[改稿版]これは百貨店で働く俺の話なんだけど

だいきち

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二章 百貨店にくる顧客に情緒をかき乱される俺の話なんだけど。(大林梓編)

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 今までのセックスはなんだったのだろうと思ってしまほど、榊原との行為は麻薬染みていた。
 あの後、結局性器は抜かれないまま何度も求められた。優しく抱かれたのは最初の一度だけで、その後は泣き叫んでも離してはくれなかったのだ。それはもう、これでもかというほど体に教え込まれたおかげで、大林は大人だというのに、人様のベットの上で二回もお漏らしをした。

 可愛いね、いい子だね、よくできたね、えらいね。
 
 あの顔と、体と、低く甘い声で耳朶を喰まれながら、腹に榊原の性器を嵌め込んだまま甘やかされたのだ。今思えば、あれは榊原の無意識下でもお仕置きだったのかもしれないと思う。大林は泣き叫んだし、よがり狂ったし、最後は雌のようにはしたなく己の腰を揺らして、使い物にならなくなった性器を握らされ、自慰を見られながら漏らした。だって、己の上等な雄が喜ぶから仕方がなかった。散々喘がされて、体液まみれになって、風呂場で榊原の精液まみれの性器を舐めしゃぶり、味を覚えさせられて、そんでもって最後は喉奥に突っ込まれて盛大にゲロった。






「誠に申し訳ありませんでした。」

 日本人として、美しいと思えるほどの土下座を披露する榊原をベットの上から見下ろしながら、大林はタオルケットで下肢を隠したまま、終始無言であった。
 美人の無言の圧力というのは、なんというか迫力がある。様子を伺うように顔を上げれば、タオルケットの隙間からわずかに見えた艶かしい太腿に釘付けになった。

「諒さん。」
「アッハイ。」
「土下座いいからこっち来て。」
「はい喜んで。」

 大林の言葉ににっこりと微笑んで隣に腰掛ける。居酒屋かよというツッコミはなんとか堪えた。
 ベットを軋ませて、隣に腰掛けた榊原の腕が労わるように大林の肩を抱く。俺の体の一部に触れてなきゃ死ぬ病気でも罹っているのかと思うほど、当たり前のように触れてくる。構わないのだが、まだ許してはいないのだ。

「俺、セックスでしっこ漏らしたのも、フェラでゲロ吐いたのもあんたが初めて。」
「そうなんだ。うん、すっごく可愛かった…」
「あんたの性癖、絶対おかしい…俺、しばらく諒さんとエッチしない…」

 すん、といった真顔で告げられた大林の一言に、榊原の笑顔は分かりやすく固まった。油が切れたロボットのような動きで、ぎこちなく大林の顔色を伺う。その表情は耳まで真っ赤に染め上げながら、下唇をちょんと突き出した、小さい子が拗ねているような顔である。
 この子は、自分が顔面がいい事に気がついていないのだろうか。そんな無防備に愛らしい顔をして、襲われでもしたらどうするのだと思うと、気がきではない。そんな、お前がそれをいうのかと拳を頂いてしまいそうな思考は、榊原の冷静な判断によって口に出されることはなかったが。

「…梓、無理だよ、止まれるわけ無いじゃん。」

 榊原の手のひらが、優しく大林の髪を梳く。申し訳なさを宿した素直な言葉に、大林はじんわりと染まった顔を隠すようにして膝を抱えた。
 ふうん、止まれるわけないんだ。そんな、照れまじりの思考を口に出さないようにしたのは、その反応が榊原を喜ばせてしまいそうだったからだ。
 長い腕が抱き寄せるようにして大林の身を引き寄せる。助けてくれた時も、セックスの時も、あんなに雄を出していて格好よかったのに、今はその角が取れてしまったかのように穏やかな口調だ。 
 
「ずっと肌に触れたかったし、止まれる自信なんて最初からなかったよ。それに、あの時は本能が全面に出てしまったというか、まあ、…無理だよ。」
「………。」

 困ったような、少しだけ気恥ずかしそうに曰う姿をちろりと見つめる。大林は、照れを誤魔化すかのように口元をふにゃ、と緩めると、慌てて顔を隠した。榊原の素直な吐露が嬉しかったのもあるが、己を取り繕うかのように怒っているんだぞというスタンスを貫いていた手前、今更もういいよ、とは言えなかったのだ。
 握り込まれた手のひらに、榊原の掌が重なる。優しく握り込まれると、そっと髪に口付けられた。

「ちょ、」
「うん、ごめんね。」

 衣擦れの音がして、その身を榊原にキツく抱きしめられる。タオルケットが邪魔だ。なかったら、大林の素肌に触れられるのに。

「すんげえ嫌だったよ、俺。」
「え、」
「路地裏でさ、倒れてる時の話。」
「あー…」

 榊原が目にした大林なりの禊は、衝撃と共に脳裏に焼き付いた。この体を蹂躙されたのだと思うと、いてもたってもいられなくなったのだ。
 抱きこまれる腕の力が増して、宥めるように男らしく筋肉のついた腕を撫でる。大林がおとなしくしていれば、榊原はゆっくりと顔を上げた。

「相談もなしに先走って、そんで、危ない目に遭って。」
「…ご、ごめん、」
「お前がそんな行動を取ってしまうほど俺が好きだったんなら、もっと早く体に教え込めばよかったって、思った。」
「ふえ、」

 淡々と語る榊原の言葉に、大林がぽかんとする。その顔を包み込むように両頬に手を添えると、整った顔立ちに翳りを乗せながら、その瞳に大林を捉えた。

「自分を卑下するなら、してもいいよ。でも、俺がお前に差し出す気持ちだけは素直に受け取って。」
「う、うん、」

 額が重なった。懇願じみた榊原の言葉に、大林は照れ臭さと、申し訳なさを滲ませた頷きを一つする。
 素直な様子に満足そうに微笑んだ榊原をちろりと見上げると、そっと鼻先に口付けられた。
 榊原を勝手に測って、行動をしたのは大林だ。それは、変えられない事実でもあり、二人の間には傷として残るだろう。それでも、同じ気持ちを重ね合わせた今ならば、なんの衒いもなく言える気がした。

「諒、さん、あの、」

 なんて言えばいいかわからない、告白なんてしたこともなかったからだ。散々獣染みたセックスをしておいて、今更何を怖がる必要があるのだとも思ったが、それでも大林は少しだけ緊張した。

「だいす、き、」

 これが、限界だった。本当は、愛してると言いたかった。でも、気恥ずかしくてダメだった。
 頬が熱い、添えられた手がゆっくりと頬から離れて、それを目で追うように榊原を見つめた。

「……………。」

 両手で顔を隠したまま、榊原は硬直していた。
 ぽかんとした顔の大林をそのままに、耳まで赤く染め上げた榊原は、指の隙間から絞るようなか細い声で、ちょっと待って。と宣っている。
 榊原の情緒は、大荒れだ。好きです、じゃなくて大好き。の言葉が、大林の健気さの象徴のようでもうダメだった。愛おしいがすぎて、その言葉を真正面かぶつけられて、どうしていいかわからない。
 そんな、静かに荒ぶっている榊原を前に、大林も少しだけ照れた。きちんと口にすることができたのが嬉しかったのもあるが、予想外の反応を返す榊原が可愛くて、込み上げてくるものがあったのだ。

「激しくしたの、許してあげるから顔見せて。」
「…俺今すごい情けない顔してるからちょっと。」
「俺の情けないとこ見て興奮してたくせに今更すぎる。」
「ぐうの音もでねえ…」

 大林の一枚上手な言葉に、ゆっくりと顔を上げる。普段はあんなにかっこいいのに、照れると可愛いのがなんだかずるい。大林はその鼻先に口付けると、ぎゅうと頭を抱き込んだ。
 その柔らかな髪質を楽しむように撫でれば、ぎこちなく背中に腕を回してくる。照れている、可愛い。俺の雄がこんなにも可愛い。そんな具合に、お互いのいろんなところを曝け出した二人は、順番は色々と間違えてはしまったが、きちんと互いの素直を差し出すことができた。

「ここに住んで、俺の面倒見てくれる?」
「うん、」
「毎日一緒に寝てくれる?」
「いいよ、」
「一緒に墓参りもしてくれる?」
「わかった、」
「じゃあ、お礼参りもしてきていい?」
「はいはい…って、どさくさに紛れて治安の悪いこと言うなっつの。」

 危うく、流されるところであった。榊原は不貞腐れたように舌打ちはしたが、大林としてはそれはもう終わったことである。苦笑いを浮かべたまま嗜めると、榊原は渋々、本当に渋々頷いた。
  
 換気もしてない部屋で、二人してだらしのない格好のまま、榊原が買ってきた形の崩れたケーキを突き合う。
 綺麗に飾ってあっただろうそれは、味の予想を色でしか判断できないほどに潰れてしまっていた。二人で同じ味を半分個して、けれどそれが嬉しくて、今度はきちんと二人でケーキを食べられたと、些細なことで喜んだ。
 揃いのフォークで食べるそれは、不恰好な愛を差し出し合うようである。二人の思い合う形は、単体だと歪ではあるものの、重ねるとかちりと嵌るのだ。
 大林の見かけによらず健気なところは榊原だけ知っていればいいし、榊原の仄暗い部分も、大林だけが知っていればいい。一人で抱える心の傷が互いにあっても、それが互いの愛おしいと思う部分であったりするのだ。
 榊原は危うげで、泣き虫で、相手を思いすぎて先走る愚かな部分も愛しく思うし、大林は榊原の、大人気ないところも、オンオフがはっきりしすぎているところも、そして性格もあまり良くないところも愛している。
 拗らせて、こんがらがって、大きな感情で固めた大きすぎるハートを、二人でワタワタしながら支えてるような、そんな愛。
 
「明日から、よろしく?」
「明日からも、だろ。」

 手短で済ませた恋なんかじゃない、胸が苦しくて、切なくて、それでもやっぱり諦めきれなかった恋だったから、下手くそに努力をした。
 形を成せない愛だからこそ、互いが互いを縛るのだ。
 榊原につけられた噛み痕は傷として残りそうだけれど、それでもよかった。それで、よかった。
 これは自分の首輪だし、榊原の手綱でもある。この噛み跡に込められた想いこそが二人にとっての執着の証なのだから。





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