こっち向いて、運命。-半神騎士と猪突猛進男子が幸せになるまでのお話-

だいきち

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 父親が言うには、どうやらミハエルは天然らしい。本人には全くもってそういった自覚があるわけでもなく、むしろどちらかと言うとしっかりしているとさえ思っていた。
 
 ミハエルの歩む足は、心なしか少し早い。ここから見える演習場には、訓練終わりの騎士達がゾロゾロと出てくる。時刻はもう夕刻だ。宿舎に帰っていく者もいれば、そのまま騎士棟に立ち寄ってシャワーを浴びて市井へ繰り出す者もいる。
 ミハエルはその胸に日誌を抱いたまま、少し身を乗り出すようにして下を見る。見慣れた赤毛は見当たらず、少しだけ気分が下がった。
 騎士団長である彼が、休息日以外休みということはないはずだ。ミハエルは少しだけ粘ってその姿を探していたのだが、胸に抱く日誌が急かすように存在を主張してくる。ダラスとの約束の時間はそろそろだった。
 
「はあ、」
 
 一日、一度だけでも声を聞くことができたら良いのに、もしかしてそれは贅沢なことなのだろうか。期待していた分、気分が盛り下がってしまう。そのせいか俯いて歩いていたらしい、曲がり角で誰かとぶつかってしまった衝撃で、ミハエルはカシャンとメガネを落としてしまった。
 
「す、すみません…。」
「んだあ、ミハエルじゃねえか。何ぼーっとしてんだあ?」
「え、エルマーさん…あ、すいません。」
 
 ミハエルの腕を掴んで倒れそうになるのを止めたその人は、思い人の父親でもあるエルマーだった。
 ミハエルと同じ金色の瞳を持ち、二十六歳からその身の時間を止めた人は、サディンによく似ている。
 無骨な手でそっと摘み上げられた眼鏡が日誌の上に乗せられると、その大きな手が少しだけ乱れた髪を整えてくれた。
 
「伊達なんだろう、なんでそんな邪魔くさいもんつけるかねえ。」
「あ、えと…、や、特に意味はないんですけど、」
「そうなんか?まあ、若い奴のオシャレとかそういう奴だろ。」
 
 本当は、あなたの息子さんが眼鏡をかけていた女性とお付き合いをしていたからです。とは口が裂けても言えない。
 
「そういやサディンの元カノも眼鏡女子だったなあ。」
「元かの…、わ、かれたんですか…?」
「おう、気が合わねえってんで。」
 
 これサディンには言わねえでくれや。と続けたエルマーは、俺が出どころってバレたら怒られちまうわと笑う。相変わらず愛妻家なようで、ナナシに飯作ってやんなきゃいけねえから帰るわ、と去り際にミハエルの頭をポンポンと撫でて去っていった。
 
「わ、かれた…、」
 
 サディンが、通算45回目の破局をしたらしい。ミハエルが枕を涙で濡らした数と同じである。
 どうしよう、もし落ち込んでいたら、慰めても良いだろうか。そんなことよりも、そこに行き着くまでに、サディンがミハエルを相手にしてくれるだろうか。そんなことを悶々と考えながらも、組み立てられた予定には体がしっかりと反応する。足取りはやはり少しだけ早く、ダラスのいる研究棟に向かうのであった。
 途中、眼鏡を外すと胸ポケットに収める。ありえないだろうが、眼鏡を見たサディンが元カノを思い出したら、ちょっとやだなと思ったからである。
 
 
 
「ミハエル、遅いから暴漢にでも襲われたのかと思っていた。」
「こんな城内で暴漢なんて出るわけがないでしょう。」
 
 研究棟についたと同時に、いったいどこから監視しているのやら。ドアに手をかける前にダラスが扉を開けたので、ミハエルは驚きすぎて小さな悲鳴をあげてしまった。
 
「局長、過保護も行きすぎると嫌われますよ。」
「何が過保護だ。こんなものは違う。そうだろうミハエル。」
「いえ、僕には少し判断しかねますが…、まあ、母さんに比べたら違うかもしれません。」
 
 同僚である研究員の茶々に渋い顔をしたダラスが、ミハエルの言葉にさらに顔を渋くする。
 母であるルキーノに対するダラスの過保護と比べれば、部屋の前に探知魔法など可愛いものである。ミハエルの言葉に茶々を入れたロンという研究員がひとしきり笑うと、確かになあと頷いた。
 
「それで、今回は何を研究なさっているのです?」
 
 ダラスがミハエルを呼ぶときは、大抵違う視点からの意見を求めてる時であった。今回も男性の妊娠、出産についての術の改良に力を入れているというのは母から聞いていた。
 三日も帰ってこないダラスに呆れたルキーノが、ミハエルに託した着替えを白衣の内側の異空間収納から取り出すと、それをダラスに手渡した。
 
「母さんからの伝言です。良い加減シャワーを浴びに帰ってきなさい。だそうです。」
 
 ミハエルが伝えた伝言に反応してか、数人の研究員が体臭を気にする。ここはなんというか、一点集中型の変人の集まりだ。例にももれずその筆頭であるダラスが、清潔魔法はかけているなどと言い訳をする者だから、ミハエルは頭の痛い思いをした。
 
「一先ず、母さんにはご自身から伝えてください。で、本題は。」
「ああ、そうだった。これなんだが、お前ならどう考える。」
「これは、また随分と難解な…」
 
 ダラスが差し出してきたものは、腹に直接陣を刻まなくても良いように、オブラートのようなものに書かれた構築魔法陣であった。
 
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