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「え、いや…特に他に協力者がいたとか、そんな感じはなかったと思いますけど。」
あれから、頃合いもそろそろだし昼飯でも食いに行くかと、シスとサディンにミハエルを加えて食堂に来ていた。そこで聞いたのは先程話題に上がった例の騎士のことだった。
「ヨナハンさんは、そうですね…とくにお友達はいなかったと思いますが…」
「子犬ちゃん、お友達じゃなくて仲間ね、仲間。でもさ、なんかへんなとことかなかった?なんでもいいんだよ、気になるなあってなったとことか。」
「そうですねえ…」
もむもむと両手にもったバケットをはむりと食べる。サディンが頼んでいたのを見て、自分も同じものを食べたいなあと思ったのだ。はみ出たサーモンを落とさないように慎重にパンの中に押し戻すと、ぺしょりと、手についたソースを舐める。
「あ。」
「なんだ、なんか見つかったか?」
「いや、ええと…あの時、夜会というか、宴って聞いてたんです。」
「ああ、それなら僕も聞いた。」
「…なので、もっと大人数かなあって思ってたんですよ。あと、ヨナハンさんも一番キラキラした人を探せっておっしゃいましたし。」
でも、実際は蓋を開けてみれば二人だった。数十人程度なら入りそうなホールに、二人だけ。ミハエルはそれも不思議だった。ヨナハンが送ってくれたのだ。だとしたらきっと、規模も把握していてもおかしくは無い。それなのに、実際はミハエルも入れると3人だけの夜会だ。まあ、内容は非常に濃いものになってしまったが。
「規模を間違えることとか、あんの?」
「末端なら情報は伝わってないんだろう。だけど、少し気になるな。」
「スミレの時は少人数だったって聞いてるよ。あのマイアとかいう変態貴族がハニトラしたらしいし。」
ナーガが繁殖できるように、自らが餌として男娼を釣った。言い方は悪いが、実際はそういうことである。スミレの時は、ミハエルと同じ状況ではあったが、とある館の貴族の男が。という情報があったという。だからこそ少人数なんだろうなあという推測ができた。
「僕なら、逆に構えてしまうかもしれません。」
「え?」
「あ、ええと…僕がスミレさんならですよ。逆に一人の男の人のところに行けと言われると、慣れてもないわけですし…。」
ミハエルの言葉に、サディンはピクリと眉をはねさせた。なんだ、何かが引っかかる。スミレの時と同じ状況でも、ミハエルの時は言い方が違う。まるで、経験の浅いものに物怖じさせない為に言う気遣いのようなそれは、つまり。
「サディン、顔めちゃくちゃこわいよ。なに、どうしたの。」
「…なんでミハエルが慣れてないって知ってんだ。」
「え?」
「だって、そうだろう。俺たちはわざわざ振りをさせてまで潜入させたんだぞ。」
ぽかんとしているミハエルは、あまり状況がよくわかっていないらしい。シスは小さく息を呑むと、乾いた笑みを漏らした。
「はは、…なにそれ、めっちゃこわいじゃん…。」
「内部に潜んでる…?ミハエルが潜入することを知っているのは、カイン殿下と」
「い、イズナさんです。…イズナさんが、僕の衣装を用意してくれました…。」
カイン殿下からです、と言われたが、毎回細々としたものを用意するのは側近でもあるイズナだった。それでも、なんのためにイズナが情報を漏らすなどするのかがわからない。底しれぬ何かを感じて、サディンは小さく舌打ちをした。もしイズナが関わっているとしたら、カインが危ない。それに、ヨナハンとイズナの関わりも調べなくてはならないだろう。
「シス、お前はカルマとイズナを調べ上げろ。ヨナハンについてもだ。必ずどこかしらで繋がってるはずだ。」
「あいよ、」
「ぼ、僕は!」
「お前は…。」
息を詰めたまま、背筋を伸ばしてサディンを見上げる。まるで自身にも出来ることがあるかもしれないと思っている顔だった。
「…サリエル!」
渋い顔をしながら、サディンが唐突にサリエルを呼び出した。黒き炎を纏いながら現れた神は、ぷよぷよと浮かびながら、ミハエルの頭を肘置きにした。
「大方見張っておけというのでしょう、面白くないですねえ。」
「わかってるなら、ミハエルが無茶をしないように目を光らせろ。というか、俺の家につれてけ。」
「へ、な、なんでですかっ!」
頭に載せられたサリエルの不躾な腕を振り払うと、ミハエルはサディンに抗議をする。ここまで来て、お前は退場というのが嫌だったのだ。
「ミハエル。お前がいても息子殿の気が散るだろうよ。おわかり?」
「サリエル、言い方が悪くない?」
「おや淫魔。お前も俺への口の聞き方が大層悪くていらっしゃる。」
ゆらりと炎の髪を揺らめかせると、尖った黒い爪でシスの顎をなぞる。ミハエルがそれをやめさせると、まるでじゃれつくかのようにして後ろから抱きしめた。
「っ、ちょっと、はなしなさい!」
「息子殿の命、僭越ながらこのサリエルが承ろう。俺は暴れたいが、愛し子が御名を紡がねば暴れらんないしねえ。」
ぴとりとミハエルの頬に頬を重ねると、サディンは剣呑な視線を向ける。
「サリエル。近い。守れといったが密着しろとは言っていない。」
「息子殿の執着、うふふ。俺の体に伝わってくるよ、実に心地がよろしい。」
「ああ、相性が悪いな。俺のこのゆらぎまでもがお前の糧になるのか。」
「御名答。ご馳走さまでした。」
ぐぱりと耳の下まで口を裂けるように笑う。シスが引いた顔でサリエルを見れば、ミハエルは戸惑ったようにサディンを見た。
「ぼ、僕は…邪魔ですか、」
「巻き込みたくないだけだ。俺の家なら母さんもウィルもいる。帰ってくるから、そんな顔するな。」
「っ…、わ、わかりました…」
悔しそうな顔でうつむく。サディンはその頭を優しく撫でると、サリエルがぶわりと纏う炎を膨らませた。
「ならばオイトマ?しましょうねえ。ミハエル。」
「サディン、」
「構わん、いけ、サリエル。」
小さく頷くサディンに、サリエルがその炎をミハエルへまとわせた。後ろから抱き締めるかのようにして転移をした神を見送ると、隣でその様子を見ていたシスがため息交じりでサディンを見上げた。
「かっこつけ。」
「うるさい。」
先程とことなり、不機嫌になったサディンに面倒くさそうな顔をする。ミハエルの食べかけのバケットを鷲掴むと、残りをばくばくと平らげたサディンに、神様相手によく嫉妬できるなこいつと、呆れた視線を送った。
あれから、頃合いもそろそろだし昼飯でも食いに行くかと、シスとサディンにミハエルを加えて食堂に来ていた。そこで聞いたのは先程話題に上がった例の騎士のことだった。
「ヨナハンさんは、そうですね…とくにお友達はいなかったと思いますが…」
「子犬ちゃん、お友達じゃなくて仲間ね、仲間。でもさ、なんかへんなとことかなかった?なんでもいいんだよ、気になるなあってなったとことか。」
「そうですねえ…」
もむもむと両手にもったバケットをはむりと食べる。サディンが頼んでいたのを見て、自分も同じものを食べたいなあと思ったのだ。はみ出たサーモンを落とさないように慎重にパンの中に押し戻すと、ぺしょりと、手についたソースを舐める。
「あ。」
「なんだ、なんか見つかったか?」
「いや、ええと…あの時、夜会というか、宴って聞いてたんです。」
「ああ、それなら僕も聞いた。」
「…なので、もっと大人数かなあって思ってたんですよ。あと、ヨナハンさんも一番キラキラした人を探せっておっしゃいましたし。」
でも、実際は蓋を開けてみれば二人だった。数十人程度なら入りそうなホールに、二人だけ。ミハエルはそれも不思議だった。ヨナハンが送ってくれたのだ。だとしたらきっと、規模も把握していてもおかしくは無い。それなのに、実際はミハエルも入れると3人だけの夜会だ。まあ、内容は非常に濃いものになってしまったが。
「規模を間違えることとか、あんの?」
「末端なら情報は伝わってないんだろう。だけど、少し気になるな。」
「スミレの時は少人数だったって聞いてるよ。あのマイアとかいう変態貴族がハニトラしたらしいし。」
ナーガが繁殖できるように、自らが餌として男娼を釣った。言い方は悪いが、実際はそういうことである。スミレの時は、ミハエルと同じ状況ではあったが、とある館の貴族の男が。という情報があったという。だからこそ少人数なんだろうなあという推測ができた。
「僕なら、逆に構えてしまうかもしれません。」
「え?」
「あ、ええと…僕がスミレさんならですよ。逆に一人の男の人のところに行けと言われると、慣れてもないわけですし…。」
ミハエルの言葉に、サディンはピクリと眉をはねさせた。なんだ、何かが引っかかる。スミレの時と同じ状況でも、ミハエルの時は言い方が違う。まるで、経験の浅いものに物怖じさせない為に言う気遣いのようなそれは、つまり。
「サディン、顔めちゃくちゃこわいよ。なに、どうしたの。」
「…なんでミハエルが慣れてないって知ってんだ。」
「え?」
「だって、そうだろう。俺たちはわざわざ振りをさせてまで潜入させたんだぞ。」
ぽかんとしているミハエルは、あまり状況がよくわかっていないらしい。シスは小さく息を呑むと、乾いた笑みを漏らした。
「はは、…なにそれ、めっちゃこわいじゃん…。」
「内部に潜んでる…?ミハエルが潜入することを知っているのは、カイン殿下と」
「い、イズナさんです。…イズナさんが、僕の衣装を用意してくれました…。」
カイン殿下からです、と言われたが、毎回細々としたものを用意するのは側近でもあるイズナだった。それでも、なんのためにイズナが情報を漏らすなどするのかがわからない。底しれぬ何かを感じて、サディンは小さく舌打ちをした。もしイズナが関わっているとしたら、カインが危ない。それに、ヨナハンとイズナの関わりも調べなくてはならないだろう。
「シス、お前はカルマとイズナを調べ上げろ。ヨナハンについてもだ。必ずどこかしらで繋がってるはずだ。」
「あいよ、」
「ぼ、僕は!」
「お前は…。」
息を詰めたまま、背筋を伸ばしてサディンを見上げる。まるで自身にも出来ることがあるかもしれないと思っている顔だった。
「…サリエル!」
渋い顔をしながら、サディンが唐突にサリエルを呼び出した。黒き炎を纏いながら現れた神は、ぷよぷよと浮かびながら、ミハエルの頭を肘置きにした。
「大方見張っておけというのでしょう、面白くないですねえ。」
「わかってるなら、ミハエルが無茶をしないように目を光らせろ。というか、俺の家につれてけ。」
「へ、な、なんでですかっ!」
頭に載せられたサリエルの不躾な腕を振り払うと、ミハエルはサディンに抗議をする。ここまで来て、お前は退場というのが嫌だったのだ。
「ミハエル。お前がいても息子殿の気が散るだろうよ。おわかり?」
「サリエル、言い方が悪くない?」
「おや淫魔。お前も俺への口の聞き方が大層悪くていらっしゃる。」
ゆらりと炎の髪を揺らめかせると、尖った黒い爪でシスの顎をなぞる。ミハエルがそれをやめさせると、まるでじゃれつくかのようにして後ろから抱きしめた。
「っ、ちょっと、はなしなさい!」
「息子殿の命、僭越ながらこのサリエルが承ろう。俺は暴れたいが、愛し子が御名を紡がねば暴れらんないしねえ。」
ぴとりとミハエルの頬に頬を重ねると、サディンは剣呑な視線を向ける。
「サリエル。近い。守れといったが密着しろとは言っていない。」
「息子殿の執着、うふふ。俺の体に伝わってくるよ、実に心地がよろしい。」
「ああ、相性が悪いな。俺のこのゆらぎまでもがお前の糧になるのか。」
「御名答。ご馳走さまでした。」
ぐぱりと耳の下まで口を裂けるように笑う。シスが引いた顔でサリエルを見れば、ミハエルは戸惑ったようにサディンを見た。
「ぼ、僕は…邪魔ですか、」
「巻き込みたくないだけだ。俺の家なら母さんもウィルもいる。帰ってくるから、そんな顔するな。」
「っ…、わ、わかりました…」
悔しそうな顔でうつむく。サディンはその頭を優しく撫でると、サリエルがぶわりと纏う炎を膨らませた。
「ならばオイトマ?しましょうねえ。ミハエル。」
「サディン、」
「構わん、いけ、サリエル。」
小さく頷くサディンに、サリエルがその炎をミハエルへまとわせた。後ろから抱き締めるかのようにして転移をした神を見送ると、隣でその様子を見ていたシスがため息交じりでサディンを見上げた。
「かっこつけ。」
「うるさい。」
先程とことなり、不機嫌になったサディンに面倒くさそうな顔をする。ミハエルの食べかけのバケットを鷲掴むと、残りをばくばくと平らげたサディンに、神様相手によく嫉妬できるなこいつと、呆れた視線を送った。
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