なんだか泣きたくなってきた

だいきち

文字の大きさ
4 / 273

暴君エクストリーム

しおりを挟む

幼児を抜け出して児童に昇格した僕は、家から歩いて三十分以上かかる小学校へと進んだ。
子供の足では結構な距離で、重いランドセルを背負いながら高学年の児童とともに通学する。特に、高学年の引率は可もなく不可もなくで、お姉ちゃんお兄ちゃんというワードを使えば、低学年ながらもうまく立ち回ることができた。


他愛もない会話を聞きながら、僕の頭の中には目の前の景色が特別なものに見えていた。幼稚園の頃は、家の周辺と幼稚園の付近にある公園と駐車場しかなかった狭い世界が一気に開けたからだ。

大型車両が行きかうせいで凸凹になった道を、大人は悪路だと文句を言っていたが、僕の中の世界では真夜中に人知れず歩く巨人の足跡だと思っていたし、なんなら工事車両が駐留する砂利だらけの広場のマンホールでさえ、決められた回数ノックすればお宝がでてくると思っていた。

この通学路は、僕にしか見えないもう一つの世界であり、6年かけて攻略すべきイベントが詰まったダンジョンだったのだ。



「すごい!洋服がきらきらしてる!」

当時、女子の間で流行っていたのはラメが施されたサーフ系ブランドのTシャツで、この装備をしているかどうかで序列が決まるというある種のステータス表示の役割を担っていた。

もちろん、男子は男子らしくバトル鉛筆やネリ消し、流行りのカードゲームなんか持ってきた日には、その日の実権を握ったと言ってもいいだろう。

そんな男子である僕がなぜ女子の洋服に興味を示したかというと、たんに憧れたからだった

「由香ちゃんは強いからきらきらしてるの?」
「ちがうよ!由香は確かに強いけど、これはおしゃれっていうんだよ!」
「俊くんの持ってる暴君エクストリームも強くてきらきらしてる!」
「俊くんとおそろいなの?由香が?」
「うん、俊君の暴君エクストリームと!」

へぇ、そうなの?と強くてキラキラしている由香ちゃんがまんざらでもなさそうにし、きょろきょろとあたりを見回した。由香ちゃんが捜している俊君は、クラスの女子からひそかにモテているサッカー少年で、目鼻立ちの整った利発そうな少年だ。

将来イケメンであることを約束されたかのような彼だが、実は僕の大親友でもあるのだ。

「俊君!もっかい僕にエクストリームみして!」
「いいよ!そのかわり帰り一緒にかえろうな!」
「いいよ!あと由香ちゃんがエクストリームとお揃いなの!」
「エクストリームと、おそろい?」

俊君が、こいつは一体何を言っているんだ…?とばかりに眉をひそめる。当然である。何せさっきから僕がクラス1おませさんでおしゃれな由香ちゃんと比較しているのは、児童達に大流行しているカードゲームに出てくる召喚獣の中でも一番強い、砂漠の国を支配する筋骨隆々の顔の怖い男神のことだからだ。

冷静になってみても由香ちゃんとの共通点はレアカードに施されるラメ加工と、由香ちゃんが怒るとむき出しにされる歯茎ぐらいだった。ちなみに暴君エクストリームは常に歯茎むき出しでの威嚇顔だ。

「由香もみして!」
「え、由香ちゃんに?やだよ」
「なんで!由香に似てるんでしょ?」
「強いとこも似てる!」
「きいちが言いだしっぺか!」
「でへへ」
「みしてくんなきゃひっかくよ!」
「えぇええぇぇ」

俊君は戸惑ったように僕と由香ちゃんを見比べた後、心底めんどくさそうな顔をして、由香ちゃんに向けて1本、指をたてた。

「見ても怒らないし、引っ掻かないって約束してくれたらいいよ。」

ピシッと由香ちゃんに向けて人差し指を突き付けながら約束を取り付ける俊君を見て、僕も由香ちゃんも少しだけキュンキュンしてしまう。やっぱり、俊君はかっこいい。

「いいよ!由香と俊君、2人の約束!」

僕もいるんですけど!とも思ったが、どうやら由香ちゃんは俊君のことが好きらしい。この時ばかりは空気を読んでやるかと子供ながらに気を使ったのだったが、これが後に悲劇を生むのである。

「…しょうがないな」

俊君は、何か勘違いをしてキラキラ見つめてくる由香ちゃんに何とも言えないような大人な顔をしながら、まるで赤点を取ってしまったテストを親に見せるような勢いあるしぐさで、暴君エクストリームを由香ちゃんの目の前に近づける様にして差し出した。


「わ、…」

近すぎるカードに一瞬焦点が合わなかったのか、身を引いてまじまじとカードを見る。その由香ちゃんの顔から徐々に赤みが消え、やがて真顔になるまでの表情の変化に、僕たち二人は何かをしくじったことを理解した。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染から離れたい。

June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。 βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。 番外編 伊賀崎朔視点もあります。 (12月:改正版) 8/16番外編出しました!!!!! 読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭 1/27 1000❤️ありがとうございます😭 3/6 2000❤️ありがとうございます😭 4/29 3000❤️ありがとうございます😭 8/13 4000❤️ありがとうございます😭 12/10 5000❤️ありがとうございます😭 わたし5は好きな数字です💕 お気に入り登録が500を超えているだと???!嬉しすぎますありがとうございます😭

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

【完結】それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ずっと憧れていた蓮見馨に勢いで告白してしまう。 するとまさかのOK。夢みたいな日々が始まった……はずだった。 だけど、ある出来事をきっかけに二人の関係はあっけなく終わる。 過去を忘れるために転校した凪は、もう二度と馨と会うことはないと思っていた。 ところが、ひょんなことから再会してしまう。 しかも、久しぶりに会った馨はどこか様子が違っていた。 「今度は、もう離さないから」 「お願いだから、僕にもう近づかないで…」

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

【本編完結】才色兼備の幼馴染♂に振り回されるくらいなら、いっそ赤い糸で縛って欲しい。

ホマレ
BL
才色兼備で『氷の王子』と呼ばれる幼なじみ、藍と俺は気づけばいつも一緒にいた。 その関係が当たり前すぎて、壊れるなんて思ってなかった——藍が「彼女作ってもいい?」なんて言い出すまでは。 胸の奥がざわつき、藍が他の誰かに取られる想像だけで苦しくなる。 それでも「友達」のままでいられるならと思っていたのに、藍の言葉に行動に振り回されていく。 運命の赤い糸が見えていれば、この関係を紐解けるのに。

【BL】声にできない恋

のらねことすていぬ
BL
<年上アルファ×オメガ> オメガの浅葱(あさぎ)は、アルファである樋沼(ひぬま)の番で共に暮らしている。だけどそれは決して彼に愛されているからではなくて、彼の前の恋人を忘れるために番ったのだ。だけど浅葱は樋沼を好きになってしまっていて……。不器用な両片想いのお話。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

大好きな婚約者を僕から自由にしてあげようと思った

こたま
BL
オメガの岡山智晴(ちはる)には婚約者がいる。祖父が友人同士であるアルファの香川大輝(だいき)だ。格好良くて優しい大輝には祖父同士が勝手に決めた相手より、自らで選んだ人と幸せになって欲しい。自分との婚約から解放して自由にしてあげようと思ったのだが…。ハッピーエンドオメガバースBLです。

処理中です...