こっち向いて、運命。-半神騎士と猪突猛進男子が幸せになるまでのお話-

だいきち

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 ふわりと風を感じて、ゆっくりと瞼を開く。サディンの力強い腕に抱きしめられたまま、ミハエルがもぞりと身じろぎすると、頭上からサディンの酷く不機嫌な声が落ちてきた。
 
「お前ら、なんでここにいる。」
「へ、」
 
 お前ら?と聞いて、ミハエルが顔を向ける。そこには真っ青な顔をした蜘蛛の巣三人組が、勝手知ったる様子でサディンの部屋でくつろいでいる姿だった。
 腕の中のミハエルを見て、シスが目を丸くする。アワアワしているジキルとカルマが止める前に、びゃっという勢いでミハエルに駆け寄った。その端正な顔でミハエルを覗き込んだかと思うと、ついにはブワッと泣き出した。
 
「し、死んじゃうかと思ったあああああ!!うわああ、ごめんねえええええ!!!」
「っ、うるさい!お前らもうどっか行け!散れ!」
「だ、だんちょーなんでせんせーと一緒に、はっ、ま、まさかっ…!」
「ち、違うぞ!別に腹いせで団長のとこで飲んでたわけじゃねえからな!」
 
 三者三様、腕の中のミハエルには到底理解できない何かを抱えているらしい。思いの丈を存分に吐き出すかのように振る舞う様子に、サディンは頭を抱えた。まったく、なんでこいつらはここぞという時ばかり邪魔をしてくるのだ。ジキルが持っているサディン秘蔵の酒をぶんどると、どん!と音を立てて机に置くことで喧しさを黙らせる。ミハエルは顔を熱で染めたままキョトンとすると、サディンが不遜な顔で宣った。
 
「ミハエルは俺の部屋で療養させる。熱があるんだ、お前らはさっさと去れ。俺は今日は仕事に行かない。始末は父さんが出るから安心しろ。」
「サディン、お前子犬ちゃんに風邪薬飲ませろよ!?絶対何が何でも看病しろよ!エルマーさんへの引き継ぎは済んでんだろうな、まじで済んでなかったら地獄見るの俺たちなんだからな!!」
「わかったわかった、済ましておく、ほら帰れ、さっさと自室で酒盛りしろ。始業までには酔いを覚ませよ。」
「せ、せんせー!団長にえっちなことされたら叫ぶんだよ!!嫌なことは嫌って言うんだよおお!!」
「うるせえ寝ろって言ってんだろ。」
 
 いぎゃあ!サディンの蹴り出しによって、三人まとめて部屋から叩き出される始末。ミハエルは訳がわからないながらも、ゆるゆると手を振ると、団子状態になった三人を見下ろして、サディンが言った。
 
「邪魔したら殺す。」
「アッハイ。」
 
 まじでやばいやつじゃん。三人組は本気の顔で宣うサディンに、ぶわりと冷や汗をかく。ミハエルが熱を召しているのは見てもわかる。だからきっとそんなに無理はさせないだろうが、きっと、あの幼気な先生は食われてしまうのだろうと思った。
 パタンとしまった扉。存外優しい音を立てて閉じたのが逆に怖い。ようやく自分の気持ちを自覚した途端にフルスロットルかよ。シスがそうぼやいた瞬間。先程まで目の前にあった団長の部屋の扉が、廊下の壁と一体化した。高度な認識阻害と擬態の合わせ技だ。これにはジキルもカルマも、目の前で見ていたシスでさえも引き攣り笑みを浮かべるしかなかった。
 
「よ、余裕なさすぎっしょ…。」
「触らぬ神に祟りなし。あーあ、当分医務室は鄙びたジジイが担当かあ…」
 
 扉の向こう側で三人の気配が完全に消えた。サディンは小さくため息を吐くと、ぽすんと背中にミハエルの額が当たった。ゆっくりと腹に腕が回る。宥めるようにその手の甲を撫でてやると、ミハエルに向き直った。
 扉を背にして、自分よりも下にあるミハエルの額を晒すようにして髪を撫であげる。そっと額を重ねて熱を確かめると、口づけを期待したらしい、緊張した面持ちで小さく肩を揺らして目を瞑る。
 
「お前を抱く前に、まずは薬だな。」
「飲まなくても、平気です。」
「だめだ、常備薬出せよ。水汲んでくるから。」
「わ、」
 
 ひょいと抱き上げられ、ベットに下ろされた。サディンが簡易キッチンに消えていくのを見送ると、ミハエルは未だふわふわとした面持ちのまま、手のひらの上にポトリとピルケースを落とした。忘れ物が多すぎるからと、サリエルから教わった異空間収納は実に便利である。ミハエルはまだ下手くそなので手のひらに収まるものくらいしか出せないが、それでも重宝していた。
 白衣のポケットから転移させたピルケースの中から、ぼんやりとしたまま蓋を開けようとして、かしかしと弄る。力が入らないせいで、うまくできない。そんなことをしてれば、ひょいとサディンがそれを摘み上げた。
 
「どれ飲むの。」
「薄青の…、カプセルのやつです…」
「ん、二つあるけど…これか?」
「多分、どっちも風邪薬なんで…」
 
 ミハエルが開けられなかったそれを簡単に開けると、言われた通りのそれをとりだす。ミハエルお手製の熱さましは、一粒だけで大いに効果を発揮する。サディンがそれを摘んで口元に寄せれば、素直にカパリと口を開けた。艶めく赤い舌が目に毒だ。差し出した水で流し込むと、ひと心地着いたらしい、ほう…と吐息を漏らす。
 
「落ち着いた…?」
「ん、はい…、」
 
 隣に腰掛ける。そっと頬を撫でられて、ミハエルはその手に甘えるかのように擦り寄った。サディンが小さく笑う。ミハエルはゆるゆると見上げると、気になっていたことを口にした。
 
「あの…」
「うん?」
「…療養、だけ…ですか、」
「ぐ、…ッ」
「……?」
 
 キョトリと見上げた。本当に、療養だけ?頬を染めながら、期待まじりにサディンを見上げるミハエルの様子に、これって試されているのだろうかと思った。
 照れたらしい、小さく俯いて、素直な髪がサラリと流れる。小ぶりながら形のいい耳がちょこんと見えて、その色がじんわりと染まっていく。肌が白いから、赤いのがよくわかる。サディンはそっとその体に腕を回して抱き上げると、自分の膝の上に乗せた。
 
「抱かせて、」
「…はい、」
 
 そっと奪うかのように、柔らかな唇に吸い付いた。小さな水音を立てて唇が離れると、ミハエルはその瞳を潤ませながら、小さく頷いて、その背中に腕を回した。
 
 
 
 
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