こっち向いて、運命。-半神騎士と猪突猛進男子が幸せになるまでのお話-

だいきち

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「サディン団長、」
「ジキルか。」
 
 サディンが足を運んでいた西門で、当該騎士への聞き込みを終えたところに飛び降りて来たのはジキルであった。
 時刻は夕刻、歓楽街はそろそろ賑わいを見せる頃だった。
 
「人目を気にしないのは相変わらずか。」
「人なんか見てねえよ。俺は俺の鼻を信頼してっからな。」
 
 元の茶髪に赤目の男らしい姿に戻ったジキルは、ニヤリと笑う。悪人面は持って生まれたものである。サディンは小さく笑うと、そっと後ろを振り向いた。
 
「んで、どうだった。その騎士さんてえやつは。」
「やはり見た目じゃなんの属性持ちだかはわからないな。だけど、まあ注意はしておいた方がいいかもしれない。」
「ほう、」
 
 騎士は、サディンから男娼の話が出た時に、ひどく疲れたような顔をしていった。まさかこんなことになるなんて、と。一見、なんのおかしさもない、ただ己に降りかかった出来事を淡々と語っているだけだったという。
 だけど、サディンは小さな違和感を感じたのだ。
 
「あの事件から、もう随分経ってから調査しにきたってのに、彼は怒りもしなかった。」
 
 普通は、なんで今更や、もう話は終わったから、と突き返すだろうと思ったのだ。ましてや、自分が最後に関わったのだ。ストレスからどこかしら精神を病んでいても仕方がないと思っていた。
 
「まるで、用意していたセリフを言っていたかのように聞こえた。まあ、俺の思い込みに過ぎないかもしれないんだけどさ。」
「いや、違和感は大切にするべきだ。」
「まあ、気には止めとくくらいにするよ。んで、ジキルはなんで俺を探しに?」
 
 そろそろ今日は帰るつもりだったんだけど。そう続けたサディンに、ジキルは深呼吸をして心を落ち着かせた。普段温厚なサディンだ。怒ると怖い。それに、多分今から言うことは、おそらく雷が落ちるだろうことだった。
 
「ワンクッション入れておくけどな、俺は止めた。あとカルマも。」
 
 サディンと距離を取るように、己の掌を顔の前に出した。まだ誰がやらかしたとか一言も言っていないのに、サディンの顔色に怒気が含まれた。やばい、これ俺が一人で答えなきゃいけないの。泣きそうなんですけど。ジキルはしまい忘れた尾を股ぐらに挟みそうになるのをなんとか堪える。
 
「…取捨選択をする限りじゃ、シスが勝手に動いたか。」
「え、待ってそれだけで察しちゃうの怖いんですけ、」
「場所はどこ、カルマがついてんならいいけど、あまり勝手をすると俺の予定が狂うんだよなあ。」
「大通り!西門バックにまっすぐ行ったあたり!」
「ああ、くそまだミハエルにも話してねえってのに!」
 
 治安の悪い口調でそう言い捨てると、サディンは一気に駆け出した。シスの馬鹿野郎。普通の段取りから考えて、まずはお前ごとミハエルに紹介してからだろう!悪態を吐きたいのに本人がいなくては吐き出せるものも何もない。大方、先に潜入して親玉を釣り上げるとかそういう浅はかな考えからの行動だろう。潜入が成功して、ミハエルも続いたとしても、お前はマジの男娼だと思われているのだから、焼け石に水が過ぎるだろう。
 
 なんでみんな勝手に動くのだ!サディンの怒りは、脚部に施された強化術にあらわれる。追いかけてきたジキルのの前で一気に跳躍した姿を見て、なんで俺よりも身体能力優れてるんだろうこの人と、人狼としての自信を危うく失いかけるところであった。
 
 
 
 
「ん、…ふは、」
「笑ったりして、ったく、んとに調子いいよなあー。」
 
 夕闇が迫る歓楽街近く。早速男娼として街に繰り出したシスが、周りの目を奪わせたのちに、予定通りにカルマと落ち合った。
 
「仕事だけど、僕そっちの方が好きだなあ。」
 
 まるで睦言をささやくかのように、シスは人前でカルマの首に腕を回すと、そっと店の壁を背にもたれかかった。
 
「うるさいよ、ったく、俺視姦される趣味はないからね。」
「人よせだよ、給料分はしっかり働けよコウモリくん。」
「っ、お前ねえ…」
 
 カルマの整った顔が晒されていた。長く重そうな前髪は全て後ろに撫でつけられ、その薄い灰色の瞳が晒されていた。まるで夜会から抜け出してきたかのような上等な服を着て、人の眼からシスを隠すように腰に腕を回して抱き込んだ。
 
 華奢なシスの腕が、そっとカルマの背に回される。美しい男にみそめられた、美貌の男娼。お前らなんか相手にしないと言わんばかりにゆったりと客待ちをしていたシスを回収する役目を担ったカルマは、その首筋に顔を埋めた。
 
「マジで歯ァ立てたら殺すからね。」
「本能のままに行っちゃっても仕方なくない?」
「お前がイくのはこっちだけでいいんだよ。」
「うわっ、…お前、…人目のないところ行こうか。ギャラリーが集まってきた。」
 
 シスに股座をがしりと握り込まれて思わず声が漏れたが、どうやらそれが良かったらしい。男娼の戯れに反応した順番待ちの哀れなバカどもを煽るようにシスがカルマの太腿を艶かしい足を絡ませ同意をすると、まるで本物かと思うほど甘やかな声で言った。
 
「旦那様、ユリは二人きりになりたいですわ。どうか野暮な視線からこの身を連れ去ってくださいな。」
「ああ、行こうか。ここは視線が騒がしい。」
 
 冷たい灰色の瞳で群衆を一瞥する。カルマはその細い体を優しく抱き上げると、そっと暗い路地の方に歩みを進めた。シスの瞳に魔力が宿る。まるで後をつけるかのように、そっと一人の男が気配を消したのに気がついたのだ。認識阻害をしてまで値踏みとは恐れ入る、シスは仕事熱心なその男の存在を囁くようにカルマに告げると、ひどく嫌そうに顔を歪めた。
 
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