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第三章

37話 不正

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 凛達が観客席に戻ると、程なくして決勝戦が始まる。

 闘技スペースで戦うのはミーシェのバッファローと相手方の小型ドラゴン・レッサードラゴンであった。
 バッファローは大柄であるが、ドラゴンは元の種族としての大きさが巨大なので、小型といっても変わらない大きさである。

 両者は優勝を賭けて激しくぶつかる。

「いいねぇ。やっぱり勝つ気満々だ」

 バッファローは一切の躊躇いを見せず、攻めの姿勢と取っていた。

 バッファローの猛攻に、レッサードラゴンは必死に対抗してみせている。
 作られたスターとはいえ、曲がりなりにも王者であるので、そう易々と倒せる相手ではなかった。


 バッファローの突進により、レッサードラゴンが吹き飛ばされる。

「よっしゃ! 行け!」

 バッファローは更に追撃しようと、倒れたレッサードラゴンに向かって突進する。
 だがレッサードラゴンは倒れた状態で首を向け、口を大きく開けた。

「やばっ」

 レッサードラゴンの口から炎が吐き出される。
 バッファローに炎が迫るが、突進中である為、急に止まることは出来ない。

「前に出て!」

 ミーシェが指示を出すと、バッファローは斜め前に踏み込み、炎に煽られながら、レッサードラゴンの後ろへと回り込む。
 炎によって身体の毛が若干焦げてしまったが、被害は最小限に抑えていた。

「よし! いいぞ! ガンガン仕掛けろ!」

 フラム達は熱狂的に応援する。
 実力はバッファローの方が上のようで、少しずつレッサードラゴンを押していた。


 バッファロー優勢の状態で戦いが続いていると、指示を出しているミーシェのところに、ベルガモンスターバトル協会の会長が、駆け寄って来た。
 何か怒鳴りつけている様子を見せるが、ミーシェは堅く首を横に振る。
 すると、会長は怒りを露わにしながら、そこから離れた。

「ははっ。すげぇ根性あるな。益々ファンになった」

 ミーシェはクビ覚悟で戦っていた。

「見た目は弱々しそうなのに、心は強いのね。素敵」
「兎人族って、基本みんな気が弱いから、ほんとに、すげーと思うよ」

 裏事情を知っていた凛達は、ミーシェの覚悟と勇姿に、感銘を受ける。
 モンスターバトルにあまり興味を持っていなかった凛も、夢中で観戦していた。


 度重なる攻撃を受け、レッサードラゴンは足元が覚束なくなってくる。

「うーちゃん!」

 レッサードラゴンの状態を見たミーシェが、バッファローを愛称で呼ぶ。
 すると、タックルをかましてレッサードラゴンを転倒させたバッファローは、素早く距離を開けて、後ろ足で地面を引っ掻き始めた。

「お! 決着をつける気だ。全身の体重をかけた猛突進。隙は多いが、当たれば、どんな奴でも一撃で倒せる必殺技だ」

 ミーシェは十分なダメージを与えたと判断し、ここで決着をつけることを決めた。
 バッファローも分かってか迫真の形相で、全身に力を溜める。

 レッサードラゴンは慌てて体勢を立て直そうとするが、足元がおぼつかず、すぐには立て直せないようだった。

 そうしているうちに準備が完了したバッファローは、勢いよくレッサードラゴンに向かって突撃する。

「行っけー!!」

 その巨体からは信じられない速度で、風を切りながら走る。
 レッサードラゴンは、まだ動くことが出来ない。

 そのままレッサードラゴンに迫ろうとしたその時、バッファローの足元の石畳が割れた。
 踏み込んだ足が、出来た窪みに嵌まり込み、バッファローは派手に転倒する。

「マジか!」

 必殺技が不発し、観客席からは落胆の声が響く。

 バッファローはすぐに立ち上がろうとするが、一足先に立ち直したレッサードラゴンが、バッファローに向けて大きく口を開いた。

「やべーっ、やべーっ」

 状態を立て直す前に、その口から炎が吐き出される。
 炎は勢いよく放出され、無防備状態のバッファローに浴びせられた。

 炎に炙られ、バッファローは悶え苦しむ。
 苦しみながらも、炎から抜け出そうとするが、その時、バッファローの身体で、炎が破裂したかのように爆発を起こした。
 爆発をもろに受けたバッファローは、力尽きたように倒れる。

 炎が止むと、所々焼け焦げたバッファローの姿が観客の前に晒された。
 すぐさま審判がカウントと取り始める。

 立ち上がれば試合再開となるが、それは叶わないことは、誰の目にも明らかだった。
 そのまま十のカウントが終わり、決着がつく。

「はぁー……負けちまったかぁー。八百長ぶっ潰せなかったな。てか、あたしの賭け金がー」

 凛達はみんなミーシェ・バッファローペアに賭けていたので、大損してしまっていた。
 みんなが残念がる中、凛は訝しげな顔をして言う。

「ねぇ、さっき転んだのって……」
「魔法、ですね……」

 他の観客は気付いていなかったが、魔法に秀でた凛と魔女族のラピスだけは気付いた。
 すると、シーナも言う。

「爆発したの、多分火薬だよ」

 バッファローは罠に嵌められ、無理矢理負けさせられていた。
 会長はミーシェが従わなかった時の為に、二重三重の手を打っていたのだ。

 リングでは、搬送される重症のバッファローの傍らで、ミーシェが泣きながら同伴していた。

「……許せない。怒鳴り込みに行くわ」

 不正をしたうえ、少女まで泣かせた。
 凛にとっては到底許しがたい行いであった。
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