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暴君エクストリーム
しおりを挟む幼児を抜け出して児童に昇格した僕は、家から歩いて三十分以上かかる小学校へと進んだ。
子供の足では結構な距離で、重いランドセルを背負いながら高学年の児童とともに通学する。特に、高学年の引率は可もなく不可もなくで、お姉ちゃんお兄ちゃんというワードを使えば、低学年ながらもうまく立ち回ることができた。
他愛もない会話を聞きながら、僕の頭の中には目の前の景色が特別なものに見えていた。幼稚園の頃は、家の周辺と幼稚園の付近にある公園と駐車場しかなかった狭い世界が一気に開けたからだ。
大型車両が行きかうせいで凸凹になった道を、大人は悪路だと文句を言っていたが、僕の中の世界では真夜中に人知れず歩く巨人の足跡だと思っていたし、なんなら工事車両が駐留する砂利だらけの広場のマンホールでさえ、決められた回数ノックすればお宝がでてくると思っていた。
この通学路は、僕にしか見えないもう一つの世界であり、6年かけて攻略すべきイベントが詰まったダンジョンだったのだ。
「すごい!洋服がきらきらしてる!」
当時、女子の間で流行っていたのはラメが施されたサーフ系ブランドのTシャツで、この装備をしているかどうかで序列が決まるというある種のステータス表示の役割を担っていた。
もちろん、男子は男子らしくバトル鉛筆やネリ消し、流行りのカードゲームなんか持ってきた日には、その日の実権を握ったと言ってもいいだろう。
そんな男子である僕がなぜ女子の洋服に興味を示したかというと、たんに憧れたからだった
「由香ちゃんは強いからきらきらしてるの?」
「ちがうよ!由香は確かに強いけど、これはおしゃれっていうんだよ!」
「俊くんの持ってる暴君エクストリームも強くてきらきらしてる!」
「俊くんとおそろいなの?由香が?」
「うん、俊君の暴君エクストリームと!」
へぇ、そうなの?と強くてキラキラしている由香ちゃんがまんざらでもなさそうにし、きょろきょろとあたりを見回した。由香ちゃんが捜している俊君は、クラスの女子からひそかにモテているサッカー少年で、目鼻立ちの整った利発そうな少年だ。
将来イケメンであることを約束されたかのような彼だが、実は僕の大親友でもあるのだ。
「俊君!もっかい僕にエクストリームみして!」
「いいよ!そのかわり帰り一緒にかえろうな!」
「いいよ!あと由香ちゃんがエクストリームとお揃いなの!」
「エクストリームと、おそろい?」
俊君が、こいつは一体何を言っているんだ…?とばかりに眉をひそめる。当然である。何せさっきから僕がクラス1おませさんでおしゃれな由香ちゃんと比較しているのは、児童達に大流行しているカードゲームに出てくる召喚獣の中でも一番強い、砂漠の国を支配する筋骨隆々の顔の怖い男神のことだからだ。
冷静になってみても由香ちゃんとの共通点はレアカードに施されるラメ加工と、由香ちゃんが怒るとむき出しにされる歯茎ぐらいだった。ちなみに暴君エクストリームは常に歯茎むき出しでの威嚇顔だ。
「由香もみして!」
「え、由香ちゃんに?やだよ」
「なんで!由香に似てるんでしょ?」
「強いとこも似てる!」
「きいちが言いだしっぺか!」
「でへへ」
「みしてくんなきゃひっかくよ!」
「えぇええぇぇ」
俊君は戸惑ったように僕と由香ちゃんを見比べた後、心底めんどくさそうな顔をして、由香ちゃんに向けて1本、指をたてた。
「見ても怒らないし、引っ掻かないって約束してくれたらいいよ。」
ピシッと由香ちゃんに向けて人差し指を突き付けながら約束を取り付ける俊君を見て、僕も由香ちゃんも少しだけキュンキュンしてしまう。やっぱり、俊君はかっこいい。
「いいよ!由香と俊君、2人の約束!」
僕もいるんですけど!とも思ったが、どうやら由香ちゃんは俊君のことが好きらしい。この時ばかりは空気を読んでやるかと子供ながらに気を使ったのだったが、これが後に悲劇を生むのである。
「…しょうがないな」
俊君は、何か勘違いをしてキラキラ見つめてくる由香ちゃんに何とも言えないような大人な顔をしながら、まるで赤点を取ってしまったテストを親に見せるような勢いあるしぐさで、暴君エクストリームを由香ちゃんの目の前に近づける様にして差し出した。
「わ、…」
近すぎるカードに一瞬焦点が合わなかったのか、身を引いてまじまじとカードを見る。その由香ちゃんの顔から徐々に赤みが消え、やがて真顔になるまでの表情の変化に、僕たち二人は何かをしくじったことを理解した。
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