貴族令嬢にあるまじき恥ずかしがりを勃発してしまったがために、セドリックに余計な気遣いをさせてしまった……。

呆れられただろうか。しかし、メアリーのメンタルは大事だ。我が儘とか自分のことしか考えてないとか、それ以前の問題で。
というのもいよいよ熱が沸々と湧き出てきて、気をしっかり持っていないと痴態を曝け出しそうだ。
それこそ本当に恥ずかしさで死んでしまうかもしれない……。

セドリックは非常に紳士な態度でメアリーを介助し、ゆったりとした寝巻きのようなドレスを着せて優しくベッドに腰掛けさせた。
ベッド脇の机にあった水差しからコップに水を注ぎメアリーに手渡す。

「少し待っててくれるか?辛かったら横になってくれて良いから」

コクリと頷くと、セドリックは席を外した。彼も汗を流すのかもしれない。
メアリーは朦朧としながら、水で唇を潤す。

セドリックさまに触れられたところが熱くなる——

つまり全身だ。セドリックが言ってた何か………。オーバー……ヒート……。
カシャンとコップが床に落ちる。
清潔なシーツの上、わずかに香るセドリックの匂い。
メアリーはそれだけをよすがにひたすら熱に堪えた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

【完結】愛してるなんて言うから

空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」  婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。  婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。 ――なんだそれ。ふざけてんのか。  わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。 第1部が恋物語。 第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ! ※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。  苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。

どうせ運命の番に出会う婚約者に捨てられる運命なら、最高に良い男に育ててから捨てられてやろうってお話

下菊みこと
恋愛
運命の番に出会って自分を捨てるだろう婚約者を、とびきりの良い男に育てて捨てられに行く気満々の悪役令嬢のお話。 御都合主義のハッピーエンド。 小説家になろう様でも投稿しています。

何年も相手にしてくれなかったのに…今更迫られても困ります

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢のアンジュは、子供の頃から大好きだった幼馴染のデイビッドに5度目の婚約を申し込むものの、断られてしまう。さすがに5度目という事もあり、父親からも諦める様言われてしまった。 自分でも分かっている、もう潮時なのだと。そんな中父親から、留学の話を持ち掛けられた。環境を変えれば、気持ちも落ち着くのではないかと。 彼のいない場所に行けば、彼を忘れられるかもしれない。でも、王都から出た事のない自分が、誰も知らない異国でうまくやっていけるのか…そんな不安から、返事をする事が出来なかった。 そんな中、侯爵令嬢のラミネスから、自分とデイビッドは愛し合っている。彼が騎士団長になる事が決まった暁には、自分と婚約をする事が決まっていると聞かされたのだ。 大きなショックを受けたアンジュは、ついに留学をする事を決意。専属メイドのカリアを連れ、1人留学の先のミラージュ王国に向かったのだが…

眠りから目覚めた王太子は

基本二度寝
恋愛
「う…うぅ」 ぐっと身体を伸ばして、身を起こしたのはこの国の第一王子。 「あぁ…頭が痛い。寝すぎたのか」 王子の目覚めに、侍女が慌てて部屋を飛び出した。 しばらくしてやってきたのは、国王陛下と王妃である両親と医師。 「…?揃いも揃ってどうしたのですか」 王子を抱きしめて母は泣き、父はホッとしていた。 永く眠りについていたのだと、聞かされ今度は王子が驚いたのだった。

【完結】16わたしも愛人を作ります。

華蓮
恋愛
公爵令嬢のマリカは、皇太子であるアイランに冷たくされていた。側妃を持ち、子供も側妃と持つと、、 惨めで生きているのが疲れたマリカ。 第二王子のカイランがお見舞いに来てくれた、、、、

大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです

古堂すいう
恋愛
祖父から溺愛され我儘に育った公爵令嬢セレーネは、婚約者である皇子から衆目の中、突如婚約破棄を言い渡される。 皇子の横にはセレーネが嫌う男爵令嬢の姿があった。 他人から冷たい視線を浴びたことなどないセレーネに戸惑うばかり、そんな彼女に所有財産没収の命が下されようとしたその時。 救いの手を差し伸べたのは神官長──エルゲンだった。 セレーネは、エルゲンと婚姻を結んだ当初「穏やかで誰にでも微笑むつまらない人」だという印象をもっていたけれど、共に生活する内に徐々に彼の人柄に惹かれていく。 だけれど彼には想い人が出来てしまったようで──…。 「今度はわたくしが恩を返すべきなんですわ!」 今まで自分のことばかりだったセレーネは、初めて人のために何かしたいと思い立ち、大好きな旦那様のために奮闘するのだが──…。

出来損ないと言われて、国を追い出されました。魔物避けの効果も失われるので、魔物が押し寄せてきますが、頑張って倒してくださいね

猿喰 森繁
恋愛
「婚約破棄だ!」 広間に高らかに響く声。 私の婚約者であり、この国の王子である。 「そうですか」 「貴様は、魔法の一つもろくに使えないと聞く。そんな出来損ないは、俺にふさわしくない」 「… … …」 「よって、婚約は破棄だ!」 私は、周りを見渡す。 私を見下し、気持ち悪そうに見ているもの、冷ややかな笑いを浮かべているもの、私を守ってくれそうな人は、いないようだ。 「王様も同じ意見ということで、よろしいでしょうか?」 私のその言葉に王は言葉を返すでもなく、ただ一つ頷いた。それを確認して、私はため息をついた。たしかに私は魔法を使えない。魔力というものを持っていないからだ。 なにやら勘違いしているようだが、聖女は魔法なんて使えませんよ。

【片思いの5年間】婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。

五月ふう
恋愛
「君を愛するつもりも婚約者として扱うつもりもないーー。」 婚約者であるアレックス王子が婚約初日に私にいった言葉だ。 愛されず、婚約者として扱われない。つまり自由ってことですかーー? それって最高じゃないですか。 ずっとそう思っていた私が、王子様に溺愛されるまでの物語。 この作品は 「婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。」のスピンオフ作品となっています。 どちらの作品から読んでも楽しめるようになっています。気になる方は是非上記の作品も手にとってみてください。

処理中です...