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四章 椿蓮
百八話 椿蓮
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「ツバキさん!!」
意識が、音が、その声で急に戻った。毎日鬱陶しく感じていたその声で。
「…メグリ」
「すぐに助けます!」
よかった。こいつに助けてもらえば…!
───いや、駄目だ。
『今すぐ他の奴らを避難させろ!!』
「…え」
「なにを言ってるんですか」
メグリはその場で止まった。強い風で服がバサバサと激しく揺れる。
「術が発動する。この場にいたら巻き込まれる!」
「術!?」
「早くしろ! 時間を戻せ! お前しか出来ないだろうが!」
「わ、わかりました…!」
「…って、じゃあツバキさんは!?」
「無理だろうよ。もう」
「…そんなっ」
メグリの表情が引きつる。口元は震え、出たのはかすれ声だった。
「迷うな、何も考えるな!」
「……まだ、ツバキさんになにも残せてない…! これで、最後なんですか…?」
「感情をさらけ出す時間なんて今はないんだ。お前も、そして俺も」
喉元から何かを惜しむように言葉が出そうになる。必死にそれを抑えて声を出す。
最後を惜しんでる暇なんてない。今優先するのは…!
──そうか。
自分の命に替えても成し遂げたい事。
やっと確信した。
……守りたいんだ。
「…また会った時! 言えばいいだろ!」
「……信じますからね!! 絶対、絶対ですよ…っ!!」
何か言いたい。
もう会えないんだろう。分かっていた。だから何か、やっぱり名残惜しくて言葉が出そうになる。
でも言ってしまえば本当に全て終わりそうで、その言葉が別れの印になりそうで。
こんな中途半端な終わり方なら、何かが起きるんじゃないかと思い、口を閉じた。
意識が、音が、その声で急に戻った。毎日鬱陶しく感じていたその声で。
「…メグリ」
「すぐに助けます!」
よかった。こいつに助けてもらえば…!
───いや、駄目だ。
『今すぐ他の奴らを避難させろ!!』
「…え」
「なにを言ってるんですか」
メグリはその場で止まった。強い風で服がバサバサと激しく揺れる。
「術が発動する。この場にいたら巻き込まれる!」
「術!?」
「早くしろ! 時間を戻せ! お前しか出来ないだろうが!」
「わ、わかりました…!」
「…って、じゃあツバキさんは!?」
「無理だろうよ。もう」
「…そんなっ」
メグリの表情が引きつる。口元は震え、出たのはかすれ声だった。
「迷うな、何も考えるな!」
「……まだ、ツバキさんになにも残せてない…! これで、最後なんですか…?」
「感情をさらけ出す時間なんて今はないんだ。お前も、そして俺も」
喉元から何かを惜しむように言葉が出そうになる。必死にそれを抑えて声を出す。
最後を惜しんでる暇なんてない。今優先するのは…!
──そうか。
自分の命に替えても成し遂げたい事。
やっと確信した。
……守りたいんだ。
「…また会った時! 言えばいいだろ!」
「……信じますからね!! 絶対、絶対ですよ…っ!!」
何か言いたい。
もう会えないんだろう。分かっていた。だから何か、やっぱり名残惜しくて言葉が出そうになる。
でも言ってしまえば本当に全て終わりそうで、その言葉が別れの印になりそうで。
こんな中途半端な終わり方なら、何かが起きるんじゃないかと思い、口を閉じた。
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