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第5話 ルール③と、隣に眠る距離
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夜。リビングで紅茶を飲んでいると、玲央さんがソファに腰掛け、私の方へ少し体を傾けた。
「美桜。そろそろ、ルール③を伝えてもいいですか?」
「は、はい。どうぞ……」
玲央さんは優しく笑って、テーブルに一枚の紙を置く。
【ルール③ 外では距離を保ってもいいけど、家の中では“恋人らしく”接すること】
読んだ瞬間、心臓が跳ねた。
「こ、恋人らしくって……どのくらいですか?」
「手をつなぐ、抱きしめる、甘える、名前を呼ぶ――そのあたりです。もちろん、急には無理でしょうけど」
「……ハードルが高すぎませんか」
「でも、お試し婚約者ですからね。最低限、恋人に見えなければ困る」
そう言いながら、玲央さんは少しだけ寂しそうに目を伏せた。
「それに……昨日の夜、君が隣にいてくれたおかげで眠れました。だから、もう少し……距離を近くしてみたいんです」
――その言葉が胸に刺さった。
この人の寂しさは、本物だ。演技ではない。
「……わかりました。できる範囲で、やってみます」
そう言った瞬間――。
「じゃあ、練習しましょうか」
「え、今!?」
答えるより早く、玲央さんの手が私の手を包んでいた。
指先と指先が絡む。その温度に、心臓がとんでもない速さで跳ねる。
ふっと、玲央さんの目元が甘く緩んだ。
「……だめですか?」
「だ、だめじゃないです……」
「よかった。――じゃあ、もうひとつ」
「えっ……」
気づいたら、肩を引かれ、胸に抱き寄せられていた。
鼓動が、耳元でする音よりも大きく響く。
「これは、“恋人らしく抱きしめる”練習です」
「……し、心臓がもたないです……」
「僕もです」
囁くような声に、背中が震える。
しばらくそのまま抱き寄せられて、やっと腕が解かれた頃には、息がうまくできなかった。
「今日はここまでにします。これ以上は、僕の方が危ないので」
冗談めかした声。でも、耳の先まで赤くなっているのを私は見逃さなかった。
◇ ◇ ◇
その夜――。
寝室隣の部屋に戻る途中、ふと玲央さんに声をかけられた。
「……あの、お願いがあるのですが」
振り返ると、彼は少し視線を泳がせながら続けた。
「今夜も、寝つくまで隣にいてくれませんか。昨日みたいに、手を……少しだけ」
断る理由が見つからなかった。
(むしろ、断ったら後悔しそう……)
「わかりました。でも寝たらすぐ戻りますからね」
「ええ。それで構いません」
寝室のベッドに腰掛け、並んで座ると、玲央さんがそっと手を差し出した。
指を絡めると、「これだけで安心する」と小さく微笑んだ。
しばらく沈黙が続いたあと――玲央さんがぽつりと呟く。
「……婚約者って、本当はこういう感じなんでしょうか」
「……さあ。でも、こういうの、嫌いじゃないです」
そう言うと、玲央さんが目を丸くし、すぐに顔をそむけた。
「……っ。そう言われると、ますます甘えたくなるので、危険です」
やがて、彼の呼吸が深く穏やかになった。
(寝た……?)
そっと手を離そうとした瞬間――ぎゅっ、と握りしめられた。
「……いかないで……美桜……」
寝言なのか、意識しているのか判断できない声。
でも、その言葉に胸が熱くなった。
「……少しだけ、ですよ」
小さく返事をして、彼の隣に身を寄せる。
ベッドライトの柔らかな光の下で、玲央さんの寝顔は、驚くほど幼くて無防備だった。
(こんな顔で眠る人を置いて、どこにも行けないよ……)
気づけば、握った手を離せないまま、私も目を閉じていた。
◇ ◇ ◇
――翌朝。
目を覚ました瞬間、温かい腕が腰に触れていることに気づいた。
「え……」
ゆっくりと顔を上げると、すぐ近くに、玲央さんの寝顔が。
そして――耳元で囁かれた。
「おはよう、美桜。ルール②、おはようを言ってもらえますか?」
頬が一気に熱くなった。
「お、おはようございます……玲央さん」
「はい。合格です。――ところで、美桜」
「な、なんですか……」
「君、寝落ちしてましたよ。僕の腕の中で」
次の瞬間、顔が爆発しそうになった。
「美桜。そろそろ、ルール③を伝えてもいいですか?」
「は、はい。どうぞ……」
玲央さんは優しく笑って、テーブルに一枚の紙を置く。
【ルール③ 外では距離を保ってもいいけど、家の中では“恋人らしく”接すること】
読んだ瞬間、心臓が跳ねた。
「こ、恋人らしくって……どのくらいですか?」
「手をつなぐ、抱きしめる、甘える、名前を呼ぶ――そのあたりです。もちろん、急には無理でしょうけど」
「……ハードルが高すぎませんか」
「でも、お試し婚約者ですからね。最低限、恋人に見えなければ困る」
そう言いながら、玲央さんは少しだけ寂しそうに目を伏せた。
「それに……昨日の夜、君が隣にいてくれたおかげで眠れました。だから、もう少し……距離を近くしてみたいんです」
――その言葉が胸に刺さった。
この人の寂しさは、本物だ。演技ではない。
「……わかりました。できる範囲で、やってみます」
そう言った瞬間――。
「じゃあ、練習しましょうか」
「え、今!?」
答えるより早く、玲央さんの手が私の手を包んでいた。
指先と指先が絡む。その温度に、心臓がとんでもない速さで跳ねる。
ふっと、玲央さんの目元が甘く緩んだ。
「……だめですか?」
「だ、だめじゃないです……」
「よかった。――じゃあ、もうひとつ」
「えっ……」
気づいたら、肩を引かれ、胸に抱き寄せられていた。
鼓動が、耳元でする音よりも大きく響く。
「これは、“恋人らしく抱きしめる”練習です」
「……し、心臓がもたないです……」
「僕もです」
囁くような声に、背中が震える。
しばらくそのまま抱き寄せられて、やっと腕が解かれた頃には、息がうまくできなかった。
「今日はここまでにします。これ以上は、僕の方が危ないので」
冗談めかした声。でも、耳の先まで赤くなっているのを私は見逃さなかった。
◇ ◇ ◇
その夜――。
寝室隣の部屋に戻る途中、ふと玲央さんに声をかけられた。
「……あの、お願いがあるのですが」
振り返ると、彼は少し視線を泳がせながら続けた。
「今夜も、寝つくまで隣にいてくれませんか。昨日みたいに、手を……少しだけ」
断る理由が見つからなかった。
(むしろ、断ったら後悔しそう……)
「わかりました。でも寝たらすぐ戻りますからね」
「ええ。それで構いません」
寝室のベッドに腰掛け、並んで座ると、玲央さんがそっと手を差し出した。
指を絡めると、「これだけで安心する」と小さく微笑んだ。
しばらく沈黙が続いたあと――玲央さんがぽつりと呟く。
「……婚約者って、本当はこういう感じなんでしょうか」
「……さあ。でも、こういうの、嫌いじゃないです」
そう言うと、玲央さんが目を丸くし、すぐに顔をそむけた。
「……っ。そう言われると、ますます甘えたくなるので、危険です」
やがて、彼の呼吸が深く穏やかになった。
(寝た……?)
そっと手を離そうとした瞬間――ぎゅっ、と握りしめられた。
「……いかないで……美桜……」
寝言なのか、意識しているのか判断できない声。
でも、その言葉に胸が熱くなった。
「……少しだけ、ですよ」
小さく返事をして、彼の隣に身を寄せる。
ベッドライトの柔らかな光の下で、玲央さんの寝顔は、驚くほど幼くて無防備だった。
(こんな顔で眠る人を置いて、どこにも行けないよ……)
気づけば、握った手を離せないまま、私も目を閉じていた。
◇ ◇ ◇
――翌朝。
目を覚ました瞬間、温かい腕が腰に触れていることに気づいた。
「え……」
ゆっくりと顔を上げると、すぐ近くに、玲央さんの寝顔が。
そして――耳元で囁かれた。
「おはよう、美桜。ルール②、おはようを言ってもらえますか?」
頬が一気に熱くなった。
「お、おはようございます……玲央さん」
「はい。合格です。――ところで、美桜」
「な、なんですか……」
「君、寝落ちしてましたよ。僕の腕の中で」
次の瞬間、顔が爆発しそうになった。
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