異世界生活の送り方を間違えている気がする？

四章 椿蓮

百五話 ミスト

一本足で重心を取っているにも関わらず、ツバキは手を掴まれていてもビクともしない。
ツバキは物凄い力で僕の腕を振り払おうとするが、僕も最大限の力で抑えつける。

「離せっ…！！」

「そんなわけっ…！」

チャンスだ。今、ツバキの全ての動きを抑えている。この手が解かれる前に！

マルクの剣を左手に持ち、ツバキに叩きつける。宙で止まったマルクの剣に重ねてシリウスを打ち込んだ。止められるが、何度も、何度も。

ギリギリと掴んだ手が疲労してくる。ツバキの力は、僕の疲労に比例して増してゆく。

もう一撃──！
シリウスを振りかぶる。

急に、手が軽くなった。掴んだ手が勢いのまま後ろへ跳ねる。
その腕の先を見ると、手の平はしっかりとツバキの手首を掴んでいた。しかしそれは、切断されたツバキの手だけだった。
ツバキが目を見開き、呆然とする。

「……はっ……」

吹き出した血の舞う、その後ろに。

「逃げる訳、ないでしょう！」

剣を持ったエルメスがいた。死角からの攻撃を、ツバキは止められなかった。

「お前っ！」

「はやく！」

剣を両手で握って振り下ろすが、止められる。
早くしないと回復される…！ ユリウスにも回復能力はある。現に既にツバキの片足は完治しかけている。

バランスを崩させるつもりで脚に蹴りを入れる。
しかしツバキの足元は地中に根でも張っているかのように動かない。

「──えっ…？」

蹴りが入った？
剣は止められるのに。

一つの光が見えた気がした。腕を肩から振りかぶり、ツバキの削れた脇腹目掛けて拳を撃ち込んだ。
その拳は宙で止まることなくツバキの肉を抉った。