異世界生活の送り方を間違えている気がする？

四章 椿蓮

百六話 ミスト

ツバキは口から多量に血を吐き、片足で大きく後ろに下がって膝をついた。
ミストは拳を固め、もう一度ツバキを追う。そして今度は右眼に拳を打ち、もう片方の手を構え、左目に──

「うおおっ」

その拳をツバキは歯で受け、そのまま噛み砕いた。
そして完治した脚で後ろに下がり、右足でミストを蹴り飛ばした。そして後ろにいたエルメスへ傍にあった瓦礫を蹴る。それは頭に命中し、エルメスは急いで物陰に隠れた。

「これが王国軍か」

ツバキが呟く。

「どうしてお前は…こんな」「命をかけてまで阻止しようとするんだ」

彼になにか、僕と同様の何かがあるのか。そんな物があるようにはあの表情からはとても見て取れない。

「命なんてかけてない」「こんな状況、考えもしなかった」

「舐めすぎだぞ」

「ああ、強かった」

「死にそうになってまで、まだ戦いを続けますか」

エルメスが物陰から言う。服を裂き、出血している頭に巻いた。

「当然、お前らが術を発動出来なくなるまで」

「…っ、お前は何に動かされてそこまでするんだよっ」

こんな奴に僕らの思いを崩されるのが我慢ならない。死を前にしても立つ程のものは何なんだ。

「…何だろうな」




「…ご、ごめんなさい。ここまでしか」

回復班は負傷者の手当に出ており、人手が足りていない。メグリさんの損傷は大きく、殆どが火傷の為複雑になっている。

「いえ、大分楽になりました」

先程まで続いていた金属音と破裂音が止んだ。
ツバキの戦闘は終わったのだろうか。
集まった魔王軍もあらかた救助に出てしまい、現在ここに居るのは私達含めて5人程。

加勢に出ようにも、強力な者達は居場所も分からない。それに彼は誰かとの連携など出来ないだろう。

「私も、もう少し動ければいいんだけど…」

少し動作が遅れている気がする。咄嗟に足も手も動かない。神経が鈍っているみたいだ。

「ツバキさんの所に…」

「そうしたいところだけど、あなたも私もこんな状態だから」

「…大丈夫でしょうか」

「うん。彼は強いから」

とりあえず、どこか落ち着ける場所まで行こう。
こちらも損害が大きい。状況を把握してないまま下手にミストを攻めても更に被害が増えるだけだ。

「さあ、行きましょう」

2人で立ち上がり、城壁に背を向けた。