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第二章
23話 クレーマー
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方針が決まり、ルイス達はそれに従って経営を始めた。
コスト削減による値下げを行い、既に買ってくれた人には、売り込みも兼ねて他製品をサービスに贈呈する。
店舗では、商品を充実させて、口コミで評判を広げて行く。
それに伴い、店員として工場から女性社員の助っ人を入れるという、凛としては苦渋の決断をしたが、そのおかげもあってか、どちらも順調に進み、妨害など撥ね飛ばす勢いで売り上げは上がって行った。
「類似品売ってる企業、無理な値下げして厳しいらしいよ」
店舗バックヤードの工房で、フラムが雑談がてらライバル企業の近況を話す。
「原材料を替えたのが効いてるわね。こっちにはまだ余裕があるから、これ以上の値下げ合戦は、相手が自滅していくだけだわ」
「ってことは、あたしらの勝ち?」
「このままいけばね。多分、何かしてくるだろうけど」
大本はロバートである。
手駒の一つを撥ね退けたぐらいで、諦めるとは到底思えなかった。
その時、店の方から女性店員の声が、凛達の耳に聞こえてくる。
「止めてください! 衛兵、呼びますよ!」
壊れるような音もしており、凛達は何事かと店内を覗く。
そこではガラの悪い二人の男が、店の商品を倒したりして暴れていた。
「あんな粗悪品売りつけやがって! ここは欠陥商品を平気で売りつける悪徳店か?」
女性店員は必死に止めようとするが、その暴虐振りに、手が負えないようだった。
その様子を見た凛は、慌てて飛び出す。
「お客様、私が店長ですが、如何なされました?」
聞こえた言葉から、購入者のようだったので、凛はまず丁寧に対応することにした。
凛に話しかけられた男二人は、一旦動きを止める。
「ああん? 随分と若い店長だな。まぁいい。この前、ここで買った空気清浄機が欠陥品だったんだよ。見てみろ。指挟んで大怪我した」
男は凛に向けて指を見せる。
さっきまで暴れに暴れていた男だが、その人差し指には分厚く包帯が巻かれていた。
(空気清浄機なんかで怪我を? 挟んだりするような設計じゃなかったと思うけど……)
凛は空気清浄機の形状を思い起こすが、怪我の危険性があるようなところは思い当たらなかった。
だが、凛自身は構造にそこまで詳しくなかったので、怪我することはないとは断言できなかった。
「それは誠に申し訳ございません。誠意ある対応させていただきますので、ご購入された商品を持ってきてもらってもよろしいですか?」
「んなもん、とっくに捨てた」
「え」
「あんな危ない物、手元に残しておく訳ないだろ」
「では、病院の診断書を」
「ない。ダチに治してもらったから、病院には行ってねえよ」
大袈裟に包帯を巻いているが、治癒魔法で治っているとのことだった。
一般人が使う魔法で、すぐに治るような怪我は、大怪我とは言えない
買った商品をすぐに捨てたこともあって、怪しさ満載であった。
「現物もない。診断書もない。となると、こちらでは対応できかねます」
「何だと? てめえのところの商品で怪我させられたのに、売るだけ売って知らんぷりしやがるのか! 何て店だ、ここは!」
「証拠がなければ対応できないと言っているんです」
「俺らを疑ってるのかよ! ふざけんじゃねえ!」
激高した男達は、再び暴れ始めた。
「止めなさい! どんな理由があろうと、お店の商品を壊すのは犯罪です。壊したものは全て弁償してもらいますよ」
「煩え!」
凛が強く言うが、男達は止めようとはしなかった。
最早、客ではないと判断した凛は、懐から取り出した小袋に手を突っ込み、中の砂を男達にかけた。
「うわっ、てめえ、何しやが……! う、動かねえ」
怒って凛を殴ろうとした二人の男だが、全身を何かに押さえつけられているような感じを受け、その身体はピクリとも動かすことが出来なかった。
「倒れなさい」
すると、男達は突然、床に平伏す。
「うぐ、何なんだよ……」
全身に塗された砂に押され、男達は一切身体を動かすことができなかった。
事態は収まり、凛は迷惑を掛けたと、他の客に謝罪をしてから、女性店員に男達を衛兵に引き渡すよう指示を出す。
そして、改めて暴れ回られた店内の状態を眺める。
店の一角だけであったが、それでも沢山の商品が無残な姿にされていた。
「最悪ね。これも嫌がらせかしら?」
男達の行動が、企業イメージの低下と、店への損害を促すような動きだったので、ロバートの指示ではないかと疑わざるを得なかった。
訝しんでいると、入口からミハエルが店に入って来る。
「いやはや、あんな輩が来るなんて。ここの店は客層が悪いんじゃないかい?」
ミハエルは一連のことを見ていたかのようにして話す。
「……貴方が差し向けたの?」
「失礼だね。そんな証拠は何処にもないのだろう?」
「……」
凛は疑いの眼差しを強める。
タイミングといい、ミハエルが関わっている可能性は極めて濃厚であった。
「また、こういうことがあったら、困るんじゃないかい? 僕の妻になれば、きっともう、そんなことは起こらないだろう」
それは断ればまた、同じような輩を送り込むと言っているも同然だった。
「最低ね。益々嫌になっただけだわ」
「そんなこと言っていいのかい? 君だけじゃなく、他の従業員にも生活があるのだろう? 意地を張らず、僕に嫁げば万時解決だ。そうだな。ここは女子が多いようだから、ついでに全員貰ってあげよう」
ミハエルはそう言って、店の端で片付けを始めていたクレアのお尻を撫でた。
「ひゃぁっ」
撫でられたクレアは身震いさせて反応した。
それを見た凛は鬼の形相となる。
「何しとんじゃー!!」
激高した凛は瞬時に飛び掛かり、ミハエルに跳び蹴りをかました。
「へぶっ」
いきなり飛び蹴りされたミハエルは、モロにその蹴りを受けて、店の壁へと突っ込む。
そして倒れた状態で顔を上げ、驚愕した表情を凛に向けた。
「ぼ、暴力を振るうなんて、君は何を考えているんだ。こんなことをしたら、一体どうなるか……」
「喧嘩上等。もう、ここまでされたら、大人しくしてやるつもりはないわ。覚悟しなさい」
闘う意思を示した凛が一歩踏み出すと、ミハエルは身体をビクつかせる。
「ひっ」
そして慌てて立ち上がって、その場から逃げて行った。
コスト削減による値下げを行い、既に買ってくれた人には、売り込みも兼ねて他製品をサービスに贈呈する。
店舗では、商品を充実させて、口コミで評判を広げて行く。
それに伴い、店員として工場から女性社員の助っ人を入れるという、凛としては苦渋の決断をしたが、そのおかげもあってか、どちらも順調に進み、妨害など撥ね飛ばす勢いで売り上げは上がって行った。
「類似品売ってる企業、無理な値下げして厳しいらしいよ」
店舗バックヤードの工房で、フラムが雑談がてらライバル企業の近況を話す。
「原材料を替えたのが効いてるわね。こっちにはまだ余裕があるから、これ以上の値下げ合戦は、相手が自滅していくだけだわ」
「ってことは、あたしらの勝ち?」
「このままいけばね。多分、何かしてくるだろうけど」
大本はロバートである。
手駒の一つを撥ね退けたぐらいで、諦めるとは到底思えなかった。
その時、店の方から女性店員の声が、凛達の耳に聞こえてくる。
「止めてください! 衛兵、呼びますよ!」
壊れるような音もしており、凛達は何事かと店内を覗く。
そこではガラの悪い二人の男が、店の商品を倒したりして暴れていた。
「あんな粗悪品売りつけやがって! ここは欠陥商品を平気で売りつける悪徳店か?」
女性店員は必死に止めようとするが、その暴虐振りに、手が負えないようだった。
その様子を見た凛は、慌てて飛び出す。
「お客様、私が店長ですが、如何なされました?」
聞こえた言葉から、購入者のようだったので、凛はまず丁寧に対応することにした。
凛に話しかけられた男二人は、一旦動きを止める。
「ああん? 随分と若い店長だな。まぁいい。この前、ここで買った空気清浄機が欠陥品だったんだよ。見てみろ。指挟んで大怪我した」
男は凛に向けて指を見せる。
さっきまで暴れに暴れていた男だが、その人差し指には分厚く包帯が巻かれていた。
(空気清浄機なんかで怪我を? 挟んだりするような設計じゃなかったと思うけど……)
凛は空気清浄機の形状を思い起こすが、怪我の危険性があるようなところは思い当たらなかった。
だが、凛自身は構造にそこまで詳しくなかったので、怪我することはないとは断言できなかった。
「それは誠に申し訳ございません。誠意ある対応させていただきますので、ご購入された商品を持ってきてもらってもよろしいですか?」
「んなもん、とっくに捨てた」
「え」
「あんな危ない物、手元に残しておく訳ないだろ」
「では、病院の診断書を」
「ない。ダチに治してもらったから、病院には行ってねえよ」
大袈裟に包帯を巻いているが、治癒魔法で治っているとのことだった。
一般人が使う魔法で、すぐに治るような怪我は、大怪我とは言えない
買った商品をすぐに捨てたこともあって、怪しさ満載であった。
「現物もない。診断書もない。となると、こちらでは対応できかねます」
「何だと? てめえのところの商品で怪我させられたのに、売るだけ売って知らんぷりしやがるのか! 何て店だ、ここは!」
「証拠がなければ対応できないと言っているんです」
「俺らを疑ってるのかよ! ふざけんじゃねえ!」
激高した男達は、再び暴れ始めた。
「止めなさい! どんな理由があろうと、お店の商品を壊すのは犯罪です。壊したものは全て弁償してもらいますよ」
「煩え!」
凛が強く言うが、男達は止めようとはしなかった。
最早、客ではないと判断した凛は、懐から取り出した小袋に手を突っ込み、中の砂を男達にかけた。
「うわっ、てめえ、何しやが……! う、動かねえ」
怒って凛を殴ろうとした二人の男だが、全身を何かに押さえつけられているような感じを受け、その身体はピクリとも動かすことが出来なかった。
「倒れなさい」
すると、男達は突然、床に平伏す。
「うぐ、何なんだよ……」
全身に塗された砂に押され、男達は一切身体を動かすことができなかった。
事態は収まり、凛は迷惑を掛けたと、他の客に謝罪をしてから、女性店員に男達を衛兵に引き渡すよう指示を出す。
そして、改めて暴れ回られた店内の状態を眺める。
店の一角だけであったが、それでも沢山の商品が無残な姿にされていた。
「最悪ね。これも嫌がらせかしら?」
男達の行動が、企業イメージの低下と、店への損害を促すような動きだったので、ロバートの指示ではないかと疑わざるを得なかった。
訝しんでいると、入口からミハエルが店に入って来る。
「いやはや、あんな輩が来るなんて。ここの店は客層が悪いんじゃないかい?」
ミハエルは一連のことを見ていたかのようにして話す。
「……貴方が差し向けたの?」
「失礼だね。そんな証拠は何処にもないのだろう?」
「……」
凛は疑いの眼差しを強める。
タイミングといい、ミハエルが関わっている可能性は極めて濃厚であった。
「また、こういうことがあったら、困るんじゃないかい? 僕の妻になれば、きっともう、そんなことは起こらないだろう」
それは断ればまた、同じような輩を送り込むと言っているも同然だった。
「最低ね。益々嫌になっただけだわ」
「そんなこと言っていいのかい? 君だけじゃなく、他の従業員にも生活があるのだろう? 意地を張らず、僕に嫁げば万時解決だ。そうだな。ここは女子が多いようだから、ついでに全員貰ってあげよう」
ミハエルはそう言って、店の端で片付けを始めていたクレアのお尻を撫でた。
「ひゃぁっ」
撫でられたクレアは身震いさせて反応した。
それを見た凛は鬼の形相となる。
「何しとんじゃー!!」
激高した凛は瞬時に飛び掛かり、ミハエルに跳び蹴りをかました。
「へぶっ」
いきなり飛び蹴りされたミハエルは、モロにその蹴りを受けて、店の壁へと突っ込む。
そして倒れた状態で顔を上げ、驚愕した表情を凛に向けた。
「ぼ、暴力を振るうなんて、君は何を考えているんだ。こんなことをしたら、一体どうなるか……」
「喧嘩上等。もう、ここまでされたら、大人しくしてやるつもりはないわ。覚悟しなさい」
闘う意思を示した凛が一歩踏み出すと、ミハエルは身体をビクつかせる。
「ひっ」
そして慌てて立ち上がって、その場から逃げて行った。
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