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四章 椿蓮
百七話 椿蓮
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言葉でどう表すのか。自分でも何故なのか、よく分からない。
向こうの世界で絶望を味わった。その結果死を選び、訳もわからずこの世界来て、偶然か居場所もできた。
初めの頃は、ずっと夢を見ているのだと思っていた。向こうの世界見ている妄想なのか、現実逃避なのかと。
つまり、それだけ心地よかったのだ。
孤独には充分慣れていたから、いや慣れすぎていたから知らなかった。人といる事がどれだけ──。
こんなことを言うのは小っ恥ずかしいし、自分でも気色悪いと思うが。
「恩返し…、に近い」
「……は?」
ミストはぽかんとした顔でこちらを見る。
「俺がお前側、王国側に生まれていたらお前らの味方だっただろうよ」
飯と寝床を与えてくれたから。どうしても言葉に出そうとするとそれしか出ない。
でもきっとそれだけじゃないんだろう。
「やっぱりわからない」「だがお前に説明しようなんて思わない。余計な事考えさせるなよ」
地面を強く踏み込むと、石畳が表面に浮き出てきた。それを直線上にいるミストに向かって蹴る。
「恩返しってなんだよ…っ!」
「どうせ殺す事に変わりはないんだ」
「だからっ!」
「黙ってろよ!」
これを考え始めるとキリがない。分からない感情が何なのかなんて考えても無駄だ。
頭に浮かぶ人影を振り払う。ピンチな状況で変に考えるべきじゃない。
「ツバキレン…。なんなんだよ、お前は……」
ミストは石を避け、こちらに向かってくる。
剣よりも拳は見切りやすい。手首から先のない左手で流し、右足で地面を抉りながら蹴り上げる。
ミストは素早く後方へ下がり、また踏み込んでくる。
もう一度瓦礫を蹴ろうとする。
が、足を引いた所で地面から繋がった鎖が足首に絡まった。
「くそっ、またか!」
「よくやったエルメス!」
拳を右眼に受ける。回復しかけていたのに、また視界が霞んだ。
左肘をミストの顔面に打ち付ける。怯んだ所に口元に出現させた剣を咥えて突き出した。
咥えた剣は左肩に突き刺さり、そのままミストはうつ伏せに地面に倒れる。
「があっ…!」「…畜生っ!」
剣は地面に刺さり、ツバキはミストの上に馬乗りになって右足でミストの右手を抑えた。
「大人しくしろ……、俺だっていつまでも動けるわけじゃないんだ」
ミストの右手を足で潰し、そのまま足を首元へ持っていく。
「ミスト様!」
「エルメス! 駄目だ!」
「出てくると思った」
剣を歯で咥え肩から抜き、頭をひねって剣を女の方へ飛ばした。剣は女の脚に刺さり、苦痛の声を上げ、そのまま倒れ込んだ。
「やっとだ、終わり…」
「止めろ!! ツバキレン! ミスト様を…!! 」
エルメスが叫び、足を引きずりながら這ってくる。
また、脚に鎖が繋がれた。しかし鎖は脆く、少し振れば壊れた。
「エルメスっ! 抵抗するな!」
「でも!!」
「何としてでも逃げるんだ、ここから離れろ!」
「…え、ミスト様…」
「…おい、何を…」
声を出すと、それと同時に血を吐いた。白い剣先が胸元から突き出ている。
「お前…っ!」
「何も出来ないまま殺されるかよ…!」
「くっ…そ!」
ミストの首元へ剣を突き刺そうとするが、外れて肩に刺さった。
もう一度抜こうとした所で──
「…っ! なんだこれっ…!」
キイイイ、と高い音がなり始め、その音はだんだん大きくなってくる。それと同時に白い刀身が強く発光し始めた。シリウスだけでなく、ユリウスも。
「何が…!」
「…あくまで命は、被害を抑えるためだけのものだ…!」
白い光は視界を埋めつくし、剣を中心にして強い旋風が巻き起こっている。
「王国も、これ以上意志なんてものに支配されるべきじゃないんだ……! 僕が、終わらせる」
「お前っ! 」
指の無い腕を動かそうとするが、全く動かない。それだけじゃない。脚も何かに押さえられているように動かなかった。
「術を発動させる…! 俺も…、そしてお前もだ」
「なにやってんのか分かってんのかっ」
早く、どうにかしないと…!! こいつの息の根を止めるんだ…!
手に力を入れる。
「くそっ、動け、動け…!!」
指も回復しきったが、手は動かない。剣を戻そうとしても、戻らない。
意識が薄れてくる。風を切る音も、剣からの高音も遠ざかってきた。
終わりたくない。
はっきりと、そう思った。この世界にいたい。
言葉を…、まだ…!
向こうの世界で絶望を味わった。その結果死を選び、訳もわからずこの世界来て、偶然か居場所もできた。
初めの頃は、ずっと夢を見ているのだと思っていた。向こうの世界見ている妄想なのか、現実逃避なのかと。
つまり、それだけ心地よかったのだ。
孤独には充分慣れていたから、いや慣れすぎていたから知らなかった。人といる事がどれだけ──。
こんなことを言うのは小っ恥ずかしいし、自分でも気色悪いと思うが。
「恩返し…、に近い」
「……は?」
ミストはぽかんとした顔でこちらを見る。
「俺がお前側、王国側に生まれていたらお前らの味方だっただろうよ」
飯と寝床を与えてくれたから。どうしても言葉に出そうとするとそれしか出ない。
でもきっとそれだけじゃないんだろう。
「やっぱりわからない」「だがお前に説明しようなんて思わない。余計な事考えさせるなよ」
地面を強く踏み込むと、石畳が表面に浮き出てきた。それを直線上にいるミストに向かって蹴る。
「恩返しってなんだよ…っ!」
「どうせ殺す事に変わりはないんだ」
「だからっ!」
「黙ってろよ!」
これを考え始めるとキリがない。分からない感情が何なのかなんて考えても無駄だ。
頭に浮かぶ人影を振り払う。ピンチな状況で変に考えるべきじゃない。
「ツバキレン…。なんなんだよ、お前は……」
ミストは石を避け、こちらに向かってくる。
剣よりも拳は見切りやすい。手首から先のない左手で流し、右足で地面を抉りながら蹴り上げる。
ミストは素早く後方へ下がり、また踏み込んでくる。
もう一度瓦礫を蹴ろうとする。
が、足を引いた所で地面から繋がった鎖が足首に絡まった。
「くそっ、またか!」
「よくやったエルメス!」
拳を右眼に受ける。回復しかけていたのに、また視界が霞んだ。
左肘をミストの顔面に打ち付ける。怯んだ所に口元に出現させた剣を咥えて突き出した。
咥えた剣は左肩に突き刺さり、そのままミストはうつ伏せに地面に倒れる。
「があっ…!」「…畜生っ!」
剣は地面に刺さり、ツバキはミストの上に馬乗りになって右足でミストの右手を抑えた。
「大人しくしろ……、俺だっていつまでも動けるわけじゃないんだ」
ミストの右手を足で潰し、そのまま足を首元へ持っていく。
「ミスト様!」
「エルメス! 駄目だ!」
「出てくると思った」
剣を歯で咥え肩から抜き、頭をひねって剣を女の方へ飛ばした。剣は女の脚に刺さり、苦痛の声を上げ、そのまま倒れ込んだ。
「やっとだ、終わり…」
「止めろ!! ツバキレン! ミスト様を…!! 」
エルメスが叫び、足を引きずりながら這ってくる。
また、脚に鎖が繋がれた。しかし鎖は脆く、少し振れば壊れた。
「エルメスっ! 抵抗するな!」
「でも!!」
「何としてでも逃げるんだ、ここから離れろ!」
「…え、ミスト様…」
「…おい、何を…」
声を出すと、それと同時に血を吐いた。白い剣先が胸元から突き出ている。
「お前…っ!」
「何も出来ないまま殺されるかよ…!」
「くっ…そ!」
ミストの首元へ剣を突き刺そうとするが、外れて肩に刺さった。
もう一度抜こうとした所で──
「…っ! なんだこれっ…!」
キイイイ、と高い音がなり始め、その音はだんだん大きくなってくる。それと同時に白い刀身が強く発光し始めた。シリウスだけでなく、ユリウスも。
「何が…!」
「…あくまで命は、被害を抑えるためだけのものだ…!」
白い光は視界を埋めつくし、剣を中心にして強い旋風が巻き起こっている。
「王国も、これ以上意志なんてものに支配されるべきじゃないんだ……! 僕が、終わらせる」
「お前っ! 」
指の無い腕を動かそうとするが、全く動かない。それだけじゃない。脚も何かに押さえられているように動かなかった。
「術を発動させる…! 俺も…、そしてお前もだ」
「なにやってんのか分かってんのかっ」
早く、どうにかしないと…!! こいつの息の根を止めるんだ…!
手に力を入れる。
「くそっ、動け、動け…!!」
指も回復しきったが、手は動かない。剣を戻そうとしても、戻らない。
意識が薄れてくる。風を切る音も、剣からの高音も遠ざかってきた。
終わりたくない。
はっきりと、そう思った。この世界にいたい。
言葉を…、まだ…!
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