ゲームの世界に堕とされた開発者 ~異世界化した自作ゲームに閉じ込められたので、攻略してデバックルームを目指す~

白井よもぎ

文字の大きさ
52 / 72
第三章

52話 スランプ

しおりを挟む
 天獄の大迷宮、前半階層。

 シン達に向けて、三つの顔を持つ大きな犬のモンスター、ケルベロスが突っ込んでくる。
 構えたシンは、その場から動かず、当たる直前に往なして突進の軌道を変えた。
 往なされてシンの横を素通りしてしまうケルベロスだが、即座に飛び跳ねて振り返り、咆哮を上げる。

 ガウルの死によって中断された天獄の大迷宮の攻略だが、シン達は改めて準備を整えて、早々に再挑戦をしていた。

「アリカ! 足を氷結!」
「了解っ」

 シンの指示を受けたアリカは袋から液体爆弾を取り出し、ケルベロスの下へ目掛けて投げつけた。
 足元に叩き付けられた液体爆弾は、爆発してケルベロスの足を水浸しにする。
 次にアリカが杖をかざすと、その水が瞬く間に氷結してケルベロスの足を凍らせた。

「ミイ!」
「あいさ」

 ミイはケルベロスに飛び掛かり、両手のナイフで横っ腹をクロスに切り裂く。
 夥しい量の出血をし、ケルベロスは痛みで悲鳴を上げた。

 そこでシンは反対側から掌打を食らわせ、追い打ちをかける。
 両足を封じられ、攻撃を受け続けるケルベロスだが、藻掻くことで少しずつ氷にヒビが入っていた。
 そして、ある程度ひび割れたところで身体を大きく捻り、勢いをつけて回転をする。
 その勢いで足の氷が割れ、ケルベロスは身体を回転させた。
 近くに居たシンとミイは咄嗟に飛び退く。
 だが、後ろに跳んだミイに対し、シンは上に跳んでしまった。

 ケルベロスの攻撃範囲内からは逃れられていない。
 そこに三つのうちの顔の一つが大口を開けて襲い掛かる。
 空中でシンは往なしの構えをするが、慌てていたせいでタイミングを失敗する。
 発動が早すぎた為、牙が迫る頃にはスキルの効果は失っていた。

 咄嗟に体を捻って避けようとするが、避けきれず腕を噛みつかれる。

「チッ!」

 片腕を咥えられ、ぶら下がった状態で、シンは指弾をケルベロスの顔に向けて乱射した。
 痛みに耐えながら何発か撃ち込むと、その一つが目に当たり、ケルベロスは顔を振り回す。
 その勢いで腕を離され、投げ飛ばされた。

 シンを遠くに投げ飛ばしたケルベロスは振り返り、アリカとミリアの方を見る。

「い”」

 そして、すぐさま突進をしてきた。
 アリカは慌てて高威力爆弾を投げつける。
 即座に起爆させるが、タイミングが合わず通り過ぎた後に爆発してしまう。
 急いで次の爆弾を取り出そうとする。
 しかし、もうケルベロスは目前に迫っており、投げる余裕はなかった。
 そのままアリカに向かって突っ込んでくる。

 直撃する寸前、ケルベロスの顔の横にシンが現れ、縮地の勢いを乗せた蹴りをかました。
 ケルベロスは吹き飛び、地面を転がる。
 そして動かなくなった。

 シンは先ほど噛まれた腕を回復魔法で治療しながら、アリカに声をかける。

「悪い。タイミングミスった。大丈夫か?」
「ええ、私は何ともないわ」

 そこで岩陰に隠れていたミリアが顔を出した。

「……倒せましたか? 結構、苦戦しましたね」

 ミイも、しれっとした表情で近くに寄ってくる。

「いやぁ、なかなか強敵だったよー」
「雑魚モンスターの部類だけどな」

 強めではあるが、このダンジョンでは普通に出てくる雑魚モンスターの一種であった。

 シンは喋りながら腕を治していると、ふと腕に違和感を感じる。
 手を握ったり開いたりするが、スムーズにいかない。

「どうかした?」
「……腱やられたかも」

 欠損が大きい場合、モンクの回復魔法では完治しきれなかった。
 モコなら、この程度は治せていたが、今ここにはいない。
 クリアするには、この先のルシフェルをまた倒さねばならず、最深部にはラスボスも控えていた。
 腕が真面に使えない状態で倒すことなど、到底無理である。

「また失敗か……」

 天獄の大迷宮へ挑んだのは、これでもう何度目かであった。
 今回のような治しきれない怪我やら、アイテム不足やらで何度も出直していたのである。
 シンはスランプであった。

 攻略パーティはシンを主軸として動いている。
 自身の戦闘に加え、全体の指揮やフォローには、精密な動きや的確な判断が求められる。
 ガウルを失ったことで、多大に精神に負荷を負った今の精神状態では、とてもそんなことなど出来なかった。
 シンも分かってはいたが、自分では、どうすることもできない問題である。
 しかし、攻略を止めることはできないので、挑み続けるしかなかった。

 今回も失敗ということで、シン達は渋々街へ帰還した。



 馬車を降りたところで、ミリアがシン達に告げる。

「あのう……クリアできそうにないんで、私はこれで抜けさせてもらいます」
「……そうか。無駄に付き合わせて悪かった」

 ミリアのことを疎ましく思っていたシンだが、幾度となく同行してもらったにも拘わらず、クリアまで行き着けなかったことは、自分の落ち度である為、流石に申し訳なく感じていた。

「いえー。ただの同行者なのに分け前もくれましたし、私としては美味しい取材でした。収入的には大変魅力的ですが、本業を疎かにする訳にもいきませんので」

 荷物持ちとして協力してくれていたので、ミリアにも素材を売った収入を均等に配分していた。
 最難関ダンジョンのモンスターである為、素材の売却金額は非常に高く、ミリアの年収を優に超える収入を叩き出していた。
 だが、ミリアの本職はあくまでも雑誌記者である。
 記者としてのプライドがある為、いくら稼げても本業を捨てるつもりはなかった。

「それでですね。記事の方はどうしましょうか?」
「すまないがモコちゃんが、あんな様子だから、できたらまだ、そっとしておいてほしい」
「了解です」

 踏破は失敗したものの、中間地点に到達しただけでも快挙であり、十分記事にできるものであった。
 しかしガウルのことがあって、とても周りから称えてもらうような状態ではない為、ミリアに頼んで記事にすることを止めてもらっていたのだ。

 ミリアが無断で記事を出すことも出来たが、ファング親子とそれなりに関わったことから、モコへの私的な感情もあって、先延ばしのお願いを素直に受け入れた。

「では、また機会があれば」

 ミリアは一礼して、シンのパーティから離れて行った。



 ミリアが去った後、シンが二人に向けて言う。

「……お前達も抜けるか?」

「へ? 何で? 抜けないよー」
「抜けないわよ。突然、何言い出してるの?」

 舎弟根性が身に染みついていた二人は、どれだけ危ない目に遭おうとも、抜けるという発想自体がなかった。
 しかし、今の冒険スタイルが危ないことは理解していたので、アリカは言葉を続けて進言する。

「ってか、暫く休養してみたら? シン弱くなったし。今のメンバーじゃ、いくらやってもクリアできないわよ」
「それは無理だ。待ってたら、いつになるか分からない」
「それはそうだけど、無理に行っても結果は同じだと思うわよ。それに今の調子じゃ、いつ死ぬか分からないから、ちょっと怖いわ」

 不調により、あれからシンがミスをしたことは数知れない。
 幸い、致命的なことには、まだなっていなかったが、アリカ達はその度に怖い思いをしていた。

「じゃあ二人は暫く休止しろ。俺は一人で行く」
「え!? 一人は無理でしょ」
「元々は一人で行く予定だったんだ。指示やフォローしなくていい分、自分が戦うのは、やり易くなる」
「確かにシンと比べたら私達なんか大したことないけど……。本当に大丈夫なの?」
「多少、殲滅力は下がるが、その程度だ。戦利品はちゃんと分けてやるから、金の方も心配するな。じゃ、俺は暗くなる前に病院行ってくるから」
「え、ちょっと待っ」

 シンはアリカが呼び止めようとする声を無視して、一人で歩いて行ってしまった。
 残されたアリカとミイは、仕方なしにクランハウスへと帰ることにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

書道が『神級』に昇格!?女神の失敗で異世界転移して竜皇女と商売してたら勇者!聖女!魔王!「次々と現れるので対応してたら世界を救ってました」

銀塊 メウ
ファンタジー
書道が大好き(強制)なごくごく普通の 一般高校生真田蒼字、しかし実際は家の 関係で、幽霊や妖怪を倒す陰陽師的な仕事 を裏でしていた。ある日のこと学校を 出たら目の前は薄暗い檻の中なんじゃ こりゃーと思っていると、女神(駄)が 現れ異世界に転移されていた。魔王を 倒してほしんですか?いえ違います。 失敗しちゃった。テヘ!ふざけんな! さっさと元の世界に帰せ‼ これは運悪く異世界に飛ばされた青年が 仲間のリル、レイチェルと楽しくほのぼの と商売をして暮らしているところで、 様々な事件に巻き込まれながらも、この 世界に来て手に入れたスキル『書道神級』 の力で無双し敵をバッタバッタと倒し 解決していく中で、魔王と勇者達の戦いに 巻き込まれ時にはカッコよく(モテる)、 時には面白く敵を倒して(笑える)いつの 間にか世界を救う話です。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

処理中です...