こっち向いて、運命。-半神騎士と猪突猛進男子が幸せになるまでのお話-

だいきち

文字の大きさ
24 / 151

23

しおりを挟む
「ミハエルに服従魔法?」

 あの後、庭先で訓練という名目の、もはや体罰と言っても過言ではないお仕置きをされたジキルとカルマが漸く出した本題に、エルマーはじゃがいもを口に運ぼうとしていた手を止めた。

「そー、先生んとこにたまたま俺らがいたから解けたけど、前に一回かけてるっぽい。二重がけにして発動するやつ。」
「うんま。なにこれ、なにはいってんのこれ」

 エルマーが作った、ただ鍋に打ち込んだだけの料理という一品は、隠し味にバターが入っているらしい。とろとろの玉ねぎにウインナーが実に合う。
 カルマは口を動かしながら、説明を全部自分に任せるジキルの頭をひったたくと、芋のかけらが鼻に入ったらしい、盛大に噎せていた。

「服従魔法の二重がけ…なにそれすごい面倒くさいことするんだね。」
「物品に触れたらかかるようになってた。まあ呪いみたいなかんじだったなあ。」

 ウィルが顔を顰める。ミハエルとは仲が良いし、家族ぐるみの付き合いだ。あのおっとりとした青年が人の悪意に気づかないのは今に始まったことではないが、それにしても悪戯では済まされない。

「あのさ、それで茶髪にジキルと同じ位の背丈の騎士、エルマーさんとこにいない?」
「ざっくりすぎるだろぉ。まあ名前も言われてもわかんねえけど。」
「あんたもざっくりすぎるなぁ!」
「拗らせた恋心ってやつじゃねえの?」
「だとしたら騎士の風上にも置けねーだろ。それにもしあんたんとこの騎士なら、監督不行き届きでボスにつっつかれるぜ。」

 面倒くさそうな顔をしたエルマーが、ジキルの一言にピクリと反応する。ナナシもウィルも、うちでジルバのワードはNGだと言うのをすっかり忘れていた。

「ボスボスってよぉ、猿山の大将気取りかってんだバカヤロー」
「おいカルマ、こいつ俺らのこと猿って言ったぞ。」
「大体何が蜘蛛の巣だああ!!節足野郎はてめえだけだろうがぁ!」
「あー、そこ付いちゃったかぁ…」

 喚くエルマーを、ウィルが嗜める。握りしめていたパンはギンイロがしっかりと口に加えて胃袋に避難させていた。

「もしそんなバカ野郎がサディンの騎士団にいたんならとっちめてやる。主に私情で。」
「私情とかいっちゃうあたり全然かっこよくねぇ。」

 でもそっちも大切だけど事件もあるじゃんとカルマが続けると、ウィルが首を傾げた。しまった、言わないほうが良かったかもしれない。カルマはぺたりと口を抑えたが、時すでに遅し。エルマーの腕に手を添えたナナシが、金色のまあるいおめめで顔を逸らす旦那を見上げた。

「える、また危ないことするのう。」
「しませんけど!」
「ふうん、ナナシには言えないことするんだ。」
「し、ませんけど…」

 珍しい、あの不遜で暴虐無人でサドを地で行くようなエルマーさんが押し負けている。エルマーの肩に顎を載せ、腕に抱きついてじっと見つめてくる嫁に、エルマーの喉から変な声が漏れる。やめろ、やめなさいって。そんな心の声が聞こえてくるくらい、目の前の赤髪の美丈夫の顔色は悪くなる。

「父さん、任務で危ないことするときはおかーさんに言うっていったもんね。まさか内緒になんかしないもんね?」
「ウィルもこう言ってる、えるぅ?」
「しゅ、守秘義務!!」
「またナナシの知らない言葉言う!」

 なんだ、俺たちは一体目の前で何を見せられているのだと思うくらいには、羨ましい光景であった。
 エルマーは腕にしがみつかれるようにして、ふんすとむくれている嫁からの圧力に負けかけている。
 そういえば、任務の内容で危険を帯びる場合は嫁に話していると言っていたか。
 ウィルも唇を突き出してむくれたかと思うと、どうやら無駄だと感じたらしい。ちらりとジキルがウィルの瞳に捉えられた。嫌な予感がする。

「ジキルくん、ウィルに教えてくれたらいいことしてあげる。」

 エルマー譲りの見事なハニトラは、どうやらウィルも受け継いでいたらしい。細い手指がそっと無骨な指に絡まった。親指で指の付け根を撫でるオプション付だ。ジキルはひくりと口端を引くつかせると、慌ててカルマを見た。

「どどどど、どうしよう!?!?」
「俺今蚊帳の外だから話ふっかけんの辞めてくんない。」
「うらぎりもっ、ひぇ…」

 そっとウィルの手がジキルの頬に添えられたかと思うと、ぐいっと顔を引き戻された。ウィルの白磁の肌に、少し赤らんだ唇が目に毒だ。ゆっくりと頬を撫でられる。

「僕がジキルに話しかけてるんだけっ、いたい!」
「何やってんだやめろ。」

 パコンといい音がしたと思うと、ジキルの頬からウィルの手が離れた。危うく口にするところだったと慌てて体を話して見上げれば、握り拳をつくったサディンがウィルの頭を叩いたのだろう。呆れたような目で見下ろしていた。

「サディン、おかえりなさい。」
「ただいま母さん、んで、なんでお前らがいるわけ。」
「お呼ばれしまして…」

 エルマーにくっついたままぱたぱたと尾を振る母の頭をわしゃりと撫でると、頭を抑えて机に突っ伏すウィルを無視して二人を見る。か細い声が机から漏れているので、余程痛かったらしい。

「はあ…、まあなんだっていいけどさ…」
「父さんが任務隠すからサディンに叩かれたじゃーん!!」
「うわびっくりした。」

 おでこを赤くしたウィルが、ガバリと起き上がる。ひしりとナナシに抱きついてむすくれる息子に、おやおやと慣れた手付きで治癒を施す。どうやらこのやりとりは日常茶飯事らしい、エルマーはしっぶい顔をしながらサディンを見ると、溜息で答えられた。

「父さん、言う決まりにしたのは自分なんだから、守らないと。」
「だってよぉ、言いづらくね?娼館だなんて。」
「言ってる言ってる、エルマーさんそれ言ったならあとも言えるって。」

 嫁の大きなお耳が拾った娼館という言葉に、キョトンとしていた顔がみるみるうちにしょぼくれ始める。へニョンと耳を垂らして無言で落ち込むナナシに、ジキルもカルマもこの姿が見たくなかったのかと納得するくらいには、大人しく落ち込んでしまった。
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

悪役令息に転生した俺は推しの為に舞台から退場する

ユッキー
BL
前世の記憶を思い出したアレクシスは悪役令息に転生したことに気づく。このままでは推しである義弟ノアが世界を救った後も幸せになれない未来を迎えてしまう。それを回避する為に、俺は舞台から退場することを選んだ。全てを燃やし尽くす事で。 そんな俺の行動によってノアが俺に執着することになるとも知らずに。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

竜人息子の溺愛!

神谷レイン
BL
コールソン書店の店主レイ(三十七歳)は、十八歳になったばかりの育て子である超美形の竜人騎士であるルークに結婚を迫られていた。 勿論レイは必死に断るがルークは全然諦めてくれず……。 だが、そんな中で竜国から使者がやってくる。 そしてルークはある事実を知らされ、レイはそれに巻き込まれてしまうのだが……。 超美形竜人息子×自称おじさん

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

逃げる銀狐に追う白竜~いいなずけ竜のアレがあんなに大きいなんて聞いてません!~

結城星乃
BL
【執着年下攻め🐲×逃げる年上受け🦊】  愚者の森に住む銀狐の一族には、ある掟がある。 ──群れの長となる者は必ず真竜を娶って子を成し、真竜の加護を得ること──  長となる証である紋様を持って生まれてきた皓(こう)は、成竜となった番(つがい)の真竜と、婚儀の相談の為に顔合わせをすることになった。  番の真竜とは、幼竜の時に幾度か会っている。丸い目が綺羅綺羅していて、とても愛らしい白竜だった。この子が将来自分のお嫁さんになるんだと、胸が高鳴ったことを思い出す。  どんな美人になっているんだろう。  だが相談の場に現れたのは、冷たい灰銀の目した、自分よりも体格の良い雄竜で……。  ──あ、これ、俺が……抱かれる方だ。  ──あんな体格いいやつのあれ、挿入したら絶対壊れる!  ──ごめんみんな、俺逃げる!  逃げる銀狐の行く末は……。  そして逃げる銀狐に竜は……。  白竜×銀狐の和風系異世界ファンタジー。

処理中です...