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第四章

47話 浮浪児

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「ありがとうございました。まさか、詐欺だったなんて……」

 詐欺露店前から連れ出すと、少女は凛にお礼を言ってきた。

「流石にあれには気付いた方がいいわよ」
「すみません。世間知らずで……」

 少女は肩を落として落ち込む。
 女の子相手だったが、流石の凛も苦言せざるを得なかった。

「まぁ、ギリギリ防げたからセーフね。こっちはスラムっぽいから、分からないなら入るべきじゃないわ」
「分かってはいたのですが、自分の住んでいる街ですから、一度は目にしておきたいと思いまして」
「なら、一緒に回る? 私もこっちのお店、見て回ろうとしてたところだから」
「是非」

 凛は少女と一緒に貧民区の出店エリアを回ることとなった。


 二人は露店で買ったアイスクリームを片手に自己紹介がてら、それぞれのことをお喋りながら巡り歩く。
 少女の名はクーネといい、地元に住んでいる町娘とのこと。
 生粋の地元民であるが、貧民区のことは少し危ない場所ということぐらいの認識でしかなかった為、周りからは止められていたものの、大丈夫だろうと入ってしまったらしい。

「冒険者をしながら旅をしているのですか。いいですね。そういうの憧れます」

 クーネは目を輝かせて言う。

「じゃあ、一緒に来る? 同行者いるけど、みんなクーネちゃんくらいの年齢の子よ」
「お誘いは嬉しいのですが、ちょっと難しいです……」
「そりゃそうよね」

 当てもない長期の旅など、普通はそう簡単に同行できるものではなかった。

「今、こうしてるだけでも、私にとっては冒険みたいなものです。こんな、食べながら歩くなんてことしたの初めてで、とっても楽しいです」
「買い食い初めてなんだ。さっきから薄々感じてたけど、育ちの良さが滲み出てるわね」

 クーネは身形から物腰まで、至る所から育ちの良さが感じ取られた。
 貧民区にいるからか、凛からは、それが特に際立って見えていた。

「え。そ、そうですか?」
「もうバリバリ。でもね、私もこう見えていいとこ育ちというか、結構いい学校に通ってたのよ」

 凛は育ちの良さマウントを取り始めた。


 その時、向かいから走って来た子供がクーネにぶつかる。

「きゃっ」

 ぶつかって来た子供は謝罪もせず走り去って行く。
 体勢を持ち直したクーネだが、気付くと、手に持っていたはずのアイスクリームが消えていた。

 二人が去って行った子供へと目を向けると、その手に、食べかけのアイスクリームがあった。

「アイスクリーム泥棒?」

 酷くチンケな窃盗であったが、凛は奪われたクーネのショックを受けている顔を見て、怒りが湧いてくる。
 すぐに子供に向けて手を翳す凛だが、人混みのせいで上手く狙いが定まらない。

「あーもう、走って捕まえるわよ」
「は、はいっ」

 凛とクーネは子供を追って、走り出した。


 追ってきたことに気付いた子供は、急いで細い路地へと逃げ込む。
 凛とクーネも後に続いて路地に入った。

 その路地は薄暗く、出店エリアより一層荒んでいた。
 人気が殆どないと見た凛は、逃げる子供の方に向けて手を翳す。

「飛んで火に入るってね」

 直後、子供が走る前方の土が一気に盛り上がり、壁が出来た。
 子供は突然現れた壁に驚いて、尻餅をつく。

 その隙に、凛達は子供の下へと追いついた。

「……女の子?」

 アイスクリームを盗った子供は猫耳の女の子であった。
 歳は十三、四ほどで、ボロ布のような服に身を包んだ、みすぼらしい格好をしている。

 アイスは逃げている間に食べられてしまったようで、手にはもう何も持っていない。

「スラムの子ですかね?」
「んー、格好からして浮浪児っぽいわね」

 この世界でホームレス生活をしている子供を見かけることは、そう珍しくはない。
 治安が悪かったり社会福祉が未成熟だったりと、場所によって原因は様々だが、どの国にでも一定数は存在していた。

 浮浪児の多くは、窃盗で生計を立てているので、一般市民からは忌み嫌われる存在だった。


 壁に驚いていた浮浪児の少女だが、近くまで来た凛達に気付いて、慌てて臨戦態勢を取る。
 だが、そこで浮浪児の少女のお腹が鳴った。

「お腹空いてるの?」

 浮浪児の少女が空腹であることを知った凛は、シェルターミラーに手を突っ込み、先程買い込んだ食料の中から、そのまま食べれる物を出す。
 警戒する浮浪児の少女だが、凛がソーセージや野菜を差し出すと、即座に分捕り、貪るように食べ始めた。

「途中で没収なんてしないから、ゆっくり食べていいわよ」

 ゆっくり食べるよう言うが、浮浪児の女の子は無視して全力で食べ続けた。


 眺めていると、満腹になったようで手が止まる。
 そこで浮浪児の少女が凛に言う。

「ねぇ、みんなにも食べさせてあげたい」
「仲間がいるの? いいわよ。まだ沢山あるから」

 凛が快く了承すると、浮浪児の少女は凛の手を引き、案内を始める。
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