こっち向いて、運命。-半神騎士と猪突猛進男子が幸せになるまでのお話-

だいきち

文字の大きさ
5 / 151

4

しおりを挟む
 がろがろとやかましい音を立てながら、ミハエルは台車を転がしていた。しくじった、こんなに煩い音を立てるやつだったとは。
 まるで自らの存在を主張するかのようである。恥ずかしそうに頬を染めながら、やや俯きがちでそそくさと台車を転がすミハエルは、その音も相まって注目されてしまっていた。
 回廊を抜けて、兵士の詰め所の前を通る。約束通り業者は積荷をおろしていて、ミハエルの姿を認めると帽子を外してお辞儀をした。

「おまたせしました、ああ、すみません…」
「いいや、いつもの方とは違うなあと思っていただけなので。こちらにサインを。」
「すみません、ペンをお借りしても?」
「構いません。」

 いつもは痩せぎすの、幽鬼みたいな職員の方が取りに来るんですよ。そう言って笑う業者に、肩をすくめる。居たたまれなくなったのだ。だって、それは多分父である。
 業者から借りたペンでサラサラとサインをすると、ようやく親子だとわかったらしい、こちらも気まずそうな顔になったので、苦笑いをして取り繕うしか出来なかった。

「やり取りは終わった?」
「ああ、サディンさん。」
「っ」

 真横の詰め所から、にゅっと顔を出してきたのはサディンであった。耳障りのいい声で唐突に恋い焦がれていた声を聞いたミハエルは、仰天をしすぎたらしい。台車に乗せようとしていた素材の入った木箱をガタン!と音を立てて落とすように置くと、そのまま勢い余って台車を押すようにして転んでしまった。

「おやまあ!細腕だから、やっぱ俺がやりますよ。」
「や、ほんと、あの、いいんで、ぼ、僕も男なんで。」

 地べたにすっ転んだミハエルは、まさか想い人の前でこんな無様を晒す羽目になるとはと、顔を真っ赤に染め上げる。固辞するミハエルにどうしようかと迷う業者をほったらかしにして、箱から溢れた耳をぽいぽいと入れていると、その箱の上にドスンと二段纏めて載せられた。

「うわっ!」
「あ、悪い。指挟んだ?」
「は、さみませんでした…」
「そ?」

 なら良かったと言ったサディンは、むんずとミハエルの腕を掴むとよいしょと立ち上がらせる。これが女性なら手を差し伸べるだけに留まるだろうに、男だからこうして少し乱暴に立たされる。
 それもまた良いかもしれないと思うほどに、この恋は重症であった。ミハエルは頬を染めたまま膝についた汚れを払うと、熱を持つ掴まれた二の腕の主張を、気にしないふりをして一礼をした。

「ありがとうございました、では。」
「まてって、」
「うわぁ!」

 まさか引き留められるとも思わない。ミハエルは処理しきれないものを落ち着かせるためにさっさとこの場から去りたかったのに、あろうことかサディンが手首なんか握ってくるものだから、もう驚きすぎて大きな声が出た。

「っ、ぅ」
「…そ、んなにびっくりした?」
「すみません…」

 ぺたりと片手で口を抑えると、今度は蚊の鳴くような声しか出ない。業者の男は助け舟は出してくれないらしい。帽子を少しだけ浮かせて挨拶をすると、それではまたと言って門の外へとむかっていってしまった。
 サディンの手は温かい。そんなところを掴まれていたら、この脈拍の速さがバレてしまいそうで嫌だった。

「さ、サディンくん、は、はな、はなし」
「いや、くんはやめてくれ。」
「え、や、やです」

 ミハエルの言葉に、サディンの眉が寄る。それを見上げたまま、緊張でわななく唇を隠すようにぺたりと片手で抑えると、離してくれという意味も含めてゆるゆると手を揺らしてみる。

「お前が君付けしなければ離してやってもいいけど。」
「お、お断りします」
「だからなんでだよ…」

 頭の痛そうな顔でサディンが溜め息を吐く。君付けはミハエルにとっては、緊張はありながらも親しみを込めた敬称なのである。だって、サディンの事を君付けで呼んでいるのなんて、自分以外いない気がする。だとしたら、ミハエルはやっぱり自分だけの呼び方として使いたかったのである。

「…まぁ、いいや。つかこんな重そうなもん、なんで一人で取りに来たんだよ。ダラスは?」
「僕が取りに行きたがったんです、」

 あなたに会えるかもしれないから、とは言わないが。

「ふぅん、鍛えてんの?」
「…め、メンタルを主に鍛えてます。」
「ゴブリンの耳で?変わってんな。」
「うぅ、」

 サディンは難しそうな顔をするミハエルの様子に不思議そうにすると、手伝おうかと聞いてくる。その申し出は非常に有り難かったのだが、いつまでも頼りないと思われたくはなかった。ミハエルだって男だ、好きな人には少しでもよく思われたい。
 白い白衣の膝部分を土で汚しておきながら今更何をと思うだろうが、ミハエルは挽回したかった。

「サディンくんはお仕事に戻って下さい!」
「いや、もう上がりだから終わりたいんだけど。」
「はぇ…あ、お、お疲れさまでした、それでは。」
「いやダラスに用事だから方向も同じなんだけど。」
「なら遠回りしてかえります!」
「いやだからなんでだよ。」

 なにをそんなに力んでるんだと呆れたような顔をして突っ込まれる。ミハエルの手に握られた台車を掴むと、サディンは埒が明かないから早く行くぞとがろがろと音を立てながら進み出す。
 だって、むりだろう!ミハエルは顔を赤くしたまま、なんとも言えない表情で追いかける。
 サディンはいいかも知れないけど、ミハエルは心の準備が追いつかない。だって、先日サディンに告白をして振られたばかりなのだから。




しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

悪役令息に転生した俺は推しの為に舞台から退場する

ユッキー
BL
前世の記憶を思い出したアレクシスは悪役令息に転生したことに気づく。このままでは推しである義弟ノアが世界を救った後も幸せになれない未来を迎えてしまう。それを回避する為に、俺は舞台から退場することを選んだ。全てを燃やし尽くす事で。 そんな俺の行動によってノアが俺に執着することになるとも知らずに。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

竜人息子の溺愛!

神谷レイン
BL
コールソン書店の店主レイ(三十七歳)は、十八歳になったばかりの育て子である超美形の竜人騎士であるルークに結婚を迫られていた。 勿論レイは必死に断るがルークは全然諦めてくれず……。 だが、そんな中で竜国から使者がやってくる。 そしてルークはある事実を知らされ、レイはそれに巻き込まれてしまうのだが……。 超美形竜人息子×自称おじさん

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

処理中です...