私と彼には“25の恋愛契約”があります。距離感こじらせ御曹司と始めたルールつき婚前同棲

花森 うらら

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第5話 ルール③と、隣に眠る距離

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 夜。リビングで紅茶を飲んでいると、玲央さんがソファに腰掛け、私の方へ少し体を傾けた。

「美桜。そろそろ、ルール③を伝えてもいいですか?」

「は、はい。どうぞ……」

 玲央さんは優しく笑って、テーブルに一枚の紙を置く。

【ルール③ 外では距離を保ってもいいけど、家の中では“恋人らしく”接すること】

 読んだ瞬間、心臓が跳ねた。

「こ、恋人らしくって……どのくらいですか?」

「手をつなぐ、抱きしめる、甘える、名前を呼ぶ――そのあたりです。もちろん、急には無理でしょうけど」

「……ハードルが高すぎませんか」

「でも、お試し婚約者ですからね。最低限、恋人に見えなければ困る」

 そう言いながら、玲央さんは少しだけ寂しそうに目を伏せた。

「それに……昨日の夜、君が隣にいてくれたおかげで眠れました。だから、もう少し……距離を近くしてみたいんです」

 ――その言葉が胸に刺さった。
 この人の寂しさは、本物だ。演技ではない。

「……わかりました。できる範囲で、やってみます」

 そう言った瞬間――。

「じゃあ、練習しましょうか」

「え、今!?」

 答えるより早く、玲央さんの手が私の手を包んでいた。
 指先と指先が絡む。その温度に、心臓がとんでもない速さで跳ねる。
 
 ふっと、玲央さんの目元が甘く緩んだ。
 
「……だめですか?」

「だ、だめじゃないです……」

「よかった。――じゃあ、もうひとつ」

「えっ……」

 気づいたら、肩を引かれ、胸に抱き寄せられていた。
 鼓動が、耳元でする音よりも大きく響く。

「これは、“恋人らしく抱きしめる”練習です」

「……し、心臓がもたないです……」

「僕もです」

 囁くような声に、背中が震える。
 しばらくそのまま抱き寄せられて、やっと腕が解かれた頃には、息がうまくできなかった。

「今日はここまでにします。これ以上は、僕の方が危ないので」

 冗談めかした声。でも、耳の先まで赤くなっているのを私は見逃さなかった。

     ◇ ◇ ◇

 その夜――。

 寝室隣の部屋に戻る途中、ふと玲央さんに声をかけられた。

「……あの、お願いがあるのですが」

 振り返ると、彼は少し視線を泳がせながら続けた。

「今夜も、寝つくまで隣にいてくれませんか。昨日みたいに、手を……少しだけ」

 断る理由が見つからなかった。

(むしろ、断ったら後悔しそう……)

「わかりました。でも寝たらすぐ戻りますからね」

「ええ。それで構いません」

 寝室のベッドに腰掛け、並んで座ると、玲央さんがそっと手を差し出した。
 指を絡めると、「これだけで安心する」と小さく微笑んだ。

 しばらく沈黙が続いたあと――玲央さんがぽつりと呟く。

「……婚約者って、本当はこういう感じなんでしょうか」

「……さあ。でも、こういうの、嫌いじゃないです」

 そう言うと、玲央さんが目を丸くし、すぐに顔をそむけた。

「……っ。そう言われると、ますます甘えたくなるので、危険です」

 やがて、彼の呼吸が深く穏やかになった。

(寝た……?)

 そっと手を離そうとした瞬間――ぎゅっ、と握りしめられた。

「……いかないで……美桜……」

 寝言なのか、意識しているのか判断できない声。
 でも、その言葉に胸が熱くなった。

「……少しだけ、ですよ」

 小さく返事をして、彼の隣に身を寄せる。
 ベッドライトの柔らかな光の下で、玲央さんの寝顔は、驚くほど幼くて無防備だった。

(こんな顔で眠る人を置いて、どこにも行けないよ……)

 気づけば、握った手を離せないまま、私も目を閉じていた。

     ◇ ◇ ◇

 ――翌朝。

 目を覚ました瞬間、温かい腕が腰に触れていることに気づいた。

「え……」

 ゆっくりと顔を上げると、すぐ近くに、玲央さんの寝顔が。

 そして――耳元で囁かれた。

「おはよう、美桜。ルール②、おはようを言ってもらえますか?」

 頬が一気に熱くなった。

「お、おはようございます……玲央さん」

「はい。合格です。――ところで、美桜」

「な、なんですか……」

「君、寝落ちしてましたよ。僕の腕の中で」

 次の瞬間、顔が爆発しそうになった。
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