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第二章
19話 店長
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ファーベル社・工場前に建てられている直営店。
そこのカウンターに凛は座っていた。
「まさか本当にやることになるとは」
ロバートの誘いを断る言い訳に、店長をやると言った凛だったが、ルイスが名案だと本当に店長をやるよう頼んで来た。
「いつでも辞めていいからって言われて、引き受けたけど、うーん……どうせやるなら、もうちょっと女の子受けする店が良かったわ」
直営店とのことで魔道具製品、所謂家電製品のお店なので、若い女の子はあまり来るようなところではない。
凛もそんな店の店長をやっても楽しくない為、無理言って、店の一角にアクセサリーコーナーを設けたが、客足が少ないこともあって、女の子の来店はまだない。
「凛ー、できたやつ適当に陳列しといていいかー?」
カウンターの裏から、アクセサリーが入った箱を持ったフラムが出てくる。
「ええ、見栄え良くね」
フラムはそのままアクセサリーコーナーへ行き、箱の中のアクセサリーの陳列を始める。
工場ではアクセサリーの生産などしていない為、お店のバックヤードに備え付けた工房で、フラムとクレアの二人が練習がてら制作していた。
店舗ではまだ売れていないが、高額製品購入者への粗品としてや、営業の贈呈品に使えるので、沢山作っても無駄にはならない。
客もおらず、暇を持て余す凛。
カウンターの隅に視線を移すと、そこでは玖音がのんびりとしていた。
「玖音は何にもやらないつもり? 今は暇だからいいけど、忙しくなったら手貸してよね」
「その時は、工場から借りて来ればいいじゃろ」
「嫌よ。そっちには若い女の子いないじゃない」
「何言っとるんじゃ」
「私、同い年から年下の女の子が好きなの。ほら、見てごらんなさい。可愛い女の子だけの職場。正に楽園じゃない」
本来、店員として工場の従業員を当てる予定であったが、凛は女の子だけの職場にしたかった為、手が回らなくなるまでは不要と、断っていた。
「知らんよ。一応言っておくが、儂は年上じゃぞ? 正確な歳は忘れたが、少なくとも三百年以上は生きておる」
「玖音はそうでしょうね。実年齢は私の守備範囲から外れてるけど、玖音は人間じゃないし、見た目と精神年齢が低ければイケるわ」
「馬鹿にしておるのかっ」
「ううん、褒めてる」
「どこがじゃ。……主は時々よく分からんの」
凛の感性がズレているので、玖音どう反応すればいいのか分からなくなっていた。
その時、店の入り口の扉が開き、一人の男性が入って来る。
男性は高そうな衣装に身を包んでおり、そのファッションセンスからか、気障っぽい雰囲気を醸し出していた。
「いらっしゃいませー」
店に入って来た男性は、凛の居るカウンターへと一直線にやって来る。
「お嬢さん。凛という子はどこだい?」
「私ですが」
凛が自分だと答えると、男性は値踏みするように見てから名乗る。
「ふむ、悪くないな。僕はウェルダム商事の御曹司、ミハエル・ウェルダム。君の夫となる男だ」
「はぁああああ? 何言ってんの?」
その男性客はロバートの一人息子・ミハエルだった。
「態々、君の為に挨拶しに来てやった。壮大に感謝するがいい」
ミハエルは非常に偉そうな態度を取っていた。
「あの……ロバートさんの息子さんですよね? 嫁入りのお誘いは断ったはずですが」
「庶民の君が、この僕に釣り合わないと思うのは当然のことだ。だが、安心してくれたまえ。才能と美貌があれば、庶民の女でも受け入れる器が、僕にはある」
とことんまで上から目線で話してくるミハエルに、凛は怒りも感じずに呆れ返ってしまう。
「そうじゃなくて、ただ結婚する気がないから、断ったんですけど」
「遠慮しなくていい。僕は君を受け入れると言っているのだ」
「いや、だから、お断りしますと言っているんです。お断り、願い下げ、断固拒否」
「おやおや、照れているのかい? 可愛い子猫ちゃんだ」
ミハエルは凛の言葉を真に受けず、冗談交じりに凛のおでこを指でつっつく。
凛は声にならない悲鳴を上げ、全身に鳥肌を立たせた。
「ふふふ、どうやら庶民の君には刺激が強かったようだね。今日はこのくらいにして、また日を改めて来るよ」
凛の反応を受け、ミハエルは緊張していると勘違いし、見当違いの気遣いをしながら引き下がった。
ミハエルが店から出て行くと、凛は溜め込んでいたものを出すかのように息を吐き出す。
「うへー、何なのあれ」
ミハエルは非常に特徴的な性格で、これまで凛の会ったことのないタイプの人間だった。
いくら断っても、違うように解釈され、暖簾に腕押しの状態。
まだ短い会話しかしていないが、それだけでも厄介な相手であろうことが分かった。
「凛、結婚すんの?」
フラムとクレアはバックヤードから顔を覗かせて、一連のやり取りを見ていた。
「する訳ない。あんなの論外でしょ」
「でも、したら玉の輿になれるぜ。あそこ、とんでもない金持ちだから」
「無理無理、どんなにお金積まれても、男と結婚なんてできないわ。もし、相手が可愛い女の子だったら、大歓迎だったけど」
「?? 凛って女だよな?」
「そうよ。女だけど女の子が好きなの。結婚するなら、フラムちゃん達みたいな可愛い女の子がいいわ」
「さっき話してたのガチな方だったんだ……。凛くらいの人なら、感性も違うんだろうな」
フラムとクレアは驚いてはいるが、引いたりはしていない。
色んな能力が人間離れしていて、元から一般人の枠から外れていたので、変わり者として受け入れられたのだった。
そのやり取りを見ていた玖音が言う。
「主も難儀じゃの。若い女子が欲しいなら、土地神にでもなったらどうじゃ? 頼んでもいないのに、生贄で送られて来るぞ」
「それは、ちょっとそそるわね……」
オキツネ村では生贄を懸命に阻止した凛だったが、自分が奉げてもらう立場になって考えると、魅力的に思ってしまうのだった。
そこのカウンターに凛は座っていた。
「まさか本当にやることになるとは」
ロバートの誘いを断る言い訳に、店長をやると言った凛だったが、ルイスが名案だと本当に店長をやるよう頼んで来た。
「いつでも辞めていいからって言われて、引き受けたけど、うーん……どうせやるなら、もうちょっと女の子受けする店が良かったわ」
直営店とのことで魔道具製品、所謂家電製品のお店なので、若い女の子はあまり来るようなところではない。
凛もそんな店の店長をやっても楽しくない為、無理言って、店の一角にアクセサリーコーナーを設けたが、客足が少ないこともあって、女の子の来店はまだない。
「凛ー、できたやつ適当に陳列しといていいかー?」
カウンターの裏から、アクセサリーが入った箱を持ったフラムが出てくる。
「ええ、見栄え良くね」
フラムはそのままアクセサリーコーナーへ行き、箱の中のアクセサリーの陳列を始める。
工場ではアクセサリーの生産などしていない為、お店のバックヤードに備え付けた工房で、フラムとクレアの二人が練習がてら制作していた。
店舗ではまだ売れていないが、高額製品購入者への粗品としてや、営業の贈呈品に使えるので、沢山作っても無駄にはならない。
客もおらず、暇を持て余す凛。
カウンターの隅に視線を移すと、そこでは玖音がのんびりとしていた。
「玖音は何にもやらないつもり? 今は暇だからいいけど、忙しくなったら手貸してよね」
「その時は、工場から借りて来ればいいじゃろ」
「嫌よ。そっちには若い女の子いないじゃない」
「何言っとるんじゃ」
「私、同い年から年下の女の子が好きなの。ほら、見てごらんなさい。可愛い女の子だけの職場。正に楽園じゃない」
本来、店員として工場の従業員を当てる予定であったが、凛は女の子だけの職場にしたかった為、手が回らなくなるまでは不要と、断っていた。
「知らんよ。一応言っておくが、儂は年上じゃぞ? 正確な歳は忘れたが、少なくとも三百年以上は生きておる」
「玖音はそうでしょうね。実年齢は私の守備範囲から外れてるけど、玖音は人間じゃないし、見た目と精神年齢が低ければイケるわ」
「馬鹿にしておるのかっ」
「ううん、褒めてる」
「どこがじゃ。……主は時々よく分からんの」
凛の感性がズレているので、玖音どう反応すればいいのか分からなくなっていた。
その時、店の入り口の扉が開き、一人の男性が入って来る。
男性は高そうな衣装に身を包んでおり、そのファッションセンスからか、気障っぽい雰囲気を醸し出していた。
「いらっしゃいませー」
店に入って来た男性は、凛の居るカウンターへと一直線にやって来る。
「お嬢さん。凛という子はどこだい?」
「私ですが」
凛が自分だと答えると、男性は値踏みするように見てから名乗る。
「ふむ、悪くないな。僕はウェルダム商事の御曹司、ミハエル・ウェルダム。君の夫となる男だ」
「はぁああああ? 何言ってんの?」
その男性客はロバートの一人息子・ミハエルだった。
「態々、君の為に挨拶しに来てやった。壮大に感謝するがいい」
ミハエルは非常に偉そうな態度を取っていた。
「あの……ロバートさんの息子さんですよね? 嫁入りのお誘いは断ったはずですが」
「庶民の君が、この僕に釣り合わないと思うのは当然のことだ。だが、安心してくれたまえ。才能と美貌があれば、庶民の女でも受け入れる器が、僕にはある」
とことんまで上から目線で話してくるミハエルに、凛は怒りも感じずに呆れ返ってしまう。
「そうじゃなくて、ただ結婚する気がないから、断ったんですけど」
「遠慮しなくていい。僕は君を受け入れると言っているのだ」
「いや、だから、お断りしますと言っているんです。お断り、願い下げ、断固拒否」
「おやおや、照れているのかい? 可愛い子猫ちゃんだ」
ミハエルは凛の言葉を真に受けず、冗談交じりに凛のおでこを指でつっつく。
凛は声にならない悲鳴を上げ、全身に鳥肌を立たせた。
「ふふふ、どうやら庶民の君には刺激が強かったようだね。今日はこのくらいにして、また日を改めて来るよ」
凛の反応を受け、ミハエルは緊張していると勘違いし、見当違いの気遣いをしながら引き下がった。
ミハエルが店から出て行くと、凛は溜め込んでいたものを出すかのように息を吐き出す。
「うへー、何なのあれ」
ミハエルは非常に特徴的な性格で、これまで凛の会ったことのないタイプの人間だった。
いくら断っても、違うように解釈され、暖簾に腕押しの状態。
まだ短い会話しかしていないが、それだけでも厄介な相手であろうことが分かった。
「凛、結婚すんの?」
フラムとクレアはバックヤードから顔を覗かせて、一連のやり取りを見ていた。
「する訳ない。あんなの論外でしょ」
「でも、したら玉の輿になれるぜ。あそこ、とんでもない金持ちだから」
「無理無理、どんなにお金積まれても、男と結婚なんてできないわ。もし、相手が可愛い女の子だったら、大歓迎だったけど」
「?? 凛って女だよな?」
「そうよ。女だけど女の子が好きなの。結婚するなら、フラムちゃん達みたいな可愛い女の子がいいわ」
「さっき話してたのガチな方だったんだ……。凛くらいの人なら、感性も違うんだろうな」
フラムとクレアは驚いてはいるが、引いたりはしていない。
色んな能力が人間離れしていて、元から一般人の枠から外れていたので、変わり者として受け入れられたのだった。
そのやり取りを見ていた玖音が言う。
「主も難儀じゃの。若い女子が欲しいなら、土地神にでもなったらどうじゃ? 頼んでもいないのに、生贄で送られて来るぞ」
「それは、ちょっとそそるわね……」
オキツネ村では生贄を懸命に阻止した凛だったが、自分が奉げてもらう立場になって考えると、魅力的に思ってしまうのだった。
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