こっち向いて、運命。-半神騎士と猪突猛進男子が幸せになるまでのお話-

だいきち

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 多分そんな時間はないだろう。イズナの表情を見る限り、サディンはそれをわかっていた。だけど、潜入するにしても下調べだっているだろうし、それに魔物のオークションに出るのだとしたら、貴族のふりができるものが必要だろう。サディンの周りは粗野なものが多いし、潜入先では一人になっても身を守れるものがいい。
 そんなことを考えた結果、1人だけふさわしい人物がいたのだ。賢しくて、力があって、そして何よりも強い人物が。
 
「…ただ休息をとるために帰りたいっていってるんじゃない。そのオークションとやらに忍び込めるちょうどいい人材に声をかけてくるだけだ。」
「え?まさかウィルちゃん?確かに貴族って言っても通用できるだろうけど…」
「ウィルじゃない、むしろあいつは好奇心旺盛過ぎて魔物側として参加する方が向いている。」

 俺と同じような姿になれるし。とは言わなかったが。ジキルもカルマも、そんなやついたっけかと言わんばかりであった。マリーがおずおずと手をあげる。どうやらこの話の流れで思うところがあったらしい。
 
「あの、…マイアの家で見つかった赤ちゃんはどうするんですか。」
「ああ、そうだった…、一応今は医術局に面倒を見てもらっているが…、里親を探さなきゃだな。」
 
 全く、次から次へと頭の痛い問題が積載してくる。サディンは家に帰る前に一度様子を見に行こうかと決めると、マリーはその言葉にホッとはしたものの、まだ何かあるらしい。いいあぐねたまま結局は口をつぐんだ。
 
「何。なんか言いたいことあんならいいなよ。」
「あ、いや…」
 
 カルマが覗き込むようにしてマリーを見た。シスを刺した相手という認識が前提にあるので、少しだけ言葉に棘がある。マリーも自覚はある分しおらしくしていたのだが、やはりこうも風当たりの強い反応を返されると言いあぐねてしまう。
 
「カルマ、態度に出てるぞ。大人気ない。」
「…あんまビクビクすんなよ。」
「ご、ごめんなさい。」
 
 カルマは小さく舌打ちをすると、まるで腹に凝った澱みを吐き出すかのようにしてため息を吐く。壁に寄りかかるようにしてブスくれると、ジキルが渋い顔をしてチラリと見た。
 
「イズナ、見ての通り消化しきれてない奴の精神衛生も含めて、一日だけ休みをくれ。」
「…わかりました。何かあった時は魔物のフリをしろと言ってますし、セントールになっていればおそらく殺されることもないと思います。」
「やる日はわかるのか。」
「ええ、それはおそらく。珍しい魔物が入れば、魔法で知らせが来るので。」
 
 そう言って、イズナはハッとした顔をする。
 
「マイアの荷物はどこですか。おそらくそこに会員のものしかもてない証があるはずです。」
「それはカルマに任せる。見た目は?」
「時計です。蔦の模様が刻まれた懐中時計。」
「カルマ、わかってるな。」
「蔦のね。…って、あーーーーー!!!」
 
 カルマが了承するように頷いた次の瞬間、まるで何かを思い出したかのように声を張り上げた。一体何事かと言わんばかりにその場の目線が集中すると、カルマは忘れてた!と言いながら、先ほどの目玉をインベントリから取り出した。
 
「おまえ、なんで研究局にこんなもん送ってきたんだよ!」
「あ。」
 
 ずん、と一抱えもありそうな大きなその瞳孔をイズナに向けると、ああそれ。と何気ない雰囲気でイズナが言った。
 
「それ、新たな資材ですけど。」
「資材?」
 
 お前は一体何を言っているんだと言わんばかりにサディンが見た。ダラス宛に届けられたというそのキメラは、開封したと同時に襲い掛かってきたのだ。それが資材と一言で誤魔化すのは無理があるだろうと怪訝そうな顔をすると、思い出したようにカインが反応した。
 
「ああ、前にお前が話していた城壁の堀の件か。」
「ええ、確かダラス局長にも話していたかと思いますけど。それ、以前競り落とされた魔物が逃げ出して、野生化したものをヨナハンが捕まえたんですよ。」
「なんだ、お前知り合いが捕まえたって言ってたのは弟だったのか。」
「すみません、それを伝えてしまうと全てが無駄になってしまうかと思ったもので。」
 
 サディンもカルマもポカンとした顔で2人を見る。どうやらそれはダラスも知っているところだという。曰く、妊娠薬の話をしていくうちに流通の話になり、そうすると城壁の外にまれに現れる野盗対策をどうするか、という話になったという。最終的に、やはり妊娠薬を使って外交するのはやめようということで話はまとまったのだが、野盗対策のために、城壁周りの堀に使役した魔物を配置して、きちんとした手続きを踏んで入国するもの以外を取り締まろうということになったらしい。
 
「なので、それなら丁度いい魔物がいますよってことでお送りしたのですが。」
「いや、普通に考えて小包で届くとは思わないだろう…。」
「ああ、タネの状態だったのでいいかなと…。魔力を流さなければ成長もしませんし、触手で絡め取り、光線を発し見張りがわりにもなるってお伝えしたらぜひにと。」
「ええと、…要するに研究局の魔物テロはダラスの勘違いだったということか。」
「魔物テロ…?」
「いや、いい。気にしなくていい。」
「マジかよ。俺それ食っちゃったんだけど怒られっかな。」
「その時はフォローしてやる。」 
 
 飛んだ勘違いである。サディンは頭が痛そうに額を押さえたのち、その指の隙間からイズナを見た。
 
「あの、ミハエル殿は…今、どちらに。」
「おれんち。」
「なんだ、ダラスの家に帰ったんじゃなかったのか。」
「ああ、まあなんかあった時にすぐ守れるからな。」
 
 ジキルがひくんと耳を傾ける。カルマもきゅっと唇を真一文字に引き結ぶと、そんな2人を見上げたマリーはキョトンとした顔をした。
 おいやめろ。そんな大人気ないことをするな。2人の心は今、まさに一つであった。しかし、サディンはミハエルと付き合ってからは大人気なくなってしまったのだ。だって仕方がないだろう、拗らせた恋心を認めぬまま大人になってしまったのだから。
 
「それに、俺が今、正式に。ミハエルと付き合っているので。」
「ぶほっ…!!」
 
 それはもう、満面の笑みである。各所を強調するかのようにしっかりと区切りつつ、今まで見たこともないほどのいい笑顔を真正面から見たイズナは不整脈を起こすし、カインは王族がしてはいけないような下品な反応を返して吹き出した。
 
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