こっち向いて、運命。-半神騎士と猪突猛進男子が幸せになるまでのお話-

だいきち

文字の大きさ
64 / 151

63

しおりを挟む
「っ、…あ、」
「ミハエル、」
「ン、…ゅ、ふ…ぁ、…っ…」
 
 苦しい、苦しくて甘い。ミハエルは知らなかった。だって、初めてだったのだ。好きな人とのキスは、心臓がバカみたいにやかましく主張して、全身の血流がぐるりと巡って、飲み込みきれない唾液が甘いのも、吐息の交換がこんなに嬉しいのも、初めて聞くサディンの掠れた声も、全部全部自分のためにあるのだと思うと、苦しくて、それが幸せで、ただただ感情が追いつかない。一度じゃない、二度、三度、サディンは何度もミハエルに口付けをくれるのだ。頭がぼんやりして、ぬるりと味蕾を擦り合わせるようなやらしいキスに腰が震える。
 こんなこと、誰からも教えてもらわなかった。本で読んだことがあるけれど、それよりもすごい。大人って、こんなにすごいキスをするのだと思った。
 
「っふ、ぅぁ…、」
 
 ゆっくりと、激しい口付けから解放される。名残惜しげにちろりと出してしまった舌先に、サディンが甘く吸い付いて、喰む。それだけで、ミハエルはじんわりと恥ずかしいところを濡らしてしまう。
 少しだけカサついたサディンの親指が、優しくミハエルの口端の唾液を拭う。顔が熱い。部屋の空気が冷たく感じるほど、ミハエルの体温は上がってしまっていた。上下し、呼吸を整えるミハエルの胸元を、サディンがそっと撫でた。こつりと額が重なって、鼻先が触れ合う。角度を変えて、もう一度口付けた。嬉しい、嬉しくて、死んでしまいそう。じんわりと睫毛を濡らすミハエルの小さな顔を包み込むように、サディンが両手で頬を包み込む。
 
「ミハエル、お前だけは…」
「っ、ぅ…?」
「お前だけは、…俺の聖域でいて欲しかった。」
「ふぁ、…」
 
 くちゅ、と音を立てて、サディンの親指がミハエルの舌を撫でる。開かされた口に、サディンの舌が見せつけるように入り込むと、上顎を舐められてブルリと震えた。
 
「気づきたくなかった、俺は、…お前にとって、いい大人でいたかった…、」
「ぁ、ンく…っ、」
「汚したくなかった、お前の、お前の純粋な気持ちを、俺なんかで汚したくないって、」
 
 サディンは、ずっと思っていた。幼い頃から、己へと向けてくれたミハエルの純粋な気持ち。それはサディンにとって、とても眩しいものだった。大人になるにつれて、サディンは沢山汚いものを見て、汚い大人たちと触れ合って、その手を血で染めたりもした。職業柄、仕方のないことだってわかっている。無論、サディンだって繊細なわけではない、職務となれば平気でその容姿を活用したし、女や男も抱いてきた。処世術とまでは言わないが、それで優位にことを運べるなら、その身を差し出すのだって厭わなかった。
 サディンは、己の目の届く範囲の人を守れればそれでいい。己の狭い世界の中で、ただ淡々とした日々を過ごせれば、それでよかったのに。
 
「お前は、綺麗だよ。真っ直ぐで、俺にはないものを持ってる。」
「ン…ンぅ、ふ、」
「俺の中をいっつも乱して、好きだ好きだって、歳考えてくれよ、本当に…もう、」
「ふぁ、」
 
 ぬるりと指が抜けて、サディンの顔がゆるゆると下がる。まるで縋るかのようにミハエルの胸元に顔を埋める様子に、自分の心臓の音がバレてしまうんじゃないかと思った。
 
「サディン、くん」
「…、」
 
 ぎゅう、サディンの腕がミハエルの背中に回る。胸が少しだけ反って、その顔が見えづらい。ミハエルはそろそろと起き上がると、サディンの頭はずるりと下がって、その細い腰に抱きつく形になった。下腹部に顔を埋められたまま、ミハエルはトクトクとなる心臓の音が、自分だけじゃないとわかった。
 
「俺は、お前にとってのヒーローでいたかった。」
「…、」
「なんの駆け引きもなくさ、お前だけが素直に気持ちをぶつけてくるから、お前の中の俺って一体どんなやつなんだろうって。」
 
 そう考えたら、サディンのなりたかった大人は、かっこいい大人は、ミハエルの中にいるんだと思った。
 
「サディンくん…あの、」
「俺、自分の弟よりも年下の男に、何させてんだろうな。」
「へ、」
「守ってやれなくて、ごめんな。」
 
 ミハエルの薄いお腹に顔を埋めた、サディンの震えた声が聞こえる。泣いているのだろうか。お腹の生地はじんわりと暖かくて、ミハエルはサディンを腰に抱き付かせたまま、優しくその髪を撫でる。
 
「僕は、あなたの隣に立ちたかった。」
「やめろよ、眩しすぎんだろ。」
「サディンくんは僕のお日様ですよ、それくらい光ってなきゃ、負けてしまいます。」
「…年上をたてろよ。」
「やです、僕の気持ちを無碍にしまくった年上なんか、これ以上どうやっても立てられません。」
「……。」
 
 ミハエルの言葉に、サディンの声がグッと詰まった。自業自得だ。サディンにとっての聖域のままでいてほしいからと、自分勝手に遠のけた。ミハエルの手指が優しく髪を梳く。それが心地よくて、ぐる、と喉がなってしまった。
 
「いつまでも、温室育ちとは思われたくないんです。」
「…ミハエル。」
「あなたが僕を勝手に聖域にしたんです。責任をとってください。」
「ミハエル、だめだ。」
 
 サディンがその言葉の続きを言わせまいと顔を上げた瞬間、ミハエルは言った。
 
「抱いてください。」
「…、お前」
 
 ミハエルは綺麗に微笑んでいた。泣き顔で、これが今生の願いだと言わんばかりにそう言った。キラキラとした早朝の光に照らされて、サディンがずっと恐れていたことを、容易く言ってしまう。
 
「…、お前は」
「僕の初めては…っ、あ、あなた、が、…っ、」
 
 語尾が震えて、ミハエルの大きな目から、一つ、二つと涙が溢れる。涙腺がバカになってしまったらしい、慌ててそれを手で受け止めようとする姿が痛くて、サディンは胸が引き千切られそうになってしまった。
 
「一度、だけだ。」
「っ、ぁい…、」
「そん代わり、死ぬほど優しくする。」
「はい、…っ…」
 
 ヒック、と嗚咽を漏らしながら、ミハエルが俯く。サディンはそっと立ち上がると、両腕をひろげた。ミハエルが意味を理解して、自分から腕の中にそっと身を寄せると、駆け上がってくる喧しいダラスであろう足音を聞きながら、己の兵舎の私室へとミハエルごと転移した。
 
 
 
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

悪役令息に転生した俺は推しの為に舞台から退場する

ユッキー
BL
前世の記憶を思い出したアレクシスは悪役令息に転生したことに気づく。このままでは推しである義弟ノアが世界を救った後も幸せになれない未来を迎えてしまう。それを回避する為に、俺は舞台から退場することを選んだ。全てを燃やし尽くす事で。 そんな俺の行動によってノアが俺に執着することになるとも知らずに。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

竜人息子の溺愛!

神谷レイン
BL
コールソン書店の店主レイ(三十七歳)は、十八歳になったばかりの育て子である超美形の竜人騎士であるルークに結婚を迫られていた。 勿論レイは必死に断るがルークは全然諦めてくれず……。 だが、そんな中で竜国から使者がやってくる。 そしてルークはある事実を知らされ、レイはそれに巻き込まれてしまうのだが……。 超美形竜人息子×自称おじさん

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

中年冒険者、年下美青年騎士に番認定されたことで全てを告白するはめになったこと

mayo
BL
王宮騎士(24)×Cランク冒険者(36) 低ランク冒険者であるカイは18年前この世界にやって来た異邦人だ。 諸々あって、現在は雑用専門冒険者として貧乏ながら穏やかな生活を送っている。 冒険者ランクがDからCにあがり、隣国の公女様が街にやってきた日、突然現れた美青年騎士に声をかけられて、攫われた。 その後、カイを〝番〟だと主張する美青年騎士のせいで今まで何をしていたのかを文官の前で語ることを強要される。 語らなければ罪に問われると言われ、カイは渋々語ることにしたのだった、生まれてから36年間の出来事を。

逃げる銀狐に追う白竜~いいなずけ竜のアレがあんなに大きいなんて聞いてません!~

結城星乃
BL
【執着年下攻め🐲×逃げる年上受け🦊】  愚者の森に住む銀狐の一族には、ある掟がある。 ──群れの長となる者は必ず真竜を娶って子を成し、真竜の加護を得ること──  長となる証である紋様を持って生まれてきた皓(こう)は、成竜となった番(つがい)の真竜と、婚儀の相談の為に顔合わせをすることになった。  番の真竜とは、幼竜の時に幾度か会っている。丸い目が綺羅綺羅していて、とても愛らしい白竜だった。この子が将来自分のお嫁さんになるんだと、胸が高鳴ったことを思い出す。  どんな美人になっているんだろう。  だが相談の場に現れたのは、冷たい灰銀の目した、自分よりも体格の良い雄竜で……。  ──あ、これ、俺が……抱かれる方だ。  ──あんな体格いいやつのあれ、挿入したら絶対壊れる!  ──ごめんみんな、俺逃げる!  逃げる銀狐の行く末は……。  そして逃げる銀狐に竜は……。  白竜×銀狐の和風系異世界ファンタジー。

処理中です...