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その他一話完結短編集
夏の大火傷 悲恋
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夏の匂いがした。
なんだよそれ。バカにしていた比喩表現を使う日が来るとは思っていなくて、思わず変な声を出すところだった。
それはきっと、夕暮れ時、電線の上に留まるカラスと同じ音域だったに違いない。
恋の病ってやつは、ずいぶん面倒な心地になるものだな。教え込んだこにくたらしいあいつの影はぐんと伸びて、アスファルトに影を刻み込む。
「俺のが長い」
「はぁ~!?」
にい、と笑みを浮かべた隣の男の汗が、きらりとひかる。夏の、クソ暑い日差しの中だ。伸びた影が並びながら先をいく道すがら、時折ぶつかる高校の指定バックの方がずいぶんと仲良しだ。
無機物の方が先に進んでいる。そんなことを思って、また恋を自覚して変な声を堪える。
馬鹿野郎、いつまでもぬるま湯に浸らせてくれよ。
夏の終わりはまだ先だ。それでも、自覚した恋の終わりはもう目前で、夕暮れが痛いほど目に沁みて泣きそうだ。
幼馴染は飛んでいく。夏の終わりとともに、薄っぺらくて丈夫な冊子が邪魔をする異国へと。
空を見上げるたびに飛行機雲を睨みつけるのも、もう直ぐおしまいだ。
「お前なんかどこへでもいっちまえ!」
「なんだよ寂しがり」
「あーあ、早く夏がおわんねえかなあ」
「まだまだ先だな」
おわんねえかなあ。本当に。
暑い暑いと言いながら、焼けるような温度を孕む鞄を押し付け合う。火傷なんてどう頑張ってもできやしない。戯れはジリジリと体の内側を焼くのにだ。
見上げることも苦じゃなくなってきたのに、空の上とかこんちくしょう。
「俺ばっかお前見上げてんの、嫌だな」
ボソリと呟いた言葉は、飛行機の音にかき消された。どこまでも高いところに行く馬鹿野郎に負わされた夏の大火傷は、きっと治ることもないのだろう。
なんだよそれ。バカにしていた比喩表現を使う日が来るとは思っていなくて、思わず変な声を出すところだった。
それはきっと、夕暮れ時、電線の上に留まるカラスと同じ音域だったに違いない。
恋の病ってやつは、ずいぶん面倒な心地になるものだな。教え込んだこにくたらしいあいつの影はぐんと伸びて、アスファルトに影を刻み込む。
「俺のが長い」
「はぁ~!?」
にい、と笑みを浮かべた隣の男の汗が、きらりとひかる。夏の、クソ暑い日差しの中だ。伸びた影が並びながら先をいく道すがら、時折ぶつかる高校の指定バックの方がずいぶんと仲良しだ。
無機物の方が先に進んでいる。そんなことを思って、また恋を自覚して変な声を堪える。
馬鹿野郎、いつまでもぬるま湯に浸らせてくれよ。
夏の終わりはまだ先だ。それでも、自覚した恋の終わりはもう目前で、夕暮れが痛いほど目に沁みて泣きそうだ。
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空を見上げるたびに飛行機雲を睨みつけるのも、もう直ぐおしまいだ。
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見上げることも苦じゃなくなってきたのに、空の上とかこんちくしょう。
「俺ばっかお前見上げてんの、嫌だな」
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