ゲームの世界に堕とされた開発者 ~異世界化した自作ゲームに閉じ込められたので、攻略してデバックルームを目指す~

白井よもぎ

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第二章

39話 罠

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 それから馬車に揺られること半日。
 シン一行は目的地へと到着した。

 赤みがかった大地に、剥き出しの岩山が立ち並ぶ、山岳地帯。
 ここがドラゴンの住む飛龍の谷である。


 岩山の麓に馬車を停め、そこからシン達は徒歩で進むこととなった。
 ディックが地図を片手に先導する。

「洞窟の中に寝床がありますので、そこで迎え撃ちましょう。少し歩くことになりますが、ご了承ください」
「了解。ところで、さっきから気になっていたのですが、その方は?」

 シンはクロスムーンの人達の中に居る、仮面を被ったローブの人を指して尋ねる。
 仮面をつけていて顔は見えないが、これまで、そんな人はいなかった為、気になっていた。

「この人は新メンバーですよ」

 仮面の男が会釈をする。

「寡黙な人なんで、あまり絡まないでやってください」
「ふーん?」

 シン達はその男に然程、興味は持っていなかったので、その時は特に気にも留めなかった。



 洞窟に入り少し進むと、小型のドラゴンと遭遇した。
 レッドドラゴンの幼体であるミニレッドドラゴンである。
 雑魚モンスターの部類ではあるが、それでもドラゴンという強い種族であることには変わりないので侮ることはできない。

 シンのパーティは即座に前に出て戦闘態勢に入る。

「ミニレッドドラゴンだ。幼体でも、それなりの強さはあるから気を付けろ」
「俺らも援護します」

 クロスムーンの人達も後ろで構える。
 シンはすぐさま縮地でミニレッドドラゴンの後ろに回り込み、背中に蹴りを入れた。
 強烈な蹴りによって鱗が割れる。
 シンが一歩下がると、そこにアリカの魔法によって発現した氷柱が上から落ちて突き刺さった。
 そして間髪入れず、駆け込んできたガウルが盾をミニレッドドラゴンの口に挟みこみ、目に剣を突き刺す。

 怒涛の連携攻撃に、ミニレッドドラゴンは反撃することも出来ず悲鳴を上げた。

 続けて、ディックとファイターの少年が攻撃を仕掛ける。
 少年がミニレッドドラゴンの懐に入り、腕を殴りつけた。
 しかし、その攻撃に反応して振り回された爪に、少年は対応することが出来ず、直撃を受けて吹き飛ばされる。

「馬鹿野郎! いくら目を潰したからって正面から攻撃する奴があるか!」

 ディックが羽を切り裂きながら怒鳴りつける。

「す、すみません」
「よく考えて動け。俺達がやるのは援護なんだから、シンさん達の邪魔にだけはならないよう気を付け、危ねっ」

 突然、飛んできた雷撃をディックは紙一重で躱す。
 クロスムーンのマジシャンが誤射したのであった。

「ごっめーん。ちょっと手元が狂った」
「お前もかよっ。マジで勘弁してくれ」


 そうこうしている間にシンが止めを刺し、ミニレッドドラゴンが息絶える。

「あの……俺達だけで十分処理できますので、援護はしなくても大丈夫ですよ」

 ディック達のあまりの醜態に、シンは遠回しに援護を拒否した。

「す、すまない。どうも皆、寝起きで調子が悪いみたいで」
「お気になさらず。雑魚処理も仕事のうちですから」
「本当に申し訳ない。その代り案内は気合を入れてやりますので任せてください」



 それからはディックの案内に従い、シン達が雑魚モンスターを倒しながら奥へと進んでいく。
 そして進むこと小一時間。

「ねぇ、まだ着かないの? 結構疲れてきたんだけど」

 歩いていたアリカが不満を漏らす。
 シン達は道中、沢山のミニドラゴンを倒してきた。
 余裕で倒せるとはいえ、そこそこ強いミニドラゴン種との連戦は結構辛いものがあった。

「すみません。もう少しで着きますので」
「あんまり遠いなら俺が案内代わりますよ。寝床なら、いくつか知ってますから」

 開発者であったシンは無論、ここの地形も頭の中に入っていた。
 もっと近い寝床はいくつか知っていたが、ディック達が張り切って準備していたことなので、余計な口出しはしていなかった。

「いえいえ、本当にもう少しですから」

 そこで仮面の男がディックの肩を軽く叩く。
 一瞬ビクッとしたディックはシン達に向けて言う。

「あ、寝床に着いたら、すぐに戦闘になるかもしれませんので、ここらで休憩しておきましょうか」

 休憩することを提案されると、疲労していたアリカ達は諸手を挙げて賛成する。
 普通に倒せると言われていても、強敵であることには変わりないので、体調は万全の状態にしておかなければならない。
 だが、シンはこの場で休憩を言い出したことに疑念を抱く。

 ディックはすぐ近くと言ったが、この場から最も近い狩場でも、まだ歩かなければならない。
 ボス戦前の休憩場所にしては離れすぎていた。

 飛龍の谷はダンジョンではなく、フィールド扱いである為、ボス部屋がある訳ではない。
 だが、代わりに寝床というボス部屋代わりの場所があり、その手前辺りでは安全に休憩できるようになっている。
 もっといい休憩場所はいくらでもあるのに、何故このような中途半端な場所で休憩するのか、シンは疑問に思うが、態々言って休憩場所を変えさせる程のことでもないと判断して、指摘はしなかった。

「軽食を用意してきましたので、良ければ食べてください」

 ディックがバスケットに入ったサンドウィッチなどを振る舞う。

「やったー。ありがとうございまーす」

 女子達が喜んでサンドウィッチを取っていく。
 疲労していたとはいっても、やはりドラゴン退治ということでテンションは高めであった。

 そんな様子を見ていたファイターの少年がディックに耳打ちする。

「マスター、やっぱり止めようよ」
「今更、何言ってやがる」
「でも……」
「いいからお前は黙ってろ」

 ディックは少年を小突いて黙らせ、シン達に向けて言う。

「我々が見張りをしますので、皆さんはレッドドラゴン討伐に向けて英気を養ってください」
「ああ、ありがとう。助かるよ」
「いえいえ、シンさん達をサポートするのが我々の役目ですから」

 ディック達を信頼して、シン達は完全に警戒を解いて寛ぐ。
 疑念を持っていたシンも、ボス戦に備えて身体を休めることに専念した。

「それにしてもレッドドラゴンと戦う前だって言うのに疲れたわ。連戦もそうだけど、馬車で勉強なんかしたせいで精神的にもヘロヘロよ」
「そうですよ。魔法で無理矢理治しながらやるとか身体おかしくなります」
「これから強敵と戦うってのに、リーダーのやることじゃないよねー」

 女子連中から非難轟々だが、シンは明後日の方向を向いて知らん振りをする。
 そんなシンの様子にガウルは内心凄いなと別の意味で感心していた。



 シン達が完全に気を緩めているのを確認したディックが、マジシャンの女性に目配せをする。
 マジシャンの女性は頷き、杖を構えた。

「でさー、そこで可愛いストラップ見つけたのよ。ほら、今日、袋に付けて……?」

 その時、シン一同が違和感を覚える。

(!? これは封印?)

 何度も受けたことのあるシンが違和感の正体にいち早く気付いた。
 その直後、一同全身に痺れを感じる。

 ガウルやアリカ達は痺れで持っていたサンドウィッチを落とす。
 そして座っていることもままならず、地面に倒れた。
 シン達は何事かと慌てて周りを見回すと、杖を構えたマジシャンを見つける。
 そこでディックが間に入る。

「すみません、皆さん。おい、お前ら。取り押さえて物を回収しろ。回復アイテムは使われないよう、真っ先に奪い取れ」

 命令を受け、クロスムーンの人達がシン達に向けて迫る。

「これはディックさん達がやったのか!? どういうつもりだ」

 ガウルが問うが、ディック達は何も言わない。
 クロスムーンのメンバーがモコやアリカの身体に手をかける。

「やっ、止めてくださいっ」

 逃れようとするが身体が痺れて上手く動くことができない。

「止めろ!」

 身体を弄られようとしている娘を見たガウルは、力を振り絞って立ち上がる。
 しかし、すぐにクロスムーンのメンバーに組み伏されてしまう。

 ファイターの少年も取り押さえようと、シンに近づく。
 怖々とした様子で、その表情には迷いが出ていた。
 恐る恐るシンの身体に手をかける。
 その瞬間、シンの手が少年の腕を掴んだ。

「!?」

 素早くその手を捻り上げ、背負い投げをして少年を地面に叩き付ける。
 クロスムーンの人達が驚いてそちらを見るが、シンは即座に縮地でマジシャンの女性の前に移動した。

「え!?」

 反応する暇も与えず、マジシャンの女性に掌打をかます。
 マジシャンの女性は腹にモロにくらい、吹き飛んで倒れた。

 シンは止まることなく、続けて縮地でディックの後ろに回り、羽交い絞めにする。

「ぐ、何故動ける」
「状態異常は散々くらったことがあるんでね。対処の速さには自信があるんだ。それより何でこんなことをする?」
「……」

 ディックは答えない。
 だが、装備を剥ぎ取ろうとしているメンバーを見れば、目的は一目瞭然であった。

「金に目が眩んだか。せっかく割に合わない依頼でも引き受けてやったのに、恩知らずな奴らめ」

 シンの言葉に図星を突かれたディックが声を張り上げる。

「仕方ないだろ! もう、こうするしかなかったんだよ! 依頼が失敗続きで金は、すっからかんだ。このままじゃ俺達は破産してしまう」
「破産? ……まさか、まだ身の丈に合わない依頼を受けてたのか」
「俺達だって上のダンジョンで荒稼ぎしたいんだよ! そいつらはいいよな。ただで高級装備貰えて。そのおかげであんな小娘でも楽勝でドラゴン倒せるんだろ? 俺らはクランすら入れてくれない癖に、贔屓が過ぎるぜ」

 勢いのままに不満をぶちまける。
 初めはシンへの不満は小さなものだった。
 しかし、危うくなったクラン運営の悩みや焦り、苛立ちがいつしかシンへの不満に向けられるようになってしまっていた。

「贔屓したつもりはなかったが……結果的に見ると、そう思われても仕方ないことをやっていたかもしれない。
しかし、たとえ贔屓していたとしても、それは俺の勝手だ。教職者じゃあるまいし、非難される謂れはない」

 シンの反論に、ディックは何も言い返せなかった。
 心の底では言いがかりをつけていると自分でも分かっていたのだ。

「態々こんなところにまで連れ出しやがって、取っ捕まえてギルドに引き渡してやる」
「シンさん後ろ!」

 モコの声が上げた直後、シンは素早くディックを放り出して後ろを振り向く。
 目の前にいた人影を見て、咄嗟に裏拳をかました。
 直撃を受けた、その人物は吹き飛び、倒れる。

 その倒れた人物は仮面の男であった。
 直後、シンは首の違和感と共に体の不調を覚える。

「く……これは……」

 全身の力が抜け始め、膝をつく。
 更に封印と痺れが合わさった感じもあった。

 シンは首に付けられた輪っかを手で触り、感触で正体に気付く。

「囚人拘束用のマジックアイテムか!」

「そうだ」

 仮面の男が身体を起こし、その仮面を外す。
 素顔を露わしたのはイゴルドであった。

「念には念を入れて、後ろで控えていたが、正解だったな」

 イゴルドは奥の手として、囚人が収監する際に装着されるマジックアイテムを準備していた。
 それは永続的にスキルと魔法を使用不可にして、更に力の制限をかけるものである。
 極めて凶悪な効果であるので、通常では手に入れることは出来ない代物であった。

 イゴルドは懐から注射器を取り出し、無防備になっていたシンの首筋に撃ち込む。

「いっ、何を……」

 その時、シンの全身に痛みが走る。
 そして口から血を吐き出した。

「げほっ」
「シンさん!?」

 モコ達は声を上げるが、身体が痺れて駆けつけることはできない。
 シンは跪く格好で耐えるように苦しむ。

「くくく……苦しむがいい。息子はもっと苦しかったんだ」
「おじさん止めて! こんなことしても何にも意味ないよ」

 アリカが懸命に止めるよう訴える。
 だが、そんなアリカをイゴルドは冷ややかな目で見た。

「忠告はした。従わなかったのは君の判断だ。そいつと共に地獄に落ちるがいい」
「そんなっ。おじさん話を聞いて……」
「それにしてもミイちゃんまで、そいつに組するとはな。将来どちらかが息子の嫁になると思っていたのに、全く女というのは碌でもない」

 イゴルドはミイに向けても冷たい視線を送る。
 ミイはどうすればいいのか分からず、何も言えなかった。

「ほら、何をしている。さっさと回収しろ」

 イゴルドに急かされ、ディック達はシン達の装備の回収を始めた。
 鎧を脱がしにかかるディックにガウルが言う。

「考え直せ。強さは装備だけで決まるものじゃない。こんなことをしても大した成果は上げられないぞ」

 ディックは何も返さず、黙々と装備を脱がせていく。
 ガウルは、めげずに語り続ける。

「モコ達だって初めからドラゴンと戦えるレベルだった訳じゃない。シンに指導で毎日、必死に勉強や鍛錬をしてきたからこそ戦えるようになったんだ。決して装備だけの力じゃない。何なら、貴方達もシンの指導を受ければいい。俺がやってくれるよう掛け合って……」

 必死に説得をしていると、首元に剣を突きつけられる。

「静かにしてろ」

 剣を突きつけられ、ガウルは黙るしかなかった。


 そうこうしているうちに全員の装備が奪われ、シン達は薄着姿にされてしまう。

「ギルドにはレッドドラゴンに油断してやられてしまったと報告しておいてやる。安心して餌となるがいい」
「おじさん待って!」

 アリカが呼び止めるが、イゴルド達は何も聞こえていないかのように無視して去って行った。
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