なんだか泣きたくなってきた

だいきち

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僕の名前はきいちです

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記憶にある限りでは、恐らく4、5歳の頃だ。
ちんまい足をめいっぱい使って背伸びをして、紅葉のようなその幼い手のひらを太陽にかざす。

すると不思議なことに、自分の手が太陽の光を取り込んで赤く光るのだ。
大人になった今では、皮膚の下に張り巡らされた血潮が透けて見えていただけだとわかるのだが、当時はその現象が特別なものに感じられ、毎日の礼拝を欠かさない信徒のように神聖な気持ちで行っていた。

この手のひらで取り込めるだけの力を蓄えていったら、自分はヒーローになれるんじゃないか。

大人なったら、世界救お。

根拠のない自信を形あるものにする為に、毎日繰り返してエネルギーを取り込んだ。
稚拙な考えしかできない幼児が、初めて自分以外の何かの為に努力した。

自分は空っぽの器だ。温度計の中の水銀が上昇するように、自分の体に力をため込んで行けばいい。
そんなことを思いつく位、当時は色々な出来事があり過ぎた。 

今は、無彩色の器は無くなった。何度も何度も塗り重ね、汚れを味と偽って出来上がった骨董品だ。手にとり、まじまじと見られてしまえば直ぐに見かけ倒しだということが分かるに違いない。
だから選ぶのだ。手を取ってくれる物好きを。

          











何考えているかわからないから、ちょっと怖い。
これは、僕が幼稚園児の頃に先生から親が言われた言葉だ。

普通こんなことを言われてしまえば、雷の一つでも落とすだろう。でも、うちの親は違った。

「上等。」

この二文字に、一体どれだけの意味が込められていたのか、計り知れない。我が母君は、本当にそれだけを言い捨てると、用は済んだとばかりにその場から去ったらしい。

らしい、というのは先生から教えられ、親がすみませんと謝った記憶があるからだ。

「きいち君のママは何をしてる人?」
「わかんない。けど、つよいよ。」
「つよいんだ…。」

強いのである。弱きものには手を差し伸べよ、言い訳をするな、自分が正しいと思った道にすすめ。それと、喧嘩をするなら、殴られてから。

オメガの男嫁である我が母君は、それはもう男らしく僕のことを育てた。若くして出産したので苦労もあったであろう、我が息子に苦労はさせんとばかりの幼稚園児に対する、番長教育だ。

幼い僕は、母の掲示した方針を心にとどめつつ、この園内でどう人と関わっていくか、自分の足場を固めていける様に必死で日々を過ごしていた。

おかげさまで、幼いながらとっつきにくい糞ガキになった僕は、幼稚園という集団環境の中にうまく馴染めず、時には他人を巻き込んでのトラブルを起こした。

「お医者さんごっこしようよ!」

事の発端は、みーちゃんの一言だった。

「みーちゃんのパパはお医者さんなの!だからみーちゃんがお医者さん役ね!」

きいち君は患者さん役!と、完全に蚊帳の外にいたつもりが気付いたらごっこ遊びに強制参加されていた。

「え?僕もやるの?」

寝耳に水である。呼ばれたからには反応せねばと幼いながらも処施術を身につけていた僕は、しぶしぶお絵かきの手を止める。


「きいち君も仲間に入れてあげてって、いっつも先生が言うんだもん!」


不本意だけど、あたしは優しいから仲良くしてあげるね?と、幼いながらもリーダー意識を芽吹かせたはた迷惑な提案のせいで、彼女の人生に大きな変化をもたらしてしまう。

その時はあんまり乗り気じゃないなぁ…と思っていたが、みんなの人気者だったみーちゃんに誘われたことで若干舞い上がっていた僕は、選ばれたからにはいい演技をしなくてはと、表情にはでないものの謎の使命感に燃えていた。


「きいち君はじゅうびようにんだからしゅじゅちゅね!」
「じゅうびようにんってなぁに?」
「おなか痛くて寝てる人のこと!」
「おなかいたいふうにすればいいの?」
「うん!だからおなか見せてくださいね!」

青いギンガムチェックのレジャーシートはさながら手術台ということらしい、あおむけに寝かされた僕は、さっそく支持されたようにもがき苦しむそぶりを見せた。

「うー!うー!」

ころころと転がりながら、お腹を押さえつつ抑え込もうとしてくる小さい手から逃げてみる。

「先生!大変です!きいち君がころころします!」
「これはじゅうしょうかもしれません!皆さん押さえてください!」
「うー!いたいよー!」

小さな幼児の手は押さえつけようにも範囲が狭い。そのせいか、体全体を使って二人係で抑え込んでくるので、図らずとも変なリアル感を醸し出していた。
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