こっち向いて、運命。-半神騎士と猪突猛進男子が幸せになるまでのお話-

だいきち

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 サディンたちが城でそんなやりとりを行なっている時である。
 
「へ、…ふひゅん…っ、」
 
 ミハエルはというと、エルマー宅のリビングでナナシたちと共に机を囲んでいた。情けないくしゃみをして恥ずかしそうに頬を染めると、おずおずと取り出したハンカチで鼻を抑える。
 
「わ、何風邪?医者の不摂生って感じ?」
「ミハエル、ユグのお茶あるよう、のむ?」
「や、ユグのお茶はちょっと、ミハエルが可哀想だからやめておこうね…」
 
 えー。と言いながらナナシが準備しようとしてくれたらしい、ガラス瓶に入れた真紫のスライム状のそれが、どぷんと大凡水気というには程遠い音を立てながらカップに注がれたのを見て、ミハエルはピシリと固まった。
 
「あ、や、ぼ、僕はこのお茶だけでだいじょうぶです…お、お構いなく…。」
「効くよう?遠慮するのいくないですからね、」
「あ、遠慮とかではなく…」
 
 冷や汗をかきながら首を振ると、ひょこりと顔を出したサリエルが、ミハエルの膝に顎を乗せた。大きな獅子の姿をとっている執着の神はというと、ややゲンナリとした顔をしながらおとなしくしている。獅子の顔で表情を歪ませる姿はなかなかに迫力があるのだが、それはウィルによって好き勝手されているのを、止めてくれという無言のアピールに他ならない。
 
「サリーちゃん、あんま動かないでよ。」
「ウグゥ…」
「サリーちゃん、ユグのお茶飲むう?お皿でどうぞ。」
「グァ…」
 
 ミハエルはいつも不遜な態度のサリエルが、文字通り猫を被ったかのようにおとなしいのが面白くてならない。小さく笑ってリボンの付けられた頭を撫でると、うぐるるると小さく喉を鳴らして抗議する。
 
「えるも、多分もうすぐ帰ってくると思う。ミハエル、お泊まりする?」
「いいじゃん、泊まろうよ。僕久しぶりにミハエルと遊びたいし。」
「え、それは構わないですけど…、エルマーさんの許可はいらないのですか?」
「ああ、おかーさんのやることに父さんがノーっていうことないから。」
 
 ニコニコ顔のウィルと、瓜二つのナナシが嬉しそうに尾を揺らしながらミハエルを見る。2人して顔面偏差値が高すぎて眩しいことこの上ない。もしかして、サディンも帰ってくるのかな。そんなことを思ってカップのお茶を一口のむ。
 お付き合いすることになりましたって言ったほうがいいのだろうか。ミハエルは、一度エルマーにサディンと共にベッドの上にいるところを見られている。自身が男娼役をかって出たせいで、遊んでいると思われたらどうしよう。そんなことを思って具合が悪くなってしまうほどには、物思いに耽っていたらしい。
 
「で、サディンとはどこまでいったの?」
「ンぐっ…!」
 
 なので、ウィルによって不意打ちに食らったその発言が衝撃的すぎて、ミハエルは飲んでいた茶を鼻に詰まらせた。
 
「ぇほっ!げほっ…!!」
「え、何何どうしたの。」
「はわ…サディン、やっとミハエルとくっついたのう…!」
「へ、へぁ…っ…な、なんでそれをっ!」
 
 ズビっと鼻をハンカチで抑えながら、涙目で2人を見る。ウィルはポカンとしていたが、ナナシは嬉しそうにブンブンと尾を振りながら頬を染めている。サリエルはというと、ウィルが飽きたことで解放されたらしい。本日はおさげ髪におリボンと、大変可愛らしくヘアアレンジをされた男神の姿に戻ると、ぷよぷよと空中であぐらを描いた。
 
「ウィル殿もお人が悪くていらっしゃる。腹の中から兄君の魔力をはなっているこいつに、気を使わなくてもいいんですよ。」
「えーーー!!セックスしたの!?やるじゃんサディン!」
「ウィル!その言葉はいくないですよう、繁殖って、えるが言えって。」
「繁殖も、いささか表現が露骨ではないでしょうか…。」
 
 穴があったら入りたい。ミハエルは顔の熱を隠すかのように両手で覆うと、その指の隙間からポソポソと声を漏らす。どうやら自分は口にしなくても良くなった。ナナシもウィルも家族の恋の話を聞きたいらしい。いつの間にかギンイロまでひょこりと現れると、器用にミハエルの隣の席に飛び乗った。
 
「ウーン、ミハエル、メスノニオイスル。」
「わ、エロじゃん。」
「ま、まだ一度しか…っや、ち、違いますっ!」
 
 墓穴掘ってる。とエルマーに似た意地悪な言い回しでウィルが揶揄う。ナナシはクッションがわりに尻尾を抱き締めると、頬を染めながら口を開いた。
 
「サディンね、ミハエルが小さい時から大切でした。あれは、きっと歳離れてるからだけじゃないですね。ナナシは嬉しい、たくさん恋人いましたけど、みんな付き合う子、ナナシに会わせてくれない。」
「まあ、おかーさんこれだしね。きっと会ったら会ったで怖気付いて逃げ出すでしょ。」
「ウィル、ナナシ怖い違うですね。怖い言われるの、えるですね。」
 
 ふんす、と納得いきませんと言わんばかりに言い返すナナシであるが、ミハエルも初見で母ですと紹介されたら逃げ出す自信がある。まずは己の目が何か患ってはいないかと、存在を疑う前に自身の体調を疑ってしまうくらいには、ナナシの存在感はすごいのだ。
 
「でもね、付き合うこ、みんな緑のお目目。えるが教えてくれた。ミハエル、よく似てるって。」
「あ、そうなんだよね。まじで拗らせてるから、みんな付き合うこはミハエルの下位互換ばっか。」
「え、」
 
 2人の言葉に、ミハエルが顔を上げる。そんなの知らなかった。確かに彼女と連れ立って歩いている姿を見たことはあるが、その時は涙で前が見えなかったのだ。二人の言葉によって、じわじわと鮮やかに顔を色づかせるミハエルのウブな反応に、ナナシもウィルもそわりとした。だって、その反応があまりにも可愛かったのだ。自分達の自慢の家族に、なんの衒いもなく真っ直ぐに大好きを差し出してきたミハエルは、ナナシたちにとっても大切だ。
 
「ウンウン、サディン面倒臭いところあるけど、飽きずに連れ添ってやって。」
「ナナシはミハエルの味方。サディンに泣かされたら、めってしてあげますよう。」
「ぁ、はい…お、おそれいりまふ…」

 サリエルは、半ば呆れたような目でミハエルを見ていた。終始恥ずかしがっているだけのくせに、自分よりも上位の神2人から祝福を受ける規格外のことを成し得ているのに、こいつはおそらく気がついていない。やれやれと言いたげな態度が表情に出ていたらしい。へっへっへと笑うような息遣いでギンイロから見つめられ、居心地が悪くなってゆっくりと目をそらした。


 
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