こっち向いて、運命。-半神騎士と猪突猛進男子が幸せになるまでのお話-

だいきち

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 医術局の資料庫は、手入れが行き届いてない訳ではないが、中々に本やら書類やらが乱雑に積み上がっていた。大きな事件の解剖を任されたりすると、タイトな時間で資料などをかき集めたりするので、検視を終えた後の資料庫はよくこんな状況になりがちらしい。

「だからってすげえ散らかってんね。」
「はは、過去に似たような事案がないかというのも、一応確認をして書類を書かねばなりませんから…。」
「ふうん、てかミハエルも解剖できんの?」
「一応慣れさせるためと言われて立ち会ってきましたから、できなくは無いです。」

 よかった、普通に話せている。ミハエルは散らかった資料を一纏めにして端に寄せると、一番新しい背表紙のそれを手に取った。

「ああ、これですね。日付もあってる。」
「それ俺が読んでもいいやつ?」
「構いません、でも先にお父さんのところに向かいましょう。」
「なら地下だな、多分それ見越して先に安置室いってるだろ。」

 サディンの言葉にちいさく頷くと、ミハエルは資料を片手に医術局の棚から、今までの妊娠薬の研究について書かれている資料も手に取った。何重にも書けられている術は、必要な手順を踏まねばならない。
 サディンにもそのややこしい術を纏った資料であることがわかるのか、渋い顔をしていた。

「すごい厳重だな。これ、解き方間違ったらどうなるの?」
「この膨大な資料庫の本たちのどれかに内容ごと差替えられます。」
「つまり?」
「手作業で一つ一つ確認をして見つけた後、術を解いて、また新たにかけ直す必要があります。」

 ちなみに、四年前に転移が起こったときは、スタッフ総出で探して一月半かかりました。と、遠い目をして語るミハエルに、サディンは想像しただけでもゾッとした。だから医術局の結束力は強いのかとも思う。
 サディンはミハエルの腕に抱かれた資料を横から攫うと、医術局の扉を開けて出るように促した。先程とは真逆である。キョトンとしていたミハエルが、意味を理解すると頬を染めながら困ったような顔をした。

「なんで僕よりもスマートにしてしまうんですか。」
「ま、経験値の差かな。」

 恨めしそうにみやるミハエルの視線に満足する。サディンはミハエルの自分を見る目が好きだった。からかいがいがあるし、そして儚げな見た目に対して結構我が強い。
 ミハエルが己の横を少しだけ速歩きで通り抜けるのを見送って扉を閉める。赤くなった耳が、素直な髪の隙間から見え隠れするのを見て、そっと頭を撫でようとしてやめた。また気を持たせるようなことをして、不本意に振り回すのは嫌だったのだ。

「早く行きましょう、」
「ああ、そうだな。」

 行きと違って、今度はサディンがついていく。後ろから見て気づいたことは、ミハエルは俯きがちに歩くから鈍臭いのだろうなあと言うことだ。しかし、サディンは知らない。後ろからついてくる想い人の視線が気になって、余計に身を縮ませていたということを。




 安置室は、位置的に言えば医術局と研究室からも行きやすい城の地下にあった。そして、ここは安置室と言っても2つに分かれており、1つは研究室の管理する魔物の死骸などのサンプルを保管しておく場所。そして通路を隔てて向かいにあるのが、市井で見つかった変死体などを調べる為の部屋である。
 ミハエルとダラス、そしてルキーノしかそこの鍵は持っていない。この中に入るには、必ずこの三人のうちの一人を随伴させねばならないのである。
 
「薄ら寒いな、ここは。」
「防腐術は掛けてますが、保存状態を維持するためにここの温度は下げているんです。」

 手前の部屋で、術衣を身に纏う。ミハエルに言われてサディンにも同じものが渡されたが、着替えるために一緒に入ろうとしたら、何故かミハエルが大慌てで出ていった。生娘のような反応をされて些か驚いたが、好意を知っている分、まあそんなものかと無理やり納得した。

「とはいっても、まるで俺を女のように扱うのだけは解せないんだよなあ。」

 サディンくん脱ぐなら僕が出てからにして!!と、珍しく敬語を忘れるほど慌てたらしい。顔を真っ赤にしながら部屋を飛び出していったが、むしろそれはお前じゃないかと思った。
 服を脱ぐ。いちいち衛生のことを考えて、こんな面倒くさい事をしなくてはならないとは。まあ、理由はわかるがサディンは汚れたら洗えば精神なので、不承不承でその体を晒した。
 エルマーと同じ背丈になったサディンは、龍の血を引くせいか、実に美しい体をしていた。彫刻のようになめらかな肌質に、割れた腹筋もきめ細やかな素肌で覆われている。肌はナナシに似て白い。日に焼けても赤くもならず、多少傷ついたとしても跡形もなく消えてしまう。
 ウィルもそうだが、セフィーが言うには雄型の龍の特徴を持つと言われた。そりゃあ雄だからといったのだが、母親は雄ではあるが、たしかに女性的な美しさを持つ。顕現するときの角の太さでわかると言われたが、邪魔くさくていちいち出していられない。

 着替えを終え、マスクをすると髪を一つにまとめた。父を真似て伸ばして入るが、それは口にしたことはない。

「サディンくん、いいですか?」
「ああ、いいぞ。って、お前はどこで着替えたんだ。」

 扉を開けて、準備万端なミハエルをみて面食らう。キョトンとした顔をした後、ここで着替えましたと平然と言ってのける。むしろ自分のほうがどこでだって着替えれる自信があるのになあと思いながら、いつ扉が開くかも分からないここで着替えたミハエルに頭の痛い思いをした。

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